『株式投資』はワシントン・ポストとビジネスウィークによって「史上最高の投資書10冊」の1つに選出、市場を理解するために必要な知識、洞察、ツールを網羅した名著として知られています。主著者のジェレミー・シーゲル氏はペンシルベニア大学(ウォートン・スクール)名誉教授で、1994年にはビジネスウィークが実施したビジネススクール教授の世界ランキングで教育の最高評価を受けました。同年の初版発行から版を重ねるこのロングセラーの第6版『 株式投資 第6版 長期投資で成功するための完全ガイド 』(ジェレミー・シーゲル+ジェレミー・シュワルツ著、林康史+藤野隆太監訳、石川由美子+鍋井理沙+宮川修子訳)では、市場や経済の最新動向を踏まえて分析を大幅拡充。その読みどころの解説として、監訳者・林康史氏の「監訳者あとがき」から一部を紹介します。
【監訳者あとがき】
本書は“Stocks for the Long Run : The Definitive Guide to Financial Market Returns & Long-Term Investment Strategies, Sixth Edition”の翻訳である。1994年の初版以来、1998年、2002年、2008年、2014年と版を重ねて、この第6版は米国で2022年に上梓されている。私たちが本書の翻訳に携わったのは、2002年の第3版、2008年の第4版に続く3回目ということになる。
原著のタイトルは、すでにお気づきの方もおられようが、著者の自信をうかがわせるものとなっている。runは運営だから「長期運用のための株式」という意味であり、前置詞はforではあるが、最終的なというニュアンスもある。long runはlong-runningで、つまりは、当初から著者自らロングセラーであることを宣言(控えめにいえば祈念)したのである(なお、邦題については、投資は基本的に長期であるからロングランという単語はあえて訳さず、端的に『株式投資』とした。おそらくシーゲル本人の同意が得られるものと思う)。
本書のすばらしさは言をまたないが、まず指摘したいことは、現場の視座で株式と株式市場をみていることである。学者でありながら、現場で浮かびそうな着想、思いつきそうな戦略を検討している。ときには現場のアナリストやマネジャーでさえ行わない細かな相関のチェックなどを論理的に考察している。
投資家は、さまざまなアイデアを思い描きながら市場に参加しているもので、本書を読みながらも「ではこれはどうなのか?」「似た指標でも同様の動きが確認されるのだろうか?」と(今であれば、AIに訊きたくなるような)アイデアが浮かんだりすることだろうが、それについての調査・検討がちゃんと報告されている。取引にふさわしいデータ(1種類とは限らない)を探し出してプロセスを再構成し、過去を検証(バックテスト)しているのである。
また、読者が「そのアイデアを活かすとして、将来も適合するだろうか?」「どういうデータを使うのか?」「それをフォーミュラとすることが現実的なのか?」と訝しんでいると、例えば、過去のある時点でデータマイニングを打ち切って、その時点から現時点までプログラムを走らせるとどうなるかという検証(フォワードテスト)について記述がある。
シーゲル自らの宣言通り、本書はロングセラーとなって改定を重ね、幸いなことにロングセラーであることの長所が追加された。
改定の度に、過去のデータが更新されるばかりでなく、新しい疑問やヒントに関しても、バックテスト、フォワードテストが重ねられる仕儀となった。また、そこでの結論は、すばらしいことに前の版と変わってはいない。まさしくロングラン、かつ、版を新たにしているからこそ、知りたいことは悉(ことごと)く書かれているという、投資家にとっては、このうえなく喜ばしい書籍となっている。
本書はファイナンスの学説史ともなっている。効率的市場仮説について等々、シーゲルらしいバランスの取れた整理がなされている。たいてい、教科書(テキスト)は主流派の主張や通説を無味乾燥に紹介することになるし、具体的で適切な戦略が書かれていないことも多いのだが、本書はそういうテキストに留まらない。
この本がベストセラーまたロングセラーとなったことで、細かな事象についてもシーゲルのアイデアが影響を与え、学問的にも現場でも主流派になっていったといえるところもある。学者は、何かを発見してペーパーを書いたら興味が失せるのか、通常、そのテーマについての継続調査研究をしなくなる。しかし、シーゲルはきちんとフォローしている。
学者うちでは「教科書屋」は、通常、誉め言葉ではないが、シーゲルのこの本は、一般向けのテキストであり、かつ、研究者向けのテキストともなっている。大仰にいえばバイブルである。
もちろん、似たことを考え、同じことをやっても、答えは同じになるとは限らない。それを理解したうえで、一般的には、投資の勉強は本書1冊で終わりだと思う。知りたいこと、知るべきことは、本書に尽くされている。本書は、投資家として最初に読むべき本であり、また、やっと本書にたどり着いた人も、投資家人生の最後までロングランに読み続けるべき本だと思う。
ということを書くと、監訳者(林)はアピールが上手だなという声が聞こえてきそうだ。しかし、私は思っていないことは言わない。株式投資に関する本を1冊挙げよといわれたら、『株式投資』と答えるだろう。もちろん、このような物言いには注意が必要である。「私は相場操縦などしない。買ったほうがよいと考えるから買うと言っているだけだ」と話すジェシー・リバモアの逸話を思い出す。それと同じことだといえなくもない。読者の判断に委ねたい。
最後に、シーゲルの逸話を紹介したい。もう何年も前のことであるが、一橋大学の私のアセットマネジメント論の受講生にウォートン・スクールの留学生がいて、シーゲルの授業は驚くほど人気があるという話を聞いた。シーゲルは、全世界のビジネススクールの教授のランキング1位で、受講は成績基準で許可されるとても狭き門だったという。シーゲルは毎回の授業後に、行列をなす質問者に順次、応答するのだという。ただし、シーゲルがくだらない質問だと思ったときは、そこで質問タイムは終わり、当該学生は後ろに並んだ学生からブーイングを浴びせられることになるから、並ぶ順番を迷う学生もいるとのことだった。
(以下略)
2024年12月10日
訳者・監訳者を代表して
林 康史
