世界の企業や工場を対象に業務改善の指導を続ける豊田エンジニアリング代表取締役の堀切俊雄氏が、書籍『トヨタ流原価マネジメント』(日経BP)を著した。確実に利益を生み出すためにトヨタ自動車が実践している優れた原価マネジメントを基に、多くの企業が実践できるように体系化したものだ。本書の抜粋を掲載する。第1回は、儲かる会社と儲からない会社の違いについて。

 原価マネジメントの概要に入る前に、儲(もう)かる会社と儲からない会社について説明しましょう。

 日本には多くの会社があり、儲かっている会社から赤字の会社など様々です。「うちの会社は儲け主義ではなく、世の中に貢献することが会社の方針です」という会社もあります。しかしながら、赤字では事業の継続もできませんし、世の中に貢献したくても継続できないことになります。

 筆者自身はトヨタ自動車を定年間際に退職し、コンサルタント会社を始めました。この20年以上の間に様々な国内外の会社(コンサルをした会社、コンサルを断られた会社、単に調査をした会社など)に遭遇しました。

 コンサルへの相談事は両極端でした。「事業は順調だが、もっと成長したい」、「業務の内容を充実させたい」、「従業員の満足度を向上させたい」といった前向きな相談がある一方で、赤字が続き、銀行からこれ以上赤字が続くと融資が難しくなると言われたのでどうしたらよいかという相談もありました。しかし、ここまで両極端であっても、実は会社にアドバイス・指導を行うコンサルの仕方はそれほど変わりません。

 赤字が続く会社や利益が低迷している会社には共通点があります。そうした会社の実態を模式的に表した図1で説明しましょう。

図1 赤字の会社、利益が低迷している会社
図1 赤字の会社、利益が低迷している会社
(作成:筆者)
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 ある会社は、毎年1億円の赤字が10年間続き、銀行にこれ以上融資できないと言われました。この会社の社長から受けたのは黒字化したいとの依頼。そこで、筆者は会社の実態を把握することから開始しました。社長の説明では、10%の原価低減の会社方針を立てて社内に展開しているとのことでした。

 ところが、実態は図1のように、方針を受けた各部長のうち、ある部長は自分の部は原価とは関係ないと判断して方針を無視していました。ある部長は原価の理解が不十分で原価の低減方法が分からないため、原価低減の仕事が分からないまま部下(課長)に指示していました。指示を受けた課長は部長と同じく理解が不十分な状態で部下(スタッフや現場の組長)にその指示を流す。当然、実務を担当しているスタッフや組長たちは原価を低減できません。肝心の経理部の部長は「私の部の仕事は会社の決算・財務会計を行うことです。原価については担当していません」と言い出す始末です。

 結局、社長の出した会社方針である10%の原価低減を実行している社員はこの会社に1人もいませんでした。このような実態だったので10年間も赤字が続いていたのです。

 こうした日本企業は珍しくありません。似たような会社は数多くあります。経理部の仕事は会社の決算・財務会計・予算管理を行うことだけですとか、予算管理は行っていますが、原価は経理部の仕事ではありませんとかいう会社がなんと多いことか。

儲からない会社の事例

 家庭用製品を造っている日本のある製造会社の例です。この製品は日本製と欧州製があり、価格的には厳しい市場です。この製品を2010年ごろまでは中国で生産し、日本と米国、欧州に輸出していました。しかし、中国の人件費や外注部品などの経費が上がり、ベトナムに生産拠点を移しました。

 日本の本社には社長(オーナー)をはじめ数人が勤務しています。この会社はベトナムに法人会社を造り、そこには約1000人のベトナム人と数人の日本人が駐在して勤務しています。会社の実態は工場が主体です。ベトナムの法人会社は社長と経理部、調達部は日本人の駐在員が運営しています。

 日本の社長の悩みはベトナムの会社が赤字であることでした。何とか利益が出るようにしたいので、ベトナムの法人会社を調査して診断してほしいと依頼されました。日本の社長は日本におり(数年間もベトナムには出張していない)、現地の日本人からのメールで情報を得て指示を出すことで会社の運営をしていました。

