冨山和彦氏は、「会社を腐らせない最強の予防薬は、強い経営者と経営人材の育成・選抜」にあると言います。では、どのような人材がリーダーにふさわしいのでしょうか? 冨山氏の名著『 会社は頭から腐る あなたの会社のよりよい未来のために 「再生の修羅場からの提言」 』(ダイヤモンド社)を、大海太郎・タワーズワトソン社長が読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔マネジメント編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。

強い経営者を育成するには

 この連載では、これまで日本企業の「病理」とその原因について解説してきました。そしてその解決策の一端についても触れました。冨山氏は、「会社を腐らせない最強の予防薬は、強い経営者と経営人材の育成・選抜」にあると言います。企業にとってトップのあり方は極めて重要なのです。

 強い経営者とは、若いうちから修羅場でガチンコの競争にさらされ、負け戦を経験した人材です。その過程で自分の頭で考え、自分の言葉で主張してきた人間が強い経営者となっていくのです。

 また、経営人材の指名や育成も根本的に変える必要があります。予定調和的に出世してきた人をトップに据えるのはもうやめるべきです。むしろ組織からはみ出そうとするくらいの人間こそ、これからのリーダーにはふさわしいのです。

 経営は結果責任です。うまくいかなかったら責任を取る覚悟を最低限、持てるかどうかがリーダーには求められます。企業の求める結果を出した経営トップにはそれ相応の処遇をもって報いるべき一方で、結果が出なかった場合には厳しく責任を問うことが企業のガバナンスとして肝要です。

 リーダーを目指す人はまた、組織を離れる経験も早くから体験しておくべきです。肩書抜きで仕事をする厳しさを味わい、そのような状況で何ができるかを知っている人間が、厳しい環境でも企業を発展させていくことができるのです。

 経営というのは常に昨日より今日をよくする、すなわち変革を続けていくことです。人間は基本的にしんどいことをやりたくないし、変わりたくないものです。そのようななか、重い歯車を回すのがリーダーの仕事になります。それは他人の人生に影響を与えてしまう責任の重い仕事だということを、リーダーを目指す人には認識しておいてもらう必要がありますし、それだけやりがいがあるということもぜひ覚えておいてほしいと思います。

自分の頭で考え、自分の言葉で主張してきた人間が強い経営者となる(写真:Photocreo Bednarek/stock.adobe.com)
自分の頭で考え、自分の言葉で主張してきた人間が強い経営者となる(写真:Photocreo Bednarek/stock.adobe.com)
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ケーススタディ リーダーの条件

 統合会社E社で閑職へ異動となっていたB氏ですが、くさらずに目の前の業務に精いっぱい取り組んでいました。担当の業務について、常により効果的にかつ効率的に仕事をする方法はないか模索し続ける一方で、新規事業や新商品に関するアイデアも考えて、機会があれば関連部署や経営陣にぶつけていましたが、なかなかすぐに実行するわけにはいきませんでした。

 そんな日々が続くなか、F社長に呼ばれたので部屋に行ってみると、いきなり「Bさん、香港の子会社に社長として行ってもらえませんか? ご存じのように業績は苦戦していて楽な仕事ではありませんが、Bさんなら立て直してくれるのではないかと期待しています」とF社長から告げられました。B氏は海外で仕事をしたこともありませんし、以前から香港の子会社は業績が相当悪いというのも聞いていたので一瞬、躊躇(ちゅうちょ)しましたが、気づいたら「ぜひ、やらせてください」と答えていました。

 それからの2年間は、B氏にとってこれまでに経験したことがない大変な日々となりました。言葉が通じないうえに、ビジネスの習慣もやり方も違い、現地のスタッフも日本で一緒に働いていた同僚とは全く異なる考えや仕事のスタイルを持つ人々でした。悪戦苦闘しながらも持ち前の前向きな姿勢とバイタリティーで現地のスタッフと一緒になって駆けずり回って、ようやく3年目から何とか黒字転換することができました。その後、順調に業績は改善し、5年目には過去最高益を計上できるまでになりました。

 やっとこれで少し落ち着いて社長業に励めると思った矢先に、日本のエグゼクティブサーチの会社からヘッドハンティングの話が舞い込みました。日本に新たに進出する世界的なIT(情報技術)企業の日本法人G社のトップをやってくれないかという話でした。

 あまりに大変だった数年間を経てようやく少しゆっくりできると思っていたので、もう勘弁だと思う気持ちがある一方で、自分でも不思議なことにまた新たなチャレンジをしたいという気持ちもありました。恐る恐るF社長に相談してみると、意外なことに「おめでとう、それはBさんの実力が認められたということです。ぜひやってみたらいかがですか」という言葉が返ってきました。

B氏の凱旋

 ほどなくして、B氏は帰国してG社の社長に就任しました。世界的な企業がバックについているとはいえ、日本ではゼロからのスタートでしたので、やはり最初は誤算と試練の連続でした。それでも、3年間でB氏は立派に本社が期待していた以上に日本でのビジネスを立ち上げました。

 そんなある日、久しぶりにF社長から電話がありました。何かと思って出てみると、「Bさん、E社の指名委員会が私の後任の社長の選定に入っているのですが、Bさんが有力な候補者として挙がっています。一度、指名委員会のメンバーと会っていただけないでしょうか」とのことでした。B氏は驚いて「えっ、私がですか。もうE社を離れて5年以上たちますし、年齢もまだ40代ですが」と言うと、F社長は「いえ、40代で経営の実績がある、過去に挫折もしていて、E社もE社以外も知っている、そんな人を探していたのです。まさにBさんはその条件にぴったり当てはまります」と即座に答えました。

 それからしばらくして、F氏からB氏へのE社の社長交代が発表されました。B氏は記者会見の場でF氏の横に座りながら、B氏が次期社長に決まったとF社長から告げられたときのことを思い出していました。B氏はF氏に「ありがとうございます。私が社長になった際にはFさんには会長として支えていただけますよね」と尋ねると、「Bさん、私はE社からは完全に離れるつもりです。ぜひ、Bさんはご自分の思うとおりにE社をさらに発展させていってください。それができるということでBさんが選ばれたのですから」とF社長からは言われました。

 F氏が記者会見で退任後は会長としても取締役としても会社には残らないと言うと、驚きの声が上がりました。B氏は一抹の不安と寂しさを感じながらも、E社の社員やその家族、さらにはE社の顧客や株主のためにも、全力を尽くそうとあらためて誓いました。

『会社は頭から腐る』の名言
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