データセンターについて学びたいという読者に向けて、データセンターの構築に25年以上携わってきたLXスタイル 代表取締役の杉田 正さんが良書を推薦するコラムの2回目です。今回は、データセンターを利用して業務システムなどの応用を目指す方に向けた書籍を2冊紹介します。

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データセンター×AIの応用を探る

『GPUクラスタ×生成AI 13のポイントで実現する次世代基盤とビジュアライゼーション実践ガイド』大野泰弘、力石誠也、NTTPCコミュニケーションズ著、NTT出版
『GPUクラスタ×生成AI 13のポイントで実現する次世代基盤とビジュアライゼーション実践ガイド』大野泰弘、力石誠也、NTTPCコミュニケーションズ著、NTT出版

 前回、紹介した2冊の書籍を読んでいただくことで、データセンターはどのようなインフラで構成され、またKubernetesによってどのような基本機能が担保されているかが理解できたと思われます。今回は中級者向けとして、データセンター上で稼働するアプリケーションについて深掘りしていきたいと思います。

 データセンター上で稼働するアプリケーションといえば、生成AIをはじめとするAIがその筆頭であることは間違いがないでしょう。米オープンAIが、「ChatGPT」を公開したのが2022年11月。この3年で、生成AIは瞬く間に社会に浸透する一方で、多くの計算資源を要求するようになりました。近年、建設ラッシュを迎えているデータセンターには、「AIデータセンター」と呼ばれるものも多く、その名の通りAIの計算用途に適した構造をしています。

 では、それらのAIデータセンターを利用すると、何ができるようになるのでしょう。その一つの解を提示してくれるのが、『GPUクラスタ×生成AI 13のポイントで実現する次世代基盤とビジュアライゼーション実践ガイド』(大野泰弘、力石誠也、NTTPCコミュニケーションズ著/NTT出版/2025年6月刊)です。著者のNTTPCコミュニケーションズは、長年、データセンター事業を手掛けており、近年ではAI用途に適したデータセンターも運用しています。これらの豊富な経験を基にして、実践的な情報が提供されています。

 GPUとは、多くの人がご存じのようにAI処理に適したプロセッサです。時価総額が世界1位になったことでも有名なNVIDIAが手掛けるのがGPUで、今やそのGPUは簡単には手に入らなくなっています。同書籍は、このような高性能のGPUを複数つなぎ合わせた「GPUクラスタ」を搭載したインフラをどのように構築するのか、そのポイントを13の観点から紹介しています。前回紹介した書籍『改訂新版 インフラエンジニアの教科書』においても、データセンターで必要となるインフラの構成要素について学びましたが、GPUクラスタを効率よく利用するためには、ネットワークやストレージなどの周辺機器との組み合わせや、システム全体のチューニングなどが重要であることが理解できます。

 さらに、そういったインフラを利用する用途として、特にビジュアライゼーション、例えばメタバースやデジタルツインといった分野でのGPUクラスタの導入事例を重点的に紹介しています。メタバースやデジタルツインは、産業用途的には建築・都市の可視化やロボットの動作検証などに利用されるものであり、必ずしもAIを使用しなくても成立するかもしれません。ただし、例えば少ないデータから検証を行うためには今後はAIが必須となり、AIを利用することがメタバースなどを次のステージに引き上げます。データセンターを生かして可視化の用途を目指す方は、多くのヒントが得られるはずです。

AIの用途は学習から推論へ

『やさしいMCP入門』御田稔、大坪悠著、秀和システム新社
『やさしいMCP入門』御田稔、大坪悠著、秀和システム新社

 これまで、データセンターはAIの中でも学習の用途にほとんどが使われてきました。大量のデータを集めて、それらを利用してAIを鍛えるために学習させる。その学習を反映させたモデルの構築がメインといえましたが、今後はそのモデルを使って、新しいデータから判断や予測を行う、推論の用途が増えてくると予測されています。私たちが使っている生成AIも、構築されたモデルに対して私たちが会話を投げかけ、それに回答してくれるという点でAIの推論を利用していますが、この推論の用途が圧倒的に増えていくのです。

 AIの用途において推論のウエートが多くなると、データセンターの使われ方も変わり始めます。AIの推論が増えると、いろいろな人がいろいろなアプリケーションから頻繁にAIを使うことになります。単に計算するだけではなく、さまざまな外部データやシステムとつながったうえで、推論した結果を頻繁にやり取りしなくてはなりません。このやり取りがスムーズでないと、AIの推論結果が活かせません。

 このAIモデルと外部のデータやシステムを共通のルール(プロトコル)でつなぐための新しい標準規格として注目されているのが、MCP(Model Context Protocol)です。MCPに準拠させれば、AIと各種システムとの連携が容易になるので、AIを活用したシステムを構築するためには、MCPに関する知識を身に付けることは必須となる可能性があります。

 その手助けをする書籍として推薦するのが、『やさしいMCP入門』(御田稔、大坪悠著/秀和システム/2025年7月刊)です。難しい言葉は極力避けて説明されており、図解が多く交えてあるので、技術者でなくとも比較的理解が早く進みます。また、MCPの基礎や使い方が述べられるとともに、将来の展望も書かれています。

 個人的には、今後のアプリケーションは音声だけで稼働するものが増えてくると予測しており、そういったアプリケーションを開発するうえでもMCPは有効です。MCPは、音声ユーザーインターフェースそのものまでは標準化していませんが、AIと外部システムとのやり取りを標準化する部分は担当してくれるので、「音声での指示を理解する」といった部分の開発に特化できるため、音声で稼働するアプリケーションの開発も加速すると考えられます。

 今回は、データセンターを学ぶ書籍を、主にはそのうえで稼働するアプリケーション開発を焦点に紹介しました。次回は、データセンターの最終回として、ワット・ビット連携に関する書籍を紹介します。

杉田 正(すぎた・ただし)
LXスタイル 代表取締役
産業技術総合研究所 情報・人間工学領域のテクニカルスタッフとして、データセンター省エネ技術研究・省エネ水排熱スパコンABCI構築に従事。それ以前は、レンタルサーバ会社にてブレードサーバ省エネデータセンターの構築に携わる。VPSサービスや省エネデータセンター構築で25年以上のキャリアを持つ。

(取材・構成:木村 知史=CocoSmile 編集者)