日本銀行(日銀)が3カ月ごとに発表する「日銀短観」は、日本企業全体の景気がどのような状況になっているかを知るために有効な指標です。海外からも「Tankan」と呼ばれ、注目されています。日銀短観とはどのようなもので、最近の動きはどうなっているのでしょうか。ビジネスで成果を上げるうえで必須のスキルである経済データの読み方を解説した日経文庫『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』(小宮一慶著)から抜粋して解説します。

海外からも注目される重要な調査

 日本企業全体の景気がどのように動いているかを知るには、まず日銀短観に着目します。これは日本銀行が3カ月に1度実施している「全国企業短期経済観測調査」という調査の結果をまとめたものです。短観は「たんかん」と読みますが、海外の関係者の間でも「Tankan」と呼ばれているほど、日本の景気動向を知るうえで重要な調査です。

 この調査は、さまざまな業種の大企業と中小企業を対象としています。「3カ月前に比べて業績は良くなったか?」「3カ月後の業績をどう思うか?」「資金繰りはどうか?」「人員は余っているか?」など、いろいろな切り口で調査します。景況感や資金繰り、雇用、商品やサービスの需給、在庫、販売価格、設備投資、研究開発費など、企業に細かく質問するのです。興味のある人は、日銀のホームページに調査結果が掲載されていますので、一度見てみることをおすすめします。

 短観の数字は、「良い」と答えた企業の割合(%)から「悪い」と答えた企業の割合(%)を引いた値を示しています。「さほど良くない」という中間的な答えも認めているので、例えば、景況感が「良い」が30%、「さほど良くない」が50%、「悪い」が20%ならば、プラス10となるのです。

 こういう計算方法で算出する指標のことを「DI」(Diffusion Index)と呼びます。DIは変化や傾向の方向性を知るうえでは分かりやすい数字ですが、少し良くてもかなり良くても一律に「良い」とみなしますので、変化の量や傾向の度合いを把握することはできません。ただ、私の見方になりますが、この数字が20を超えていると好調と判断しています。

米中貿易摩擦による悪化

 では、実際の数字をコロナ禍前から見ていきましょう。景況感を表す「業況判断」の2018年3月調査の結果は、「大企業・製造業」は24、「大企業・非製造業」は23。6月調査は21、24。9月調査は19、22。製造業も非製造業も20前後を維持していますから、この年は景気が安定していたといえます。

 ところが2019年に入ると、非製造業は20強で推移しているものの、製造業は3月は12、6月は7、9月は5、12月は0と悪化し続けました。この理由は何でしょうか。

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 答えは、米中貿易摩擦です。2016年11月に大統領に選出されたトランプ氏は、対中貿易赤字の解消と貿易の不均衡の解消を公約に掲げました。そして2018年3月に、中国の鉄鋼製品などに対して関税を引き上げると宣言したのです。その後もトランプ氏は次々と中国製品への関税の引き上げを実施。これに対し中国も報復措置として米国からの輸入品に関税をかけました。その結果、2018年末には、米国は中国製品の約半分、中国は米国製品の約7割に関税をかける事態に発展したのです。

 当然のことながら、日本企業もその影響は避けられません。中国に拠点を置く日本企業の中には、米国への輸出に対中関税がかけられた製品やその部品を取り扱うケースが多々あります。これらの企業は、関税引き上げ分を自社で負担したり、値上げに踏み切ったりして対応しましたが、業績悪化につながっていきました。こうして価格競争力を失った企業は、生産拠点を中国から他の国や地域に移すケースもありました。日本の製造業は中国と米国に依存している割合が大きいので、米中摩擦の問題は業績にかなり響いてしまうのです。

 米国では、2024年11月に大統領選挙を控えています。もし、ここでもう一度トランプ氏が当選したら、米中貿易摩擦が再び起こってしまう可能性も低くありません。ロシアとの関係から中国の自由主義諸国との分断も懸念されます。もちろん、日本企業への影響も考えなければなりません。

コロナ禍とインバウンドの影響

 日銀短観に話を戻します。2020年に入ると新型コロナウイルスの感染が拡大し始めましたから、製造業も非製造業も大幅に悪化しました。6月調査では製造業がマイナス34、非製造業がマイナス17と、空前の落ち込みを見せました。

 2021年に入ると少しずつ回復し始め、9月調査で製造業は18まで戻しました。ところが、非製造業は2となっています。非製造業は国内事業を中心としているところが多く、コロナ禍の影響で飲食店やホテル業、観光業などを中心に低迷が続いていたのです。

コロナ禍は飲食店やホテル業、観光業に大きなダメージを与えた(写真:maroke/stock.adobe.com)
コロナ禍は飲食店やホテル業、観光業に大きなダメージを与えた(写真:maroke/stock.adobe.com)
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 2022年は、非製造業は徐々に回復してきましたが、逆に製造業が悪化しました。2022年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まったからです。これによって小麦などの食糧、半導体生産に必要なレアガスやレアメタル、液化天然ガス(LNG)をはじめとするエネルギー資源などの供給網が寸断され、半導体不足やエネルギー価格の高騰が起こりました。

 もう1つ、中国が打ち出したゼロコロナ政策も重なりました。中国での生産にも大きな影響が出たほかに、世界最大のコンテナ港である上海港が封鎖されてサプライチェーンに影響が出たのです。物流機能が制限されてしまい、一部の自動車メーカーでは必要な部品を日本に届けることができず、工場の稼働停止を余儀なくされたケースもありました。

 2023年になってようやく、製造業、非製造業ともに回復基調に入りました。特に非製造業は、12月調査で30と大きく上昇しています。コロナ禍による影響が緩和されてきたことに加え、価格転嫁が進んだことで7期連続の上昇となったのです。

 特に伸びているのは、「宿泊・飲食サービス」です。2023年12月の訪日外国人数は273万4000人となり、コロナ禍以降最多を更新したうえ、12月としても過去最多となりました。同年8月に東京電力福島第一原発の処理水の海への放出が始まったことなどで中国人の日本への渡航は以前ほどではありませんが、それでもインバウンド(訪日客)は増え続けているのです。

 このように日銀短観を見ると、日本企業が置かれている現状を詳細に把握することができます。ここでは景況感のみピックアップしましたが、興味のある方は雇用、物価、設備投資、需給などの状況を調べてみてください。

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小宮一慶著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)