政府の積極支援と制度整備を背景に、民間企業やスタートアップの参入が急増し、通信や観測など多様な分野で宇宙ビジネスが拡大しています。日本の宇宙経済規模は2020年の約4兆円から2040年には約15兆円に拡大すると野村證券が予測するほど、宇宙には大きなビジネスチャンスが隠されています。この魅力ある市場を理解いただくために、超小型衛星開発などに長年従事された立命館大学の中須賀真一教授に良書を推薦いただきました。
今、世界の宇宙開発は日本も含めて政府中心から民間中心に移りつつあります。私は、この動きを宇宙開発における第4世代とよんでいます。第3世代では、政府が自らプランを作って民間にロケット製造などを発注し、それを政府が購入して利用していました。第4世代では、民間が自分たちで投資もしながら、あるいはファンドなどの支援をもらいながらサービスを開発し、それを政府が購入するという世界に変わっているのです。
民間主導の流れは、米国を筆頭に進みました。日本は一歩遅れの感がいなめませんでしたが、この状況も変わりつつあります。日本政府が宇宙開発に本腰を入れ始め、その証しとして総務省・文部科学省・経済産業省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が設置した「宇宙戦略基金」によって、2024年度から最大10年間で1兆円規模の基金を投じることを決めたのです。
実は今、この基金の後押しを得て、宇宙開発企業の中では、ある意味バブルが起きています。資金を得ることで、これまでの開発に拍車をかけることができ、人材採用も積極化しています。日本の宇宙ビジネス市場は、2020年の約4兆円から2040年には約15兆円に拡大するとの予測(野村證券調べ)もあり、この大きな市場において存在感を示せるように、各社がしのぎを削っているわけです。
ただ、このバブルの先を、私は心配しています。単に良い技術が開発されても、その技術のニーズとお客がなければ意味をなしません。宇宙を利用することで、どのような社会課題を解決できるのか、そしてそのためにはどういう技術が必要なのかを分かったうえで、技術開発を進めるべきです。ただし、このような人材は圧倒的に日本には足りていません。
こうした問題を解決するために、私が所属している立命館では、2028年4月に宇宙地球フロンティア研究科(仮称・設置計画中)という新しい研究科を設置する予定です。そこでは地球や月、火星など宇宙を対象として理学、工学、マネジメントを横断で学び、宇宙ビジネスに携わる人材や宇宙関連の起業家の輩出を目指します。
こういった若い人材を育てることも重要ですが、その一方で、多くの方が宇宙に目を向け、その用途開発に知恵を絞ってほしいと思っています。宇宙ビジネスを広げるためには、異分野の人にこそ宇宙に注目してもらい、そして自分たちの抱える問題が宇宙を利用することで解決できる可能性を考えてもらうことが重要です。大きく広がる市場をビジネスチャンスと捉え、ぜひ自分事と捉えていただきたいのです。
1人でも多くの方に宇宙ビジネスに興味を持ってもらえるよう、今回から3回にわたって宇宙ビジネスを効率良く学んでいただける良書を紹介します。今回は近年、なぜ宇宙ビジネスがブームを迎えているのか、その本質を理解するために役立つ書籍を3冊紹介します。
大手IT企業は宇宙を目指す
日本の宇宙ビジネスは政府ではなく民間が先導する時代に来ていると先に述べました。この流れは、すでに米国ではかなり前から起きています。国際宇宙ステーション(ISS)の建設など多くの宇宙開発を支えたスペースシャトルが、2011年、30年の歴史に幕を閉じましたが、それ以前から米航空宇宙局(NASA)は宇宙ベンチャー育成プログラム「COTS」を打ち出し、民間の宇宙開発を支援していました。このプログラムで生まれたのがスペースXです。そして、2010年代後半になると米IT大手(GAFAM)が参入することで、宇宙ビジネスは民間企業で本格的に広がりを見せます。
『宇宙ビジネスの衝撃 21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』(大貫美鈴著/ダイヤモンド社/2018年5月刊)は、主には米国における宇宙ビジネスの急速な広がりについて紹介された書籍です。宇宙ビジネスに多くの民間企業が進出する様子は、あたかも金の採掘のために多くの人が殺到した19世紀アメリカのゴールドラッシュに似ていることから、タイトルにもこの言葉を含ませています。
