量子コンピュータを学びたいという読者に向けて、大阪大学 量子情報・量子生命研究センター 特任研究員の宮永崇史さんが良書を推薦するコラムの最終回。今回は、これまでとはちょっと志向を変えて宮永さんが個人的にお薦めする3冊の書籍を紹介します。
量子コンピュータを学ぶためのバイブル
最初に紹介する『量子コンピュータと量子通信(3冊セット)』(Michael A. Nielsen、Isaac L. Chuang著、木村達也翻訳/オーム社/2004年12月刊)は、量子コンピュータに関連する研究者であれば、必ず読んだことがあると言えるほどメジャーな書籍です。原書は2000年に出版されましたが、非常にボリュームがあり、日本においては2004年に翻訳出版される際に、3冊に分割されて発行されました。
25年前に執筆された書籍ですが、量子コンピュータの理論について、網羅したうえで詳細に解説されたものとしては、いまだにこれを凌駕するものは見当たりません。そういった意味では、量子コンピュータを学ぶ人にとっては、参考書となる位置づけになるかもしれません。翻訳版においては、「量子力学とコンピュータ科学」「量子コンピュータとアルゴリズム」「量子通信・情報処理と誤り訂正」の三つに分けられています。
私は学生時代、理学部に在籍し、研究室では超伝導量子回路を研究していました。チップの設計などが主には研究対象だったのですが、そのチップが利用される量子コンピュータにも当然興味が沸きます。ただその当時、量子コンピュータを学ぶための書籍が、ほとんどなく、大学の図書館でこの書籍にたどり着きました。現在も参考書として本書を読み返すことはしばしばあります。バイブルといっても、過言ではないかもしれません。
偉人達はどのようにして量子と向き合ったのか?
量子コンピュータについて学んでいると、当然量子力学を学ぶ機会も出てきます。物理現象でや数式には提唱者の人名がキーワードとして含まれていることが多いので学習の過程で多くの偉人たちを自然と知っていくことになります。量子論の出発点を提唱し量子論の父ともいわれたプランク、光量子仮説を提唱し量子の発展に大きく寄与したアインシュタイン、アインシュタインと量子力学の解釈で論争を起こしたボーア、波動方程式を提唱し量子力学を体系化したシュレーディンガーなど一度は耳にしたことはあるのではないでしょうか。
『量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』(マンジットクマール著、青木薫翻訳/新潮社/2013年3月刊、2017年1月文庫化)は、量子に関連した偉人達の研究の歴史を、人間ドラマも交えて紹介したノンフィクション書籍です。例えば量子力学が提唱された際に、どのような議論がされたのかなど、量子に関連して変革が起きた時々に、どのようなことが起きたかが描かれています。単純に読み物として面白いと思います。
実は私がこの書籍を読んだのも、量子コンピュータを本格的に学ぶ前の学生時代でした。大学の課題図書の中に入っていたので手に取ったのですが、例えばアインシュタインは有名ですが、その人間性は勉強していてもわかりません。そのような偉人の人物像が紹介されているのが想像以上に面白く、映画化されてもいいのではないかと思ったほどです。この企画で紹介するために、改めて読んでみたのですが、やはり天才物理学者達の生きざまにはワクワクさせられました。
これは全くの余談となりますが、同書は多くの科学書の翻訳を手掛けている青木薫さんが訳されています。彼女の翻訳書はとても興味深いものが多く、中でも『フェルマーの最終定理』には引き込まれました。これは17世紀にフェルマーが残した定理を、その後、3世紀にわたって様々な数学者が証明を試みる様子が描かれたものです。数学の知識がなくても読めますし、また日本人も登場してくるので、多くの方が読み進めるのに苦労しないでしょう。量子コンピュータとは関係が薄いですが、こちらも是非、手に取っていただきたい1冊です。
以上、3回にわたって量子コンピュータに関連する書籍を紹介してきました。現在、AIをはじめとするデジタル化の進行により、多大な計算力が必要とされています。この計算力を効果的に生み出す一つが量子コンピュータであるのは間違いありません。我々研究者は、量子コンピュータが当たり前のように使われる日が少しでも早く訪れるよう、研究に力を入れていきたいと思いますので、是非、注目していてください。
大阪大学 量子情報・量子生命研究センター 特任研究員
(取材・構成:木村 知史=CocoSmile 編集者)





