今、投資家が注目するのはどんな企業なのでしょうか。国内の資金調達ランキングから読み解きます。日本経済新聞の記者が今、押さえるべき45個のテーマを解説した新刊『Q&A日本経済のニュースがわかる! 2027年版』から抜粋、再構成。第1回のテーマは「スタートアップ」です。
A. ロボットや車を人工知能(AI)で自律的に制御する「フィジカルAI」分野が注目を集めています。ロボット制御ソフトのMujinや、複数のAIを組み合わせて効率よく使う技術を開発するSakana AIなどに資金が集まりました。
資金が集まるのはどんな企業か
世界のスタートアップ投資でも特に有望な一部の企業に投資が集中する傾向が強まっています。米調査会社のCBインサイツによると、2026年1~3月(第1四半期)には世界の投資額が2856億ドルと前年同期と比べて2.8倍以上に増えました。一方、投資件数は3割弱少ない6599件でした。
投資額が大きく増えたにもかかわらず、件数は減っています。ChatGPTを開発する米オープンAIが1220億ドル、Claude(クロード)を開発する米アンソロピックが300億ドルをそれぞれ調達するなど、AI開発企業による超大型調達が総額を大きく引き上げました。
日本国内でも22年以降、投資先を厳選する動きが続いています。スタートアップ情報サービスのスピーダによると、25年の資金調達額は速報値で7613億円と24年の速報値とほぼ横ばいです。1社当たりの平均調達額も3億1000万円程度と前年とほぼ変わらなかったものの、中央値は前年比で20%減の6240万円となり特定企業へ投資が集中していることが読み取れます。
スタートアップは短期間で事業を大きく成長させることを目指し、ベンチャーキャピタル(VC)や事業シナジーのある会社などから投資を受けて資金を確保します。自社の利益だけでサービス開発や営業のための人件費、広告費などをまかなえないことが一般的だからです。
M&Aが進む背景にIPOの難易度の高さ
しかし25年4月、東証グロース市場での上場維持の基準を、30年以降に「上場5年経過後は時価総額100億円以上」と引き上げる方針が示されたことで、状況が変わりました。基準を満たさない企業は、上場廃止になるか他の市場に移ることになります。
上場廃止が決まると新たに株式を買いたい人が減り、既存の投資家が株式を手放すため、株価が急落します。投資した資金の回収が難しくなるため、VCは上場後にも成長を続ける可能性が高い企業に投資を集中する流れが強まっています。
これまでグロース市場の大半は数十億円規模の企業が占めていました。基準引き上げを受け、上場時の手続きを担う証券会社や監査法人には、時価総額100億円を下回るスタートアップが新規株式公開(IPO)する「小粒上場」を嫌う動きが出ています。
IPOの難易度が高まったことで、今後はM&A(合併・買収)が進みそうです。実際に資金調達だけでなく、M&Aでも大型の事例が生まれています。不動産大手のヒューリックは26年6月に、フリーランス美容師向けにシェア型店舗を運営するサロウィン(東京・渋谷)を買収したと発表しました。サロウィンの全株式を取得するのにかかった費用は100億円超と見られます。
スタートアップの資金調達ランキング
それでは、どのような企業に投資が集まるのでしょうか。日本経済新聞社が出資する投資家向けサービスのケップルグループ(東京・港)が収集した登記簿から調達額を調べ、日本経済新聞が上位企業を取材して作成したランキングによると、有望企業に資金が集中しています。
25年に最も多く資金調達したのは、産業用ロボットを制御するソフトウエアを開発するMujin(ムジン、東京・江東)で208億円を集めました。AIでロボットを自律的に制御する「フィジカルAI」を開発するスタートアップで、ロボットのブランドを限定せずに接続し自動化できる点が特徴です。3位のTuring(チューリング、東京・大田)が手掛ける自動運転技術も、フィジカルAIの領域といえます。
2位は23年7月に設立したAI開発企業のSakana AI(サカナAI、東京・港)の200億円が入りました。米グーグル出身のAI研究者らが立ち上げたスタートアップで、高い技術力が注目されています。三菱UFJフィナンシャル・グループや、スペインの金融最大手のサンタンデール銀行などが出資し、推計企業価値は約4000億円と国内の未上場スタートアップで過去最高になりました。
超有望企業が大型調達で注目を集める一方、多くのスタートアップにとっては資金調達の難易度が高まっています。事業化に時間がかかるバイオ関連など、ディープテック(先端技術)分野の資金調達をどう支えるかも今後の課題となりそうです。
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日本経済新聞社編/日本経済新聞出版/1980円(税込み)



