日本経済は約30年にわたって苦しめられてきたデフレから脱し、ようやくインフレに転じました。インフレは、経済の拡大につながり、私たちの生活を豊かにしてくれるのでしょうか。ビジネスで成果を上げるうえで必須のスキルである経済データの読み方を解説した日経文庫『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』(小宮一慶著)から抜粋して解説します。
なぜ30年ぶりに物価が上がり始めたのか
2022年から原油や原材料の価格が上がり始めたうえ、円安によって輸入物価が上昇したことで、日本では食品、日用品、光熱費など、多くのモノやサービスの値上げラッシュが続きました。家計のやりくりに頭を悩ませている人も多いのではないでしょうか。
日本経済は約30年にわたって続くデフレに苦しめられてきました。ここでようやくインフレに転じたわけですが、それは本当に私たちの生活を豊かにしてくれるのでしょうか。そして、日本銀行が掲げてきた「物価目標2%」を達成し、経済の拡大につなげることはできるのでしょうか。
インフレ率とは、「消費者物価指数の上昇率」を意味します。この消費者物価指数とは、日本国内のモノとサービスの小売価格の水準を総務省が調査して、毎月発表しているものです。基準年(現在は2020年)の物価水準を100として指数化しています(基準年は5年ごとに改定していますので注意してください)。これには、幅広い商品やサービスを対象とした総合指数と、物価変動の大きい生鮮食品を除いた生鮮食品を除く総合指数(コア指数)があります。一般的に「インフレ率」を指す指標は後者の生鮮食品を除く総合指数の上昇率(前年比)です。
日本はバブル崩壊後である1990年代半ば以降、約30年にわたり、インフレ率が0%前後を推移するデフレ傾向が続いていました。ところが、2022年は前年比プラス2.3%と大幅に上昇。先にも触れましたが、この時期から食料品のほか光熱費が上がり始めたことが話題になりましたね。
なぜ物価が上がり始めたのでしょうか。2022年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。このウクライナ危機によってエネルギーや食料価格が上昇。さらに、日米の金利差が拡大して円安も進み輸入物価が上昇、食料品から光熱費、生活必需品まで幅広い範囲で大きな影響を受けたのです。
もう1つ、2022年後半には政府が「ウィズコロナ」の方針を示し、感染拡大防止と経済活動の両立を図る方向に舵(かじ)を切りました。それによって経済活動がある程度回復し、人手不足が加速したことも重なったと考えられます。
「良いインフレ」と「悪いインフレ」
ただ、インフレ率は数字だけを見ていては誤った解釈をしてしまいます。インフレには、「良いインフレ」と「悪いインフレ」があるのです。
原油などの資源価格が上昇したり円安が進んだりすると、モノを輸入する際の価格、輸入物価が上昇し、インフレ圧力が高まります。景気が悪い中で輸入物価が上昇すると、お金が海外に流出するだけで何もいいことがない、コストプッシュ型の「悪いインフレ」となります。一方、国内の景気が回復して給与が上がることで需要が高まり、消費者物価が上がっていくのであれば、ディマンドプル型の「良いインフレ」となるのです。
私はインフレ率を「経済の体温計」と捉えています。景気が回復すると給料が上がって消費も伸びますから「良いインフレ」が起こりやすく、インフレ率が上がる傾向があるからです。基本的にはインフレ率が上がると、経済が活発化していると判断していいでしょう。
もちろん、インフレ率が上がるときは「悪いインフレ」の場合もありますから、物価上昇の要因には注意が必要です。戦争などで資源価格が上昇したり、円安によって輸入価格が上がったりというように、コストプッシュ型のインフレには必ず原因があります。
インフレ率が高くなりすぎてしまう場合にも注意してください。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)は、インフレ目標を2%に設定しています。欧州中央銀行(ECB)も2%前後です。日銀も同様です。一般的に各国の中央銀行は、自国の経済状況などを加味したうえでインフレ目標を定めているのです。
この水準を大きく超えるようになると、インフレが過熱して消費、ひいては国民生活にも影響が出て、景気の悪化が懸念されます。そこで中央銀行は金利を上げてインフレの加熱を抑えようとします。このように経済の体温は、人間の体温と同じように上がりすぎても下がりすぎてもよくないのです。
GDP、失業率、旅行取扱状況、粗鋼生産高、日経平均株価など経済データを関連づけて見れば、日本と世界の動きがつかめます。40年間ウオッチし続けてきた人気コンサルタントが、国内外のニュースを紹介しながら、実際の経済・社会の動きと連動した生きた指標の読み方を解説。
小宮一慶著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)


