不動産市況を見るための指標として「マンション契約率」や「新設住宅着工戸数」があります。これらはコロナ禍でどのように動いたのでしょうか。また、日本銀行が2024年3月にマイナス金利政策を解除したことがどのように影響するのでしょうか。ビジネスで成果を上げるうえで必須のスキルである経済データの読み方を解説した日経文庫『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』(小宮一慶著)から抜粋して解説します。
「マンション契約率」を見る際の注意点
今回は、不動産市況を見るための指標を紹介します。マンションの市況を読むためにはマンション契約率を見ます。マンション契約率とは、民間のシンクタンクである不動産経済研究所が、首都圏と近畿圏の新築分譲マンションの契約率を調べた数字です。
一般的には「70%が良し悪しの目安」といわれていますが、私はこの見方をあまり信用していません。というのは、この数字は、あくまでも発売戸数に対する契約率なので、率が高いからといって、必ずしもマンションの売れ行きが好調というわけではないからです。景気が悪くてマンションが売れにくい時期には、不動産会社がマンションの新築件数を抑えようとして、分母が減ります。したがって、一概にこの数字から景気の良し悪しを判断することはできません。
実のところ、契約率よりも在庫数を見るほうが、マンション業界の好不調を的確に判断できます。ときどき、新聞などに「新築分譲マンションは○カ月分の在庫がある」といった記事が掲載されていますので、注意して見るようにしてください。
これらの点に注意しながら、マンション契約率の数字を追ってみます。首都圏のマンション価格は2021年度あたりから上がり始め、東京23区を中心に高騰し続けています。人手不足による建設などのための人件費の高騰や原材料費の増加のみならず、マンションの需要が供給を上回っていることも重なり、価格が上がり続けているのです。日本人が住むために購入するだけではなく、中国人が投資目的で高級マンションを購入するケースが増えています。
マンション契約率の数字を振り返ると、コロナ禍前もその後も70%前後の水準が続いています。2023年も70%前後で推移していますが、ときどき50~60%台の低い数字が出ている時期があります。なぜ下がっているかというと、高い物件が多く売り出されたタイミングだと契約率が落ちる傾向があるからです。逆に、比較的リーズナブルな物件が出るときは上がりやすくなります。
今後も今までと同じように70%前後の水準が続いていく可能性が高いのですが、注意しなければならないのは長いスパンで見た場合の変化です。もし、中国の富裕層や投資家が日本の不動産を売り始めると、一気に市況が悪化する可能性があるからです。日本は長期的に人口が減少していますからね。
当然のことながら、不動産、特に新築マンションは供給量が一定しているわけではありません。売れなくなると供給を絞ります。先にも説明したように、マンション契約率だけを見るのではなく、在庫数や平均販売価格なども見なければなりません。
金利上昇の影響がどのように出るか
もう1つ、不動産市況を見るための指標に新設住宅着工戸数があることを付け加えておきます。先ほどのマンション契約率は新築マンションのみが対象でしたが、新設住宅着工には集合住宅のほか戸建ても含まれます。この指標は、住宅を新築する際に建築主が都道府県知事に工事の届け出をした件数を月ごとに集計した数字です。「持ち家」「貸家」「給与住宅(注・社宅など)」「分譲住宅」の4つに区分されており、さらに地域別の数字も発表されています。
住宅価格が高騰していると聞くと、住宅市場は活況かと思われるかもしれません。しかし新設住宅着工戸数の推移を見ると、2015~2019年は90万戸を超えていましたが、コロナ禍に突入した2020年には81.5万戸まで減少し、そこから少し回復したものの2023年は81.9万戸と、4年連続で90万戸を下回りました。
確かに需要はコロナ禍から回復しつつあるのですが、原材料費の高騰や人件費の上昇によって住宅価格が高止まりしていることに加え、物価上昇にともなう実質賃金の減少によって、消費者のマインドが冷えつつあるのです。また、人口、特に若年層の人口が減少していることも影響が出始めています。
この指標は、金利の動向にも敏感に反応します。住宅の建築主や購入者の多くはローンを利用するので、少し前のように低金利がずっと続きそうな状況だと、すぐにローンを借りて家を建てようという気分にはなりません。けれども、金利がわずかでも上がり始めて先高感が出てくると、みんなあわててローンを借りようとする傾向があります。
日本銀行は2024年3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を、7月には政策金利の0.25%への引き上げを決めました。今後は住宅ローン金利の引き上げが予想されます。駆け込み需要は別として、金利上昇は住宅着工には長期的にはマイナスとなります。
当然のことながら、住宅市況も影響を受けることは間違いありませんから、今後は金利動向に対して市況がどのように動いていくのか、新設住宅着工戸数とマンション契約率には注意しなければなりません。
GDP、失業率、旅行取扱状況、粗鋼生産高、日経平均株価など経済データを関連づけて見れば、日本と世界の動きがつかめます。40年間ウオッチし続けてきた人気コンサルタントが、国内外のニュースを紹介しながら、実際の経済・社会の動きと連動した生きた指標の読み方を解説。
小宮一慶著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)



