宇宙ビジネスを学びたいという読者に向けて、立命館大学の中須賀真一教授が良書を推薦する3回目です。今回は、中須賀先生が宇宙に関連する多くの書籍の中でも、最も感銘を受けた書籍について紹介します。
人間は宇宙人によって育てられる
宇宙ビジネスの最終回として推薦するのが『幼年期の終り』(アーサー C.クラーク著、福島正実訳/早川書房/1979年4月刊)というSF小説です。SF小説は昔からかなり読んできましたが、その中でもこれは特別で、いわば自分の中の“ベスト”と言える作品です。米国で出版されたのが、1952年と既に70年以上前というのは驚きです。宇宙ビジネスとはちょっと離れますが、宇宙という広い空間、そして宇宙の中の人間を考える意味でも、ぜひ手に取っていただきたい書籍です。
この小説は、ある日突然、圧倒的な科学技術を持つ宇宙人が地球に現れるところから始まります。人類は到底太刀打ちできない存在ですが、彼らは支配や征服を目的としているわけではない。むしろ、人類をより高い段階へと導いていきます。人間は次第に哲学的な成長を遂げていく。そうしたプロセスが描かれています。
著者のクラーク氏が一貫して提示しているのは、人類の進化は内発的なものではなく、外からの働きかけによってもたらされるのではないかという視点です。つまり、人間は自分たちだけで進化したのではなく、外的な存在に導かれてここまで来たという考え方です。この発想がとても印象的で、私は強く共感しました。
この本に出会ったのは大学時代です。私は、宇宙人との接近遭遇というのは、もしかしたら自分が生きている間にも起こり得るのではないか、と考えていました。そして、もしそうなったとき、人類はどう変わるのかという点に強い興味がありました。さらにいえば、人間が宇宙に進出するということ自体が、人類がより高いレベルへ進化するためのきっかけだと思っていました。同書を読んだときに、自分と同じことを考えている人がいると感じて、とてもうれしかったのです。
まだ人類は宇宙人に会ったことはありませんが、彼らは既に地球に来ていたとしてもおかしくないと思っています。仮に地球に来られるほどの高度な文明を持っているとすれば、その種族は極めて平和的でなければならないはずです。なぜなら、他の惑星に到達するほどの技術を築くには、何千年、何万年という長い時間、安定して存続する必要がある。そのためには、争いのない社会でなければ成立しないからです。もし宇宙人が既に地球に来ているとしても、彼らは征服や支配を目的としているのではなく、知的好奇心から観察しているだけです。
講演などでこの話をすると、時々、意味ありげに顔を見合わせる人がいます。もしかすると、「見抜かれた」と思っているのかもしれません。
また、歴史上に突如現れる天才は、私は宇宙人ではないかと思っています。例えば、アルベルト・アインシュタインやレオナルド・ダ・ヴィンチのような人物です。彼らはあまりにも時代を飛び越えた発想を持っています。もしかすると、人類の進化が停滞しそうなタイミングで、外部から「ヒント」を与えるために現れた存在ではないかと思うのです。人類は完全に自律的に進化してきたのではなく、外からの刺激や導きを受けながら成長してきた。これは同書が提示しているテーマと重なります。
これまで3回にわたって宇宙ビジネスに関連する書籍を紹介してきました。1回目の冒頭にも書きましたが、現在は政府からの支援もあって、宇宙に関連する技術開発に資金が振り向けられています。この資金をこれからの日本の成長に生かすためにも、新しい宇宙ビジネスを創出することが必要です。日本には、スペースデブリ(宇宙ゴミ)除去技術で世界をリードするアストロスケールや、民間企業として初の月面着陸に挑むispaceをはじめとする多くの優秀なベンチャーを輩出しています。このようなベンチャーをはじめとして、さらに日本全体がグローバルに宇宙ビジネスで影響力のある存在になれるよう、今後も活動していきたいと思っています。ご注目ください。
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
(取材・構成:木村 知史=CocoSmile 編集者)

