世界の企業や工場を対象に業務改善の指導を続ける豊田エンジニアリング代表取締役の堀切俊雄氏が、書籍『トヨタ流原価マネジメント』(日経BP)を著した。確実に利益を生み出すためにトヨタ自動車が実践している優れた原価マネジメントを基に、多くの企業が実践できるように体系化したものだ。「実践すれば、利益を最大化できる」と語る堀切氏に、トヨタ流原価マネジメントを習得する上でのポイントなどを聞いた。(聞き手は近岡 裕=日経クロステック)
儲けるために必須のマネジメント
原価マネジメントの内容を本にまとめようと思ったきっかけは何ですか。
堀切氏:財務会計(企業会計)の本はたくさん出版されています。しかし、利益を増やしたり、原価を低減したりするためのマネジメントに関する本は、非常に少ない。そう気付いたことが、1冊の本にまとめたらどうかと考えるきっかけとなりました。
私の会社(豊田エンジニアリング)は企業に対して工場指導や教育、コンサルティングを行っています。こうした活動から日々、様々な会社の情報を得ていますが、会社をたたむところは利益を出せず、赤字体質から抜け出せなかったというのが大半です。そうした会社の経営者と話していて、気付いたことがあります。ほとんどの経営者が「税理士や会計士に企業会計を担ってもらえば、儲(もう)かるようになる」と勘違いしていることです。
これに対し、私は「そうではありませんよ」「それは誤解ですよ」と説明するのですが、なかなか理解してもらえません。
財務会計は、企業活動の結果です。従って、結果が出てきたときには、既に過去の話になっている。ここで赤字だったり、利益が少なかったりしても、その結果に対して過去に遡って手を打つことはできません。そうではなく、企業の経営では「結果」を良くしなければなりません。従って、利益を増やそう、原価を下げようと運営することが本来の仕事なのです。
例えば、原価を下げるには経理部門も主体的に取り組む必要があります。ところが、大抵の会社の経理部門は「それは私たちの仕事ではありません」「原価低減なんてやったことがありません」と言います。肝心の経理部門が原価マネジメントを行っていない。これはまずい。原価マネジメントをぜひ理解してもらいたいという思いで筆を執りました。

他社に差をつけるチャンス
改めて、原価マネジメントとは何でしょうか。初めて聞く人にも理解できるように、分かりやすく教えてください。
堀切氏:原価マネジメントを一言で表すと「会社の業績を向上させる活動」です。トヨタ自動車が高い収益を生み出すために活用しているQCD(品質、コスト、納期)のうちのC、すなわちコスト(原価)を低減するためのマネジメントのこと。これにより、原価を低減し、利益を創出します。もっと平たく言えば、企業が儲けるためのマネジメントとなります。
一方、財務会計は会社の業績の集計です。主に仕事の金銭的な成果を集積したり、分析したりします。しかし、過去のことなので結果は覆りません。財務会計の結果を良くするには、原価マネジメントを実践しなければならないのです。
原価マネジメントの下では、全社員が日々の業務の中で、原価を考えながら仕事を構築していきます。原価を下げたり、利益を増やしたりすることを考えて仕事を行い、かつそれらをマネジメントします。
野球で例えると、もっとイメージしやすいかもしれません。財務会計はスコアの集計、すなわちスコアラーの仕事です。これに対し、原価マネジメントはプレーのマネジメント。選手と監督が試合に勝つために共に知恵を絞り、全力で戦う。そのためには、様々な戦略や戦術を駆使して点を取りにいかなければなりません。その際に必要なマネジメントが、原価マネジメントに相当するというわけです。
原価をおろそかにすれば失点する、すなわち損失を生んでしまいます。しかし、スコアラーにはその損失を防ぐための動きは期待できません。だからこそ、原価マネジメントが必要だと言っているのです。
トヨタは年間数千億円の原価低減
どのくらいの企業が原価マネジメントを実践しているのでしょうか。逆に、トヨタ自動車は原価マネジメントによってどのような成果を得ているのでしょうか。
堀切氏:残念ながら、原価マネジメントを実践している企業はほとんどないと思います。私がコンサルで関与した多くの企業は、費用の上限を設定する予算管理はありますが、原価マネジメントを行っていませんでした。赤字だったり利益が少なかったりして、本来ならもっと儲けられるはずなのに、とてももったいないと感じています。
そうした企業に私が原価マネジメントの話をすると、いろいろな反応があるのですが、中には「財務会計の原価と原価マネジメントの原価の数字がイコールでなければ駄目だ」と言う経営者がいました。製品が10種類もあるのに、それを合計した原価だけを見ているのです。要はどんぶり勘定。これは本来、費用であって原価ではありません。
原価の理解ができていないのです。原価は基本的に商品別に割り出す必要があります。なぜなら、後で改善しようにも解析ができないからです。10種類の製品でどんぶり勘定してしまうと、どの製品で儲かっているかが分かりません。
先の通り、各部門が今年度に使える予算(費用)を管理している会社はあります。多くは、前年度の実績を基に+10%とか-5%とかいった具合に予算を決めています。原価低減や利益の創出は意識されていません。
これでは各部門の損得勘定が見えません。例えば、儲かる費目にもっと予算をつぎ込んで、さらに儲けるといった対応ができないのです。
原価マネジメントを実践すれば、当然、業績が良くなります。これから造る製品の原価を下げつつ、製品の付加価値を検討して最善の販売価格を追求していくという、儲けるための活動をマネジメントするのですから。
トヨタ自動車の場合、原価マネジメントによって、1年当たりで大体、数千億円規模の原価低減を実現しています。決算報告における営業損益の増減要因にその数字が載っています。同社はこれにより、営業利益を増やしたり、原材料費の高騰をカバーしたりしているのです。
(次回へ続く)
[日経クロステック 2025年8月5日付の記事を転載]
堀切俊雄著/日経BP/1万1000円(税込み)