 早速、筆者は現地に出張して調査を開始しました。財務会計は経理部の日本人の部長と日本人のスタッフの2人で処理していました。「各部署への原価改善の働きかけの活動はどうしていますか」と質問したところ、「原価改善の仕事は経理部の仕事ではありません。財務会計のデータは会社の機密情報です。他の部署に原価の情報を流すことはできません。経理部の2人だけで財務会計のデータを取り扱っています」と回答があり、驚きました。

 この工場には約1000人の従業員が勤務しているのに、原価を低減する仕事は誰も手掛けていない。原価低減に必要な従業員に対して原価の教育もしていない。財務会計の業務は法律上必須ですが、これは期ごとの会社の活動の結果を集計することです。この会社には、結果を良くしたり原価低減したりする活動(原価マネジメント)が行われていないのです。

 続いて、外注部品を調達する調達部の日本人部長にヒアリングを実施しました。この工場では外注部品が原価の80%を占めていました。「外注部品の原価構成はどうなっていますか」と筆者が質問したところ、「部品会社は部品の見積書は出しますが、原価の明細は出しません」と回答がありました。そこで、「価格査定はどのように行っていますか」と聞いたところ、「見積書の価格をベースに決定します」との回答でした。ベトナムで調達した方が低価格な部品が多々あるのに、依然として中国から輸入している部品が数多くあるのです。この点で、中国の部品会社からのリベートが調達関係者に流れていると感じました。

 日本の社長はこのような実態を把握できていなかったのです。このような運営状態では赤字になるのも当然だと思いました。当初はこの会社が例外だと思っていましたが、しばらくして、こうした日本企業は数多くあり、社員全員が原価を考えて仕事をしていないのが一般的だと思うようになりました。

 半期ごと・月ごとの決算を行っているから、うちの会社は大丈夫だと思っている経営者もいます。しかし、半期ごと・月ごとの決算であっても、仕事が終了してから仕事の成果を半期ごと・月ごとに集計しているだけです。こうした経理部は利益を出すための仕事を行っているとはいえません。

 こうした会社の経営者や経理部の仕事は、野球に例えると、野球の勝敗に直接的に関与していないスコアラーです。もちろん、スコアの分析データは次の試合の作戦には有効ですが、野球の勝敗に直接的に関与しているのは選手・コーチ・監督です。

 会社の経営は野球の運営と同じく、従業員・管理者・経営者がQCD(品質、コスト、納期/リードタイム)を業務の中で実現することです。言い換えれば、QCDを考えて業務を変え、付加価値のある業務にすることです。すなわち、業務の改善です。

 企業向けコンサルティング業界では、財務諸表を分析する会計系コンサルタントが主流を占めています。しかし、過去の仕事の結果である帳簿や会計を見て財務諸表を解析し、処方箋を書いてアドバイスを行うだけでは、会社の実態は良くなりません。会社で行われている業務をコスト面を重視した業務へと変革する必要があります。しかも、その対象は全従業員となるのです。これが原価マネジメントです。

 トヨタ自動車の例を挙げると、トヨタ自動車の経理部(または財務部)は、企業会計の業務だけではなく、会社の利益が出るように会社の他の部署へ働きかけて、原価の教育や原価のデータ収集、原価の低減を促す仕事を行っています。利益を出すには経理部の中だけの仕事では不十分であり、会社全体が原価に取り組むように促す仕事を行っています。

 会社の様々な組織に属している人たちは、原価を常に考えながら業務を遂行する、すなわち業務の改善を行っている──。コンサルタント会社を始めた当初はこれが普通であると考えていましたが、こうした会社(トヨタ自動車)はまれであり、例外に近いと次第に理解するようになっていきました。

 知り合いの税理士に尋ねると、「会計士税理士は原価をほとんど知らないし、原価が自分の仕事とは思っていません」との回答でした。確かに、会社の業績を集計・分析する財務会計を担う税理士や会計士は国家資格になっています。会社が儲かるようにすることが大事なのに、会社が儲かるようにする原価マネジメントの概念は認知されていないし、原価マネジメントの資格もないと気づきました。

