プリファード・ネットワークスの富永朋信氏が、“ぐうの音も出ない”ほどマーケティングについて理解できる考え方をまとめた最新刊『人がモノを買うしくみを言語化する "知ったかマーケター"からの脱却』より、今回は「ブランド・ブランディング」について一部抜粋してお届けする。マーケターにとって何より理解していないといけないテーマであり、既に多くの関連記事や書籍が出ている分野だが、あなたは本当にその本質を理解できているだろうか。その不安を解消していこう。[日経クロストレンド 2026年1月30日付の記事を転載]

ブランドやブランディングについて、あなたは完璧に理解していますか? (写真/Rawpixel.com/stock.adobe.com)
ブランドやブランディングについて、あなたは完璧に理解していますか? (写真/Rawpixel.com/stock.adobe.com)
画像のクリックで拡大表示

ブランドとは何か?

 ブランド・ブランディングという言葉は、マーケターにとってある種特別な響きを持つ。

 ブランドマネジャーは、マーケティング部門の花形ポジションであるし、ちょっと検索をかければありとあらゆるマーケティングコンサルタントが「△△ブランディング講座」などと銘打って持論を展開している。

 しかし、ブランドとは何だろうか。一般的には、ブランド=「らしさ」であるという説明がなされることが多い。本章ではこの「らしさ」の正体を考えるところから論をスタートしていく。

 らしさを考えるに当たり、読者であるあなた「らしさ」とは何か掘り下げてみよう。そこでまずは思考実験を一つ。

  • あなたはホールの壇上に立っている。そして壇上にはあなた以外に2人の人物がいる
  • 3人の前には緞帳(どんちょう)が下りており、観客席から姿は見えない
  • 3人は声を変調するヘリウムガスを吸い、普段とは全然違う声になる
  • 3人は名前を明かすが、A(=あなた)、B、Cとして議論をする
  • 観客は壇上にどんな3人がいるかはわかるが、どの発言者が誰なのかはわからない

 さて、観客席にいるあなたの家族や友人は、3人の発言から、Aがあなただと見抜けるだろうか。実際にやってみればわかるが、これはかなりの確度で当てられる。たとえ声色が変わっていても、言葉の選び方や話の速さ・抑揚などには個性が表れるからだ。

 これは結構面白いことではないだろうか。顔の造作や声といった、存在を伴った具体がわからなくても、これら抽象的な特徴で、人は人を同定できるのだ。らしさの正体を考えるところから出発しているこの議論だが、これらのしゃべり方や話し方などは、まごうことなきあなた「らしさ」の一部だと思える。

 緞帳が上がり、3人の姿が見えるようになったら、さらにいろいろな「らしさ」が観察できる。ボディーランゲージや動作の癖、表情のつくり方、どんな状況でどのような反応をするか、といったすべてのことに、あなたの普段の癖・習慣・習い性・好みなどがちりばめられており、それらはあなた「らしさ」を形づくり、あなたとあなた以外を区別するシグナルとなる。

 この点はとても重要である。「らしさ」があると、他と区別されやすくなるのだ。

「あなたらしさ」が形成される仕組み

 さらに考えを進める。ではあなた「らしさ」はどのようにして形成されるのだろうか。

 まず、図表3-1の一番左をご覧いただきたい。あなたは心の中に持って生まれた性格や両親と共に育まれた価値観を持っている。これらはあなたの根幹部分であり、簡単には変わらない。

図表3-1
図表3-1
画像のクリックで拡大表示

 図表を1ステップ右に移す。あなたは日々、いろいろな意図や考えを持つ。これらは、原則的にあなたの変わらぬ性格や価値観から出てくるものであり、性格や価値観が一貫しているが故に、同じく一貫性を持つ。あなたが持つ意図や考えは、とてもあなたらしいのだ。

 図表をさらに1ステップ右に移す。あなたは意図や考えに基づいて、何か発言したり行動したりする。これらの発言や行動は、一貫性を持った意図や考えに基づくものなので、やはり一貫性を持っている。

 図表をさらに右に移す。ここからはあなたのことではなく、あなたを取り巻く人たち、家族や友人の視点で見ていく。あなたを取り巻く人たちは、あなたの発言や行動を観察し、その背後にあるあなたの考えや意図を推測し、あなたの内在論理=価値観や性格に近接し、それを記憶することにより、あなたという人間を1つ理解する。

