新聞や雑誌などの報道で、最近よく目にする「量子コンピュータ」。その量子コンピュータを学びたいという読者に向けて、大阪大学 量子情報・量子生命研究センター 特任研究員の宮永崇史さんが良書を推薦するコラムの2回目です。前回は量子コンピュータの基礎を学びたいと思う初心者に向けて3冊の書籍を紹介しました。今回はさらにレベルを上げて、具体的に量子コンピュータの応用を目指す方に向けた書籍を4冊紹介します。

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手を動かして量子アルゴリズムを学ぶ

『量子コンピュータの頭の中 計算しながら理解する量子アルゴリズムの世界』束野仁政著、技術評論社
『量子コンピュータの頭の中 計算しながら理解する量子アルゴリズムの世界』束野仁政著、技術評論社

 中級者向けの本の1冊目として紹介する『量子コンピュータの頭の中 計算しながら理解する量子アルゴリズムの世界』(束野仁政著/技術評論社/2023年6月刊)の著者である束野さんは、元々民間企業のシステム・エンジニアとして従事していたのですが、現在では量子クラウドのアーキテクチャの研究開発をしています。また、研究開発の傍ら本書のような入門書の執筆や各種登壇を通じて量子コンピュータの面白さを多くの人に広める活動もしています。

 前回、初心者向けに紹介した書籍では、数式があまり出てこないものを中心に挙げました。一方で、この本は副題として『計算しながら理解する量子アルゴリズムの世界』とあるように、実際に計算をしながら進めることを前提としているので、数式は頻繁に登場します。量子コンピュータは、これまでのコンピュータとは原理原則が違うと前回説明しましたが、量子コンピュータもアルゴリズムに基づいて処理を行っているのは変わりません。本書では量子アルゴリズムという「計算ルール」を理解することで、量子コンピュータの理解に近づきます。

 このため、行列や確率を中心とした数学を用いますが、基礎から解説がされているので、最後まで理解しながら読み進めることができると思います。加えて、実際に量子コンピュータ実機で計算するためのサンプルコードも含まれていますので、まずは手を動かして計算してみたいソフトウエアエンジニアにもおすすめの書籍です。

プログラムの挙動を体験できるサイトを提供

『動かして学ぶ量子コンピュータプログラミング シミュレータとサンプルコードで理解する基本アルゴリズム』Eric R. Johnston、Nic Harrigan、Mercedes Gimeno-Segovia著、丸山耕司監修、北野章翻訳、オライリージャパン
『動かして学ぶ量子コンピュータプログラミング シミュレータとサンプルコードで理解する基本アルゴリズム』Eric R. Johnston、Nic Harrigan、Mercedes Gimeno-Segovia著、丸山耕司監修、北野章翻訳、オライリージャパン

 続いて紹介する『動かして学ぶ量子コンピュータプログラミング』(Eric R. Johnston、Nic Harrigan、Mercedes Gimeno-Segovia著、丸山耕司監修、北野章翻訳/オライリージャパン/2020年8月刊)も、束野さんが執筆した書籍同様に、ソフトウエアエンジニアが手を動かしながら学ぶことを前提とした書籍です。オライリーといえば、技術者向けの専門書を多く出版する出版社としての立ち位置を確立しています。紹介する書籍もそれに漏れず、ソフトウエアエンジニアが実勢に手を動かすことを前提に、プログラミングコードや実行環境などに踏み込んだ解説を行っています。

 同書の最大の特徴は、書籍に掲載されているサンプルプログラムを実行できる専用のサイトを用意していることです。著名なアルゴリズムについて、ハンズオン形式で読み進めることができる構成になっていますので、最後まで飽きることなく学習できると思います。オライリーの書籍ではしばしばサンプルコードという形でコードが提供されることはありますが、本書籍は専用のシミュレータ環境が提供されていることからも非常に気合が入っていると感じられます。

