2023年8月にメジャーデビュー10周年を迎えたSKY-HIさん。2020年には、音楽事務所BMSGを設立し、自ら代表取締役CEOに就任。高校生の頃から憧れていた起業の夢をかなえました。そこに至るまで時間をかけて地道に準備をしてきたそうですが、実際に起業をするに当たって一番役に立った本があったといいます。その運命の1冊について、語ってくれました。

SKY-HIはなぜAAAのオーディションを受けたのか

 起業を志したのは、高校2年生の頃です。男女混合のパフォーマンスグループAAAのメンバーとして活動していましたが、それより少し前からヒップホップにハマっていて、ヒップホップ関連の本や雑誌を読みあさっていたんです。

 その頃は、音楽を作りながら大人になりたいとぼんやり思っていたのですが、表に出るアーティストとそれ以外の音楽の職業についていまいちよく分かっていませんでした。でも、『JAY-Z ロッカフェラ王朝を築いたヒップホップの帝王』(ジェイク・ブラウン著、トランスワールドジャパン)を読んでみたら、音楽業界で働くということがすごく具体的になったんですよね。

本書は品切れ・重版未定です。古書店、インターネット書店などで入手することができます
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 その時点では、まだ自分が表に出るとは考えてもいなくて、大学を卒業したらレコード会社とか音楽業界のどこかで仕事しながら、仕事以外の時間で音楽を作る生活を送るんだろうなと思っていました。結果として、今とは全然違うんですけど(笑)。

 そんな経緯でヒップホップと音楽の知識を次々に仕入れていったわけですが、その延長線上で音楽レーベル「デフ・ジャム・レコード」を設立したラッセル・シモンズという存在に出会ったんです。

 「すごい人がいるなあ」と、感動しましたね。同時に「ラッセル・シモンズみたいな人って日本にいないのかな」と思って、調べてみたんです。そうしたら、エイベックスの松浦(勝人)さんに行き当たりました。一代で音楽業界をこんなに大きくした人が日本にいるんだなと思ったら、松浦さんに直接会ってみたくなって。それがAAAのオーディションを受けたきっかけでした。

 音楽をやる人間として、10代のうちに何かしらアクションを起こしたいなと思い始めていた頃でもありました。

「大学を出ると22歳ですよね。もう少し若いうちに始めておけば、失敗しても許してもらえそうだとも考えて(笑)」
「大学を出ると22歳ですよね。もう少し若いうちに始めておけば、失敗しても許してもらえそうだとも考えて(笑)」
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 でも、実際にオーディションを受けて松浦さんと会う機会はあったものの、言葉を交わすようなチャンスには恵まれず、ずっと不完全燃焼でしたよ(笑)。だから最後までオーディションを受け続けられた、というのはあると思います。

 デビュー後も、数々の本に影響を受けてきました。松浦さんが、自身の軌跡を書いた社内向けの資料『avex way』もその1つ。今でも松浦さんのアメブロから読むことができますが、貸レコード店のアルバイトから始めた話は、読みながら自分に重ね合わせて、夢を描けました。

 20歳を過ぎた頃に読んだ、『ラッセル・シモンズの成功哲学 ヒップホップ精神で成功を引き寄せる12の法則』(ラッセル・シモンズ、クリス・モロー著、フィルムアート社)にも、大きな影響を受けました。

本書は品切れ・重版未定です。古書店、インターネット書店などで入手することができます
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起業で失敗しないためのバイブル

 そうやって少しずつ、音楽業界で働き続けること、起業することがイメージできるようになっていきました。

 そして2018年、本気で起業しようと思い始めたときに出合い、起業を現実的なものにしてくれたのが、 『起業の科学 スタートアップサイエンス』(田所雅之著、日経BP) です。

 起業の準備をするに当たって先輩方からいろいろな本を紹介してもらいました。なかでも一番刺さったのが、この本。

『起業の科学 スタートアップサイエンス』
『起業の科学 スタートアップサイエンス』
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 本をめくると、起業のプロセスが、図解を使って細かく書いてあります。しかも、国内外のいろんなスタートアップの事例が出てきて、組織の仕組みやVC(ベンチャーキャピタル)との付き合い方、失敗のパターンが分かりやすく解説されていて。とにかく、具体的なんです。

 僕はこの本のおかげで、起業というものが一気にリアルになったんです。どうやって進めたらいいのか。どこに落とし穴があるのか。自分が進むべき道のりをシミュレーションすることができて、始める自信がついたというか。一言で言えば、成功するための本じゃなくて、失敗しないための本ですね。

 この本は、クラウドファンディング事業を行っている「うぶごえ」代表の岡田一男さんから薦めてもらいました(編集部注/BE:FIRST結成後、BMSGは「うぶごえ」でクラウドファンディングを行った)。岡田さんは以前、エイベックスで働いていて、その頃からのお付き合いです。

 エイベックスを辞めた後に岡田さんは「うぶごえ」を起業して、さまざまなチャレンジのなかで、スタートアップかいわいの皆さんとたくさん出会ってきた。だから、成功している人もたくさん見てきたけれど、失敗した人もたくさん見てきているわけです。その上で、「起業しようと思っている」僕に、この本を紹介してくれました。

 『○○力』のようなタイトルの、やる気を喚起する自己啓発本も悪くはないと思いますが、もし本当に起業をしようと思う人がいたら、起業への道筋が明確になるこの本をまず読んだほうがいいと思います。それくらい、お薦めの本ですね。

 この本で書かれていることが実際に役立ったことは数知れずありますが、特に忘れられないのは、松浦さんに起業についての報告をしたときのことです。

松浦勝人氏に面と向かって「独立宣言」

 数年かけて起業の準備をして、独立することを伝えに、松浦さんに会いにいきました。起業の大先輩、憧れの松浦さんに直接、自分の意志をお話しするわけですから、それはそれは緊張しましたし、心して向かいました。

 すると、「共同経営者はいるのか」「社長は誰がやるのか」「株主構造はどうなっているのか」など、経営に関する質問を次々に浴びせられたんです。でもね、その答えのほとんどは『起業の科学』にあったんですよ。「あ、これ書いてあったやつだ!」みたいな。「テストの山が当たった!」という感覚。あんちょこみたいな感じです(笑)。まさか、こんなところでも役立つなんて。やっぱり、バイブルですね。

 そして、「共同経営者はいません。100%自分1人で責任を持って代表をやります」と最後に宣言したら、「じゃあ、好きにやりなよ」ってお許しが出た。というのも、芸能人の名前を使いたいだけで共同経営を持ち掛けてくる人も少なくないようで。松浦さんの、厳しくもある鋭い質問攻めは、僕たちアーティストを守るためだったんですね。

取材・文/磯部麻衣 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) ヘアメイク/椎津 恵 写真/上野裕二(SKY-HIさん)、スタジオキャスパー(本)

■変更履歴
記事掲載当初、本文中の編集部注に誤りがありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2023/09/20 13:30]