フィジカルAIを学びたいという読者に向けて京都大学大学院 情報学研究科 助教の八木 聡明さんが良書を推薦するコラムの最終回。今回は、八木さんが個人的にお薦めする2冊の書籍を紹介します。

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多くの研究事例からフィジカルAIの社会実装を考える

『知能の原理 身体性に基づく構成論的アプローチ』Rolf Pfeifer、Josh Bongard著、細田耕、石黒章夫訳、共立出版
『知能の原理 身体性に基づく構成論的アプローチ』Rolf Pfeifer、Josh Bongard著、細田耕、石黒章夫訳、共立出版

 最初に紹介する『知能の原理 身体性に基づく構成論的アプローチ』(Rolf Pfeifer、Josh Bongard著、細田耕、石黒章夫訳/共立出版/2010年3月刊)は、スイスの身体性認知科学研究の第一人者が執筆された書籍です。当時からフィジカルAIの前身となる身体性AIの最先端の研究を行っていました。

 前回、知能の研究には身体が必要不可欠であるという概念が提唱されたことを説明しました。その概念に基づいて、多くの研究が行われてきましたが、この書籍にはそれらの研究事例が網羅されています。私が博士課程の研究を行っていた際には、何回も読み直し、私にとってのバイブルといえます。

 ただ、数式はほとんど書かれておらず、また専門用語などについては丁寧に解説しているので、大変読みやすい書籍になっています。フィジカルAIが企業の経営にどのように生かせるのか、といった観点から執筆されたパートもあり、応用のイメージも与えてくれます。フィジカルAIの社会実装を考える方には、是非手に取っていただきたい1冊です。

 著者として名を連ねているのは、前回紹介した『柔らかヒューマノイド ロボットが知能の謎を解き明かす』(細田耕著/化学同人/2016年5月刊)の著者である細田先生です。細田先生がスイスの研究室に滞在していた際に、Rolf Pfeifer氏と出会い話が進んだということですが、知能と身体との関連を熟知している細田先生だからこそ、原書に忠実に、そしてわかりやすく訳された書籍になっています。フィジカルAIの普遍的な思想を理解するという意味では、この書籍に勝るものは今でもないと思っています。

効率を考えるとロボットは生き物に似る

『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか 工学に立ちはだかる「究極の力学構造」』鈴森康一著、講談社(ブルーバックス)
『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか 工学に立ちはだかる「究極の力学構造」』鈴森康一著、講談社(ブルーバックス)

 最後に紹介する『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか 工学に立ちはだかる「究極の力学構造」』(鈴森康一著/講談社(ブルーバックス)/2012年4月刊)は、あまりAIに関連したものとはいえないかもしれません。ただし私にとってはとっておきの1冊となります。学生時代に読んだ書籍ですが、私がロボット工学を専攻しようとしたきっかけとなったものです。

 内容についてはタイトルの通りです。例えば新幹線を開発しようとしたときに、風の抵抗を最小化しようとすると先頭がイルカのような形状に近づいていくように、効率良く機械が動こうとすると、その構造が生物に似てくるといったことが書かれています。東京工業大学にいらっしゃった鈴森先生が、企業でロボット開発に携われた後に、大学に移籍されてから出版されたもので、力学的な見地にたちながらも、非常に平易な表現で書かれています。

 本書ではロボットを実際の環境でちゃんと動かそうとすると生物に近づいてくると説きますが、では本当に賢いロボットを作ろうとすれば、それは結局人間に近づいていくことにほかなりません。私が、ヒューマノイドロボットの研究に携わったのも、この書籍におおいに刺激を受けたからです。

 以上、3回に渡ってフィジカルAIに関連する書籍を紹介してきました。現在、ヒューマノイドロボットをはじめとするフィジカルAIの研究は、米国や中国が先行していると前回書きました。一方、日本においても経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が200億円以上の資金を、フィジカルAIの開発等に投じることを決めています。フィジカルAIを社会実装するためには、当然、ロボットなどのハードウエアを量産することが求められます。そこには、材料技術や加工技術、生産技術などモノづくりに必要とされるものがすべて求められ、当然、日本企業の出番も多くあるはずです。このような流れを確固たるものとするためにも、多くの方々にフィジカルAIに関心を持ってもらいたいと感じています。

八木 聡明(やぎ・さとし)
京都大学大学院 情報学研究科 助教
2022年に大阪大学大学院基礎工学研究科にて博士号(工学)を取得。その後、現在の京都大学大学院情報学研究科助教に着任。2025年より京都大学成長戦略本部イノベーションプロデューサー(Physical AI分野)を兼任。ヒューマノイドロボットと機械学習に関する研究に取り組む。また、学生・若手研究者が中心となった京都大学フィジカルAIコミュニティ「KUPAC」では、教員代表を務める。京都大学成長戦略本部発明賞や日本ロボット学会優秀研究・技術賞などを受賞。

(取材・構成:木村 知史=CocoSmile 編集者)