生成AI(人工知能)の登場でホワイトカラーの仕事が奪われる――そんな情報が目に入る昨今、将来に不安を感じる人もいるのでは。しかし、人事コンサルタントの新井健一氏は、AIと働く時代が迫っているからこそ、「日本企業の、普通の会社員」に大きな強みがあると唱えます。新井氏の著書『それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか』(日本経済新聞出版)から抜粋します。
「リスキリング」は本当に必要か?
筆者が繰り返し主張してきたことであるが、これからの会社員はその能力により、「AIを開発できる人材」「AIと協業できる人材」、そして「AIに使用される人材」の3種類に分類されるだろう。
では、我々は「AIを開発できる人材」「AIと協業できる人材」、そして「AIに使用される人材」のどこを想定した学びに投資すべきだろうか。
まず「AIに使用される人材」を積極的に選択する会社員はいないと想定して、対象から外す。
残された選択肢は2つであるが、ここで我々が見極めるべきは、第四次産業革命(あらゆるモノがネットにつながるIoTやAI、ビッグデータによる技術革新)をけん引するような「AIを開発できる人材」はいつの時代もほんの一握り、ほとんどが「AIと協業する人材」、すなわちユーザーであるという事実だ。
著書『それでも、「普通の会社員」はいちばん強い』には「現在、第四次産業革命(IoTやAI、ビッグデータによる技術革新)への対応が強く求められる一方、デジタル技術をビジネスに活用するハイスキル人材の不足が、国家レベルで問題視されている状況である。したがって、リスキリングによるIoT、AI、データサイエンスなどのスキル開発は、社内人材のデジタル人材化につながるため、官民で注目を集めている」と書いているが、すべての会社員がこの方面のリスキリングに安直に追随する必要はないと筆者は考える(いずれにしてもユーザーとしては、これらの技術に関わり、活用することが求められるのだから。それは「ウィンドウズ95」発売以後の我々の働き方を振り返れば、容易に想像できる)。
AIと協業するために必要なのは基礎学習
では、次に我々が考えるべきは具体的に何を意識的、戦略的に学び直すか、どのような学びに投資すべきかだ。例えば、決算書や契約書の不備をチェックする(粉飾決算を見破ることも含む)のに、AIの力を借りるこの時代に。
これは先にも触れたが、例えば国家レベルで人材不足が問題視されているデジタル技術ひとつをとっても、引き続きその「開発」に従事するのは、どの分野においても一握りの人材である。一方、大部分を占めるのは開発された技術を「運用」する人材(ユーザー、実務者)なのだ。
そして、とことん優れた実務者になるための出発点は、基礎学習にあると筆者は考えている。通常、基礎の習得は、「守・破・離」の段階にのっとった成長や成熟を通じて、いずれ再現性のある応用に転じるからだ。
では、我々ビジネスパーソンにとって基礎学習とは何か。
これについて、経済産業省の産業人材政策室は「『人生100年時代の社会人基礎力』と『リカレント教育』について」の中で「社会人基礎力」を発表している。
具体的に、社会人基礎力は大きく3つの能力からなり、そしてこれらの能力は12の要素に分解、構成するものである。また、以降「人生100年時代」ならではの切り口として、新たに3つの視点を提供した。
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■3つの能力
- 考え抜く力(シンキング)
- チームで働く力(チームワーク)
- 前に踏み出す力(アクション)
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■12の能力要素
- 考え抜く力……課題発見力、計画力、創造力
- チームで働く力……発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力
- 前に踏み出す力……主体性、働きかけ力、実行力
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■新たな3つの視点
- 何を学ぶか【学び】
- どのように学ぶか【統合】
- どう活躍するか【目的】
ちなみにこの「3つの能力」「12の能力要素」に見覚えはないだろうか。
これは現に多くの会社員が経験している人事評価、その評価項目ばかりである(これらは、企業で言うところのコンピテンシー評価項目に相当する)。
そして、企業は、これらのコンピテンシーが人事評価の対象であるが故に、OJT(職場内訓練)や企業向け研修などを通じて、社員の能力開発に努めてきた。
要するに経産省は、会社員にとってはおなじみの人事評価項目を、「人生100年時代の社会人基礎力」に挙げているということだ。
会社員に必要な「+α」とは?
では、このような社会人の基本姿勢および能力を土台として、会社員が積み上げるべき基礎はなにか。
彼らは、企業の経営に携わり、貢献することが求められる人材であるから、「経営学」に関する必要最低限の知識は、当然その中に含まれてしかるべきである。
そして、例えば経営大学院や、日本国内における中小企業診断士資格は、人材に対して社会人としてのキャリアアップや転職、副業・兼業もしくは独立起業を支援するための能力開発サービスを提供している。そう考えるとビジネスパーソン一般の基礎学習と言えなくはないが、ただそのときに学んで終わり、後は(少なくとも実務では)使わないという内容も一定程度あると聞く。
また、筆者はこれまで企業の人事担当者からこんな相談も受けてきた。
「MBA(経営学修士号)の科目を単科ではなく、合わせ技で教えてくれませんか。うちの社員にもMBAをとった社員が相応数いるのですが、それぞれ学んだ単科の知識がつながってないみたいなんですよね」
このような要請を受けて、筆者は単科を横断する思考をもって、経営課題を解決するための、実務に使える基礎学習の範囲や学び方について仮説を立て、次世代の経営を期待される受講者とともに検証してきた。そして、そのような試行錯誤をまとめたのが『 事業部長になるための「経営の基礎」 会計・ファイナンスから経営戦略、目標管理、人事評価までがわかる本 』(新井健一、陶山匠也著/生産性出版)である。
ただし、これはあくまでひとつの試みにすぎないため、企業も社員個人も双方の成長に貢献するためには、学ぶべき「基礎」につきバックキャスティングを用いて、今あらためて洞察する必要があるだろう。
我々は、選び取るべき基礎学習を単に与えられるものではなく、自ら定義するものとして受け止めなければならない。
新井健一著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)