 ソフトウエアエンジニアの中には、「習うより慣れろ」といった感覚の人も多く、まずは慣れを重視する人がいます。そういった方には、書籍で指示された通りに手を動かせば、量子コンピュータがどのように動いているかが感覚的にわかるでしょう。ここから発展させたプログラムの構築などにも進みやすいと思われます。

300もの参考文献に裏付けられた網羅的な内容

『量子コンピューティング 基本アルゴリズムから量子機械学習まで』情報処理学会出版委員会 監修、嶋田義皓著、オーム社
『量子コンピューティング 基本アルゴリズムから量子機械学習まで』情報処理学会出版委員会 監修、嶋田義皓著、オーム社

 中級者向けに紹介する3冊目の本は、『量子コンピューティング 基本アルゴリズムから量子機械学習まで』(情報処理学会出版委員会 監修、嶋田義皓著/オーム社/2020年11月刊)です。同書は、量子コンピュータの原理からその応用までが網羅されていることが特徴の書籍です。ただ、網羅されているといっても、前回紹介した初心者向けの書籍と違い、数式などもふんだんに利用された内容です。ひとくちに量子コンピュータといっても基本アルゴリズムやその応用、また量子コンピュータ自体のアーキテクチャなど知っておくべきことは様々あります。本書は横断的に広いトピックを扱いつつも先端的な内容についても言及しているため、業界全体の網羅的なキャッチアップに非常に有効的な書籍です。

 一つひとつのトピックは2-3ページ程度で簡潔にまとめられており、詳細についてはそれぞれ巻末に参考文献が掲載されています。2020年発行のためそれ以降の最新のトピックについては扱われていないものの量子コンピュータ全体を俯瞰したい方におすすめしたい書籍です。

ハードを含むシステム全体が学べる

『量子コンピュータシステム ノイズあり量子デバイスの研究開発』Yongshan Ding、Frederic T. Chong著、小野寺民也、金澤直輝、濵村一航翻訳、オーム社
『量子コンピュータシステム ノイズあり量子デバイスの研究開発』Yongshan Ding、Frederic T. Chong著、小野寺民也、金澤直輝、濵村一航翻訳、オーム社

 これまで紹介してきた本は、初心者向けもはじめ、どちらかというとソフト寄りのものでした。一方で、次に紹介する『量子コンピュータシステム:ノイズあり量子デバイスの研究開発』(Yongshan Ding、Frederic T. Chong著、小野寺民也、金澤直輝、濵村一航翻訳/オーム社/2023年7月刊)は、量子コンピュータをコンピュータシステムとして捉え、ハードのアーキテクチャを含む全容を網羅する内容となっているのが特徴です。

 実際に「量子コンピュータを作るにはどうすればよいのか」といった観点が重視されて執筆されています。例えば、量子コンピュータにもソースコードを量子デバイスが実行できる形式に変換するコンパイラが必要になってきますが、従来のコンピュータアーキテクチャを踏まえて、量子コンピュータの場合どのように設計すべきかという観点での解説がふんだんにされています。

 量子コンピュータのシステムアーキテクチャを1冊の本にまとめているため、技術的な詳細で不足している箇所もありますが、キーワードを知るという観点で非常に有効的な本です。量子コンピュータを「使う」だけではなく「作りたい」方には非常におすすめの本ですので、ぜひこちらの本を手にとっていただければと思います。

 今回は、量子コンピュータを学ぶ書籍を、主には中級者を意識して紹介しました。ビジネスパーソンというよりは、エンジニアを対象とした書籍が多くなってしまいましたが、興味あるものに目を通していただけると幸いです。次回は、量子コンピュータの最終回として、個人的にお薦めの書籍を紹介します。

宮永 崇史(みやなが・たかふみ)
大阪大学 量子情報・量子生命研究センター 特任研究員
2021年、フューチャーアーキテクト入社、2023年より現職。量子ソフトウェアと量子制御システムの設計・開発を中心に研究。超伝導量子ビットのキャリブレーションソフトやクラウド量子コンピュータのシステム開発など幅広い技術領域を対象としている。

(取材・構成:木村 知史=CocoSmile 編集者)