 あなたと、あなたを取り巻く人たちの間では、日々こうしたトランザクション(やり取り)が起こる。そしてこれらのトランザクションは、すべてあなたの性格や価値観が起点となっており、一貫性を持った行動・発言として発露されるため、あなたを取り巻く人たちが記憶するあなたに関する理解も一貫したものとなり、それがあなた「らしさ」として形成・強化されていく。

 こうしてみると、「あなたらしさが形成される」ということは、

あなたの心の中にある価値観や性格が
他者の心の中で、理解・蓄積される

 というプロセスであることがわかる。そして他者の心の中で蓄積されたあなたに関する理解の総和が、あなたらしさなのだ

 当たり前のことだが、人の心は見えない。そしてあなたらしさが形成されるということは、誰にも見えないあなたの心の中身と、やはり誰にも見えないあなたを取り巻く人の心の中にある、あなたに関する理解が似通ってくること、ということになる。これはなかなか神秘的で、かつロマンチックなことではないだろうか。

ブランドが形成される仕組み

 人の「らしさ」がどのように形成されるかは、この整理で見えてきた。では、企業や製品・サービスの「らしさ」はどうであろうか。

 人の場合と同様に、まず図表3-2の一番左をご覧いただきたい。企業や商品は、人と違い、価値観や性格を持っていない。人のケースでは、これらは一貫性の源泉であったが、企業・商品の場合でも、価値観や性格に相当する何かがないと、一貫性が担保できず「らしさ」が形成できない。

図表3-2
図表3-2
画像のクリックで拡大表示

 そこでマーケターの出番である。企業や製品サービスにとって性格や価値観に相当する決め事を言語化し、一貫性の源泉とするのだ。これを「ブランド価値規定」という(図表3-3)。

 ブランド価値規定の内容は、一般的には以下のような要素を伴う。これらはスーパーマーケットで売っているような一般消費財を念頭に列記したものである。

  • コンセプチュアルターゲット(製品・サービスの最高のユーザーはどんな人か)
  • ブランドコンセプト(コンセプチュアルターゲットとブランドの関係性)
  • 機能的価値(コンセプチュアルターゲットにとって重要な、この製品・サービスの仕様から導出される価値)
  • 情緒的価値(コンセプチュアルターゲットに、このブランドを使うことにより持ってほしい感情)
  • パーソナリティ(このブランドがもし人だったらどのような性格か、ということ。コミュニケーションのトーン&マナーのベースになる)
  • シンボル(ロゴ、色、サウンドのように、常にブランドと共にあり、消費者がこれに触れたらブランドを想起するトリガーとなるもの)
  • Reason to Believe(そのブランドが信頼に値する背景や根拠)
図表3-3
図表3-3
画像のクリックで拡大表示

「好きだから買う」という意思決定のトリガーがブランド

 書籍のポジショニングの章で、人がものを買う3つ目(1つ目は「なじみがあるから買う」、2つ目は「良いから買う」)のメカニズムとして、「好きだから買う」があると記した。この好きだから、という消費者の状態、消費者とブランドの関係をつくるためには、上記のフレームワークの中で、ブランドコンセプト(ブランドと消費者の関係性=「そのブランドは消費者にとって何か」)、情緒的便益(そのブランドを使ったら温かい気分になるのか、スマートになった気がするのか、エンパワーされるのか、など)、パーソナリティをいろいろな形で表現し、そのブランドがある様子を継続的に消費者に伝え、ブランド独自の世界観を構築する必要がある。

 世界観を構築するためには、画像や(特に)動画の活用が有効だ。なぜなら、画像は現実の世界を切り取った1シーンとして認識され得るので、その中にブランドとユーザーのみならず、ブランドの情緒的便益やパーソナリティと整合した小道具や舞台設定をちりばめることにより、世界観をより強固に表現できるからだ。

 加えて動画であれば、情報量が多い画像に時系列の流れでストーリーを付与することができる。

 世界観が構築された、といえる状況になるためには、いろいろな切り口で情緒的便益やブランドコンセプトを繰り返し消費者に提示する必要がある。その際、資源とクリエイティブの才能が集中していたかつてのテレビCMは、非常に好適な媒体かつコミュニケーションフォーマットであった。