本書は3章で構成され、第1章ではGAFAMがなぜ宇宙を目指すのかについて解説しています。この章を読むと、これらのテック企業がデータビジネスの広がる場として、いかに宇宙を重視しているのかが理解できます。続く第2章では、宇宙ビジネスが私たちの生活をどのように変えるのかを、様々な産業を取り上げて分析します。第3章では、ベンチャー企業の動向とともに宇宙開発の事情を紹介します。
平易な文章で書かれており、宇宙に詳しくなくても、読み物として一気に読み通すことができるでしょう。発行が2018年と少し前なので、最新事情を知るためには勉強が必要ですが、現在の宇宙ビジネスブームに至るまでの歴史を知るのには最適な一冊です。
私たちの生活と宇宙の関わりを考える
初心者向けに次に推薦するのが『宇宙ビジネス 星を見るのが好きな人から専門家まで楽しく読める宇宙の教養』(中村友弥著/クロスメディア・パブリッシング(インプレス)/2025年2月刊)です。筆者の中村友弥氏は、宇宙ビジネスを中心として情報を発信するサイト「宙畑」の編集長を務めています。
同書は、編集長として長年の取材で得た知見をもとに執筆したものです。タイトルにもあるように、単に「星を見るのが好きな人」のように宇宙に詳しくない人でも興味を持ってもらえるように、宇宙ビジネスの実態と今の生活との関わりなどが分かりやすく紹介されています。例えば、宇宙ビジネスというとロケットを思い浮かべる人がいるかもしれませんが、スマートフォンやカーナビ、自動運転など身近な技術が、衛星からのデータを元に開発されていることなど、宇宙ビジネスには多くの広がりがあることが解説されています。
先にも述べましたが、私が懸念を抱いているのは、宇宙の研究開発の先にある用途です。宇宙に関する先進的な開発は、社会課題の解決に結びつくものであるべきです。同書では現状の宇宙関連のサービスや、それらのサービスのこれからの進化が詳細に解説されているので、新たな用途を発掘するためのヒントが得られるでしょう。
また、宇宙ビジネスを支えるには、どのような仕事があるのかにも触れています。宇宙の仕事というと、宇宙飛行士やロケット・衛星エンジニアなどが花形ですが、その裾野には多くの人材が必要になるのは、他のビジネスと一緒です。特に今後は宇宙ビジネスを企画する人が最も求められ、そのような人の育成が日本の課題だと思っています。
独自データを元に宇宙ビジネスを分析
初級者向けに最後に紹介するのが『宇宙ビジネス入門 NewSpace革命の全貌』(石田真康著/日経BP/2017年8月刊)です。入門とタイトルに書かれているように、本書の内容は盛りだくさんです。宇宙ビジネスにおける市場セグメントやイーロン・マスクやジェフ・ベゾスなど宇宙に関連する起業家たちのビジョン、日本をはじめとする各国の状況など、網羅して知識を得るのに十分な一冊です。
筆者の石田真康氏は、2015年に設立したSPACETIDEの代表理事兼CEOを務めています。SPACETIDEは、宇宙ビジネスに関連するアジア最大級のカンファレンス「SPACETIDE」を開催したり、独自のリサーチを元にした業界動向について情報を届けたりするなど、産業のハブとして宇宙に関する共通課題の解決を目指す企業です。石田氏は、「宇宙戦略基金」のプログラムディレクターにも就任しています。
そういった経験を元に書かれた同書は、日本と世界の宇宙ビジネスが体系的に解説されているものです。非常に参考になるのは、独自のデータに基づいて解説を行っている点です。SPACETIDEが重視しているのは、宇宙関連企業だけでなく、宇宙ビジネスに多くの企業が注目してもらえること。例えば、宇宙ビジネスの現在の市場規模と将来の成長予測を見れば、今後はその市場に大きな可能性があり、自社ビジネスとの接点を見つけ出そうという思いを駆り立ててくれます。
宇宙ビジネスといえば、世界的には米国、中国がその双璧ですが、本書では他の国の動向についても触れられています。これらの国は、それぞれで戦略が異なっており、例えばインドは圧倒的な低コスト打ち上げに強み、英国は宇宙スタートアップへの投資が活発、ルクセンブルクは戦略的に宇宙鉱業に注力など、それぞれに特徴があります。こういった各国の動向は、日本の宇宙ビジネスを考えるうえで、非常に参考になるでしょう。
今回紹介した3冊を読むと、なぜ、宇宙開発が民間企業で盛んに行われているのか、そして開発の先にはどのような世界が開けようとしているのかが、学べるでしょう。次回は、中級者に向けて宇宙ビジネスに関するお薦めの本について紹介します。
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
(取材・構成:木村 知史=CocoSmile 編集者)