 原価マネジメントの講演をしたり、会社を指導したりする活動だけでは不十分。もっと広く知ってもらいたいと思い、筆を執ったのが本書というわけです。

(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
会社の様々な組織に属している人たちが、原価を常に考えながら業務を遂行することが重要(写真:metamorworks/stock.adobe.com)

儲からない会社の特徴

 トヨタ自動車とある会社の業績を比較したのが図2です。

図2 トヨタ自動車とある会社の業績比較
図2 トヨタ自動車とある会社の業績比較
2000年代のある年度を見た。(作成:筆者)
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 トヨタ自動車は利益が出ていますが、ある会社は赤字です。経理部の人たちは両社とも有名大学の出身者です(すなわち、人材に大差はありません)。財務会計は一定のルールで集計するため、経理部が優秀だからといって利益が出るということはありません。会社全員の仕事の結果(付加価値)を集計しているため、各社員の仕事次第で利益が出たり、赤字になったりします。各社員の仕事と原価(利益)は密接に結びついています。

 では、儲からない会社の特徴(弱点)は何でしょうか。次のような特徴(弱点)があります。

儲からない会社の特徴(弱点)

  • (1)企画・生産:内外製の判断基準(外注のほうが低コスト)
  • (2)企画:商品開発時に原価なし⇒かかったコストに利益を上乗せ
  • (3)企画:購入部品の原価見積もり(推定)ができず、提示された価格の分析ができない(購入価格の決定で不利になる)
  • (4)生産管理:不良を見込んだ上積みの生産計画、例えば、顧客からの受注数の20%増しの生産計画を立てる(2割コスト高)
  • (5)工場:原価の内容が分かる管理が行われていない⇒製品別・ショップ別などの原価分析ができない
  • (6)企画・設計:設計者が原価を算出できない
  • (7)企画・経理:新規事業・新製品の原価企画が不透明
  • (8)企画:海外で生産する原価と日本国内での原価の比較分析ができない(国内・海外での調達先の判断を間違える)
  • (9)経営・経理:経済性検討ができない(将来の投資を間違える)
  • (10)経営・経理:自職場や製品別の変動費・固定費が整理されていない
  • (11)経営・経理:会計と原価マネジメントの違いが分からない(原価管理とは?)
  • (12)原価低減を推進しているものの、従業員が何をやってよいのか分かっていない

 会社収益を上げるためにいろいろ行っていても、こうした弱点があると、これらを克服するためには財務会計のデータだけでは不十分です。原価企画から始まる原価マネジメントが必要となります。

(書籍『利益を最大にする実践的手法 トヨタ流原価マネジメント』を基に再構成)

堀切俊雄(ほりきり・としお)氏 豊田エンジニアリング代表取締役
堀切俊雄(ほりきり・としお)氏 豊田エンジニアリング代表取締役
1966年にトヨタ自動車入社以後、約36年にわたって生産技術部、海外生産企画部、海外技術部、GPC、中国部などに在籍。海外では、台湾の国瑞汽車(トヨタの海外工場)の技術部兼製造部部長を務める。定年時は中国主査。同社退職後、トヨタ生産方式などのコンサルティングを手掛ける豊田エンジニアリングを設立し、代表取締役として活躍。2008年に豊田マネージメント研究所を設立。日本はもとより、海外でも積極的に指導を行っている。著書に『新しいトヨタ生産方式「トータルTPS」』(日経BP)、『トヨタの原価』(かんき出版)などがある。(写真:上野 英和)

日経クロステック 2025年8月7日付の記事を転載]

本書は、トヨタ流「原価マネジメント」の指南書です。原価マネジメントとは、トヨタ自動車が高い収益を生み出すために活用しているQCDのうちのC、すなわちコスト(原価)を低減するためのマネジメントのこと。200点を超える豊富な図表を用意し、かつ成功事例を盛り込んで、分かりやすく解説しました。

堀切俊雄著/日経BP/1万1000円(税込み)