 現在ではテレビCMへの集中は低減し、かつマーケティング施策にもセールスに対する即効性が求められる傾向が強いので、かつてのように画像や動画を使って世界観を構築するという営みには逆風が吹いていると考えられる。そのため、飲料や菓子、日用品などの一般消費財で、今後メガブランドを産出するのはとても難易度が高くなっているのではないだろうか。

 なお自社店舗がある業態、例えばラグジュアリーやアパレルでは、その内装や接客などを通じた顧客経験が設計でき、世界観を構築できる可能性が一般消費財よりはかなり大きい。自動車などの精密機械やスマホなどの電子機器といった商材では、使用経験自体が情緒的価値として認められる可能性があるので、やはり世界観を構築できる可能性がある。

 だが、これらのカテゴリーであっても、画像や動画の活用が世界観構築の強力な手段であることに変わりはない。「好きだから」メカニズムをつくるのが難しくなっていることは、全カテゴリーに共通した課題といえるだろう。

 先に例示したフレームワークは一般論であり、そのブランドが属するカテゴリーによって決めるべき内容は異なってくる。上記の内容やいろいろなフレームワークを機械的に埋めるのではなく、自ブランドの特性に合った形を模索してほしい。

ブランド価値規定はマーケターの中に、ブランドは消費者の心の中に

 書籍のターゲティングの章で、筆者が以前スーパーマーケットでのコンセプチュアルターゲット設定に難渋したエピソードを紹介した。だが、これはブランド構築の最初のポイント、つまり機能的便益や情緒的便益を決める視点決定のために行おうとしたことだった。

 商圏の誰もが使うスーパーで、やみくもに人の単位でターゲットを絞ることは適切でなく、利用理由・来店意図を単位としたターゲティングが良い、という結論になったのは前述の通りだ。では、この気づきをどのようにブランド価値規定に織り込むか、という点についてはかなり頭を悩ませた。

 その結果、スーパーマーケットのブランド価値規定は、

・Reason to Believe
・ミッション
・シンボル
・パーソナリティー

 の4点を定めるのがよい、という結論に至り、当時はそのようにしていた(図表3-4)。

図表3-4
図表3-4
画像のクリックで拡大表示

 現在は若干考えが進化しており、それについては順を追って図表3-2(再掲)を使って述べようと思う。

図表3-2(再掲)
図表3-2(再掲)
画像のクリックで拡大表示

 話を企業・商品ブランド形成のプロセスに戻し、図表上のステップを右に移す。人間の場合と同様に、企業・商品にかかる戦略は揺るぎないブランド価値規定の上に成り立っているので、その出元が共通であることによる一貫性が担保されている。従ってブランド発のコミュニケーションも、一貫した内容やトーン&マナーになる。

 図表をさらに1ステップ右に移し、消費者の視点でブランドを見る。やはり人の場合と同様に、ブランドと消費者の間では、日々こうしたトランザクションが起こる。そして、これらのトランザクションはすべてブランド価値規定が起点となっており、一貫性を持ったコミュニケーションとして発露される。そのため、消費者が記憶する印象も一貫したものとなり、それがあなたブランドとして形成・強化されていく。

 「ブランドが形成される」ということは、あなたらしさが形成されることと同様に、

  • 一般的に公開されることのない、従って見聞きすることが難しいブランド価値規定が
  • 消費者の心の中で、ブランドとして理解・蓄積される

 ということだ。つまり、コンフィデンシャルな文書と見えない心の中身が、一致していくプロセスであることがわかる。そして、消費者の心の中で蓄積されたブランド理解・企業や製品にかかる印象の総和がブランドなのだ。ブランド価値規定はマーケターの机やパソコンの中に、ブランドは消費者の心の中にあるのだ。

 ここまでの説明で、

・ブランドとは何か?
・ブランドはどうやってできるのか?

 が大体見えてきたのではないかと思う。しかし、ブランドを理解した、というにはまだ十分ではない。

※富永氏の「ブランド・ブランディング」を巡る考察はまだまだ続きます。その先についてより詳しくお知りになりたい方は『人がモノを買うしくみを言語化する "知ったかマーケター"からの脱却』をご覧ください。
理論や概念先行だった多くのマーケティング解説本に対し、人の心の機序を理解することで「人がモノを買うしくみ」を言語化し、マーケの重要なコンセプトと営みを徹底解説。誰もが腹落ちできることを目指した、実務に即した「マーケティングの解体新書」とも呼べる一冊です。

富永朋信(著)、日経BP、2200円(税込み)