半導体は産業全体の基盤となる重要な製品で、3~4年周期で活況と低迷を繰り返します。日本の半導体産業は世界から後れを取っていますが、次世代半導体の国内生産を目指す企業、Rapidus(ラピダス)が設立されるなど巻き返しを図っており、今後の動向が注目されます。ビジネスで必須のスキルである経済データの読み方を解説した日経文庫『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』(小宮一慶著)から抜粋して解説します。
半導体は3~4年周期で好不況を繰り返す
半導体産業は「産業のコメ」と呼ばれます。高度経済成長期は「鉄は国家なり」といわれていましたが、現在では半導体が産業の中枢を担うものとされ、このように呼ばれるようになったのです。実際、パソコン、家電、スマートフォン、電子機器、自動車など幅広い分野で利用されるようになり、半導体は産業全体の基盤となっています。
2024年3月26日付日本経済新聞朝刊の記事「『日経半導体株指数』が始動」の中で、「3~4年で周期的に好不況を繰り返す半導体市況の『シリコンサイクル』が底入れし、今後は好転していくとの期待も追い風だ」と報じられています。半導体業界には「シリコンサイクル」と呼ばれる需給の循環があり、この記事にもあるように3~4年の周期で活況と低迷を繰り返しているのです。
半導体業界の動向を見るには、生産指数 集積回路という指標に着目します。これは、半導体の集積回路(IC)の生産状況を表す指標で、経済産業省が月ごとのデータをまとめ、翌々月の中旬に発表しています。半導体はパソコンやスマートフォン、家電などの需要によって増減しますので、例えば米アップルのiPhoneが新製品を出すなどして、その電子部品を生産しているときは、この数字が伸びる傾向があります。画期的な製品が作り出されると、半導体の生産は大きく影響を受けるのです。
図表で生産指数 集積回路の推移を見ると、前年比マイナスの数字が続く時期とプラスの数字が続く時期が交互に来ていることが分かります。これがシリコンサイクルです。
世界から後れを取っている日本
ただ、シリコンサイクルのほかに、もう1つ考えなければならないことがあります。かつて日本は、半導体の世界市場でトップクラスのシェアを誇っていました。1980年代後半には日本企業のシェアは50%を超えていたのです。ところが、2000年代から急速に落ち込み、2019年には約10%まで下がってしまいました。半導体の最先端技術において日本はすでに世界からかなり後れを取っており、最先端の回路微細加工技術では線幅2ナノメートルまでの加工がされているのですが、日本では40ナノメートルで止まっているのです。
そういったなか、半導体世界最大手、TSMC(台湾積体電路製造)が熊本県に新工場を建設すると発表し、2024年末までに第1工場、2027年までに第2工場が稼働する見通しです。特に第2工場では、現在の日本の技術では製造できない6~7ナノメートルの先端半導体を生産する方針だといいます。
同時に、トヨタ自動車など国内大手8社が出資して作った、次世代半導体の国内生産を目指す企業、Rapidus(ラピダス)が、北海道千歳市に工場を建設すると発表しました。政府も多額の補助金を出す方針です。ラピダスが目指すのは2ナノメートル以下の超微細な半導体です。スーパーコンピューターやAI(人工知能)、完全自動運転車などに使う最先端の半導体を製造しようと考えているのです。これらの工場が稼働するようになり競争力が回復すると、生産指数 集積回路の数字も伸びていくでしょう。
しかし、私は日本の開発力が格段に落ちていることを非常に懸念しています。半導体に限らず、あらゆる分野における優秀な技術者や研究者は海外に流出しています。これまで10~20年の間、ノーベル賞を受賞した日本人の多くは海外で受賞会見を開いています。日本と海外では、研究環境も賃金も大きく異なります。海外のほうが稼げるうえに研究しやすい環境であれば、当然のことでしょう。
さらに、先ほどラピダスが2ナノメートルの最先端半導体の製造を目指すという話をしましたが、それが日本で実現したとしても、単に技術がキャッチアップしたに過ぎません。それよりもっと先を見据えた開発ができるのかと考えると、疑問が残ります。工場を国内に誘致し工場建設に資金を投入して地域が活性化したとしても、それだけで日本の競争力が大幅に高められるわけではないのではないでしょうか。研究・開発も重要です。
かつて日本は最先端技術を誇る国でしたが、今は必ずしもそうではないことを残念に思います。これから日本は、どのように世界と戦い、生き残っていけばいいのでしょうか。私たちは、その視点を忘れてはなりません。
GDP、失業率、旅行取扱状況、粗鋼生産高、日経平均株価など経済データを関連づけて見れば、日本と世界の動きがつかめます。40年間ウオッチし続けてきた人気コンサルタントが、国内外のニュースを紹介しながら、実際の経済・社会の動きと連動した生きた指標の読み方を解説。
小宮一慶著/日本経済新聞出版/1100円(税込み)


