世界中でデータセンターの建設ラッシュを迎えています。生成AIをはじめとしてデータがあふれる中、データセンターの役割は重要になるばかりです。各種のビジネスの仕組みを考えるうえでも、データセンターの基本やトレンドを知っておく必要があるでしょう。データセンターの構築に25年以上携わってきたLXスタイル 代表取締役の杉田 正さんに、データセンターを学ぶためにお薦めの書籍を聞きました。
私たちの生活は、いまやデータなしで成り立たないのは明白です。スマートフォン1台で、SNSによるやり取りや地図アプリケーションによる場所検索、オンライン決済などが可能になっていますが、これらの便利な体験の裏側では、膨大なデータが常にやり取りされ、処理されています。一方で、企業にとってもデータは重要な資源です。小売業では販売データを活用した需要予測が行われ、製造業では設備データを用いた故障予測が生産性向上につながっています。データをいかに活用できるかが、企業の競争力を左右する時代になっています。
このような個人や企業が生み出す膨大なデータを保管・処理しているのがデータセンターです。社会・経済のデジタル化が進む中で、データセンターはもはや電気やガス、水、交通網に並ぶ産業のインフラとなっていることは間違いありません。
データセンターの需要を爆発的に加速させたのがAIです。大規模言語モデルや生成AIの普及により、従来とは比べものにならない計算能力が必要となり、AI向けサーバーを大量に備えたデータセンターへの投資が世界的に拡大しています。日本でもデータセンター建設が相次ぎ、AI時代を見据えたインフラ整備が進んでいます。
しかし、データセンターの急速な拡大には課題もあります。第一に挙げられるのが電力の問題です。AI処理を担うサーバーには高い電力密度が求められ、地域の電力供給への影響が懸念されています。これに加えて、データセンターを構成する機器には強力な冷却が必要など水資源も要します。これらの課題は、データセンターが単なる「データの倉庫」ではなく、地域インフラやエネルギー資源と深く結びついた存在であることを示しています。AIによる需要の急増とともに、サステナビリティや地域との共存は避けて通れないテーマです。
それでも、AI、クラウド、IoTといったデジタル技術の進展は今後も続き、データセンターは私たちの生活・ビジネスの基盤として、その重要性をさらに増していくでしょう。今や新聞紙面において、データセンターという文字を目にしない日はなくなってきました。データセンターにまつわるトピックスを正確に理解することは、今後のビジネスに大きく影響を与えます。
ますます重要性を増すデータセンターを学ぶために、今回から3回にわたって書籍を紹介します。今回は近年のデータセンターを正確に理解するために役立つ書籍を2冊取り上げます。
データセンターの価値を決めるKubernetesの基本
まず紹介する書籍は、『Kubernetesの知識地図 現場での基礎から本番運用まで』(青山真也、小竹智士、長谷川誠、川部勝也、岩井佑樹、杉浦智基著/技術評論社/2023年6月刊)です。データセンターに関する1冊目に紹介する書籍ながら、Kubernetes(クーベネティス)という初めて聞くような単語が出てきて、戸惑うかもしれません。ただし、データセンターの価値を生み出すためには今後Kubernetesがカギを握ると考えられており、その役割を知ることは極めて重要です。
データセンターにはユーザーからの大量のデータを処理するために多くのサーバーが並んでいます。重要なことは、それらの計算資源をどれだけ無駄なく、柔軟に、複数の利用者で使えるようにするかですが、どのサーバーで、どの処理を、どれくらい動かすのかを人手で管理するのは現実的ではありません。Kubernetesは、この複雑な調整を自動で行い、全体をうまく動かす役割を担っているプラットフォームです。AIが急速に広がった背景にも、Kubernetesの存在があります。
例えば、ECサイトでセールが始まり、アクセスが急増したと想定します。ECサイトにその時点まで割り付けられていたサーバー資源では処理能力が足りないことをKubernetesは自動で判断し、空いているサーバーを使って処理能力を増やします。セールが終われば、今度は使わなくなった分を減らし、資源を解放します。また、どこかのサーバーが故障した場合も、Kubernetesは別のサーバーに処理を移し、サービスを決して止めることはしません。データセンターでは、こうした拡張・縮小・復旧が自動で行われていることを知っておく必要があり、それを実現するために近年活用されているのがKubernetesです。
紹介した書籍では、Kubernetesの基礎から実際に稼働させるまでのポイントが、比較的コンパクト(約300ページ)に収められています。サーバーは、個別に管理する時代ではなくまとめて自動管理する時代になっていること、利用状況に応じて計算資源は柔軟に増減できることを、Kubernetesを学ぶことで実感してもらえると、自らの業務の応用を考える際に、役立つのではないかと思います。
データセンターを構成するインフラを学ぶ
データセンターの肝を握るのがKubernetesという、かなり“雑”な表現をしてしまいましたが、データセンターとKubernetesの間には、多くのレイヤーが存在しています。データセンターは、複数のサーバーで構成されますが、サーバー上にはOSが存在します。OS上のソフトによって、ネットワークを介して他の機器とやり取りをしたり、あるいはデータベースと通信をしたりして、ユーザーの求めるアプリケーションを実現することになります。
このようなデータセンターを構成するインフラを学ぶため初心者向けに推薦するのが『改訂新版 インフラエンジニアの教科書』(佐野裕著/シーアンドアール研究所/2023年11月刊)です。同書の初版が発売されたのは2013年で、韓国語版も出版されるほどのベストセラーとなっています。10年がたったことで、最新の情報も踏まえてアップデートされました。ITインフラは、Kubernetesのようなソフトと違って、比較的変化が少ない分野とはいえ、改訂新版においては全体を加筆・修正してあります。
初心者にとってこの本が適しているのは、インフラを構成する重要な要素ごとに章が区切られているとともに、各章の内容が独立していることです。具体的には「サーバー」「OS」「ストレージ」などが各章として独立しており、どこから読んでも問題ない構成となっていて、興味を持った項目から読み解くことができます。例えば、データセンターを利用するためにはネットワークを介することが必要となりますが、ネットワークの基本を知りたければ「ネットワーク」の章を見ることを勧めますし、また身の回りのサービスや業務システムの基盤となっているクラウドの仕組みが知りたければ「クラウド」の章を開けばよいでしょう。
今回は初心者向けに2冊の書籍を紹介しましたが、この2冊を読むと、ハード面とソフト面から、現在のデータセンターを構築している基盤が学べるため、その応用を検討する際に、的外れな議論をしなくて済むようになります。次回は、中級者に向けたデータセンターに関するお薦めの本について紹介します。
LXスタイル 代表取締役
(取材・構成:木村 知史=CocoSmile 編集者)


