世の中の意見はすべて個人の意見であり、感想だ。そこに論拠となるファクトがあれば、堂々と述べればいい。情報を伝えるときは、対面、オンライン会議、電話、メール、チャットの順で効果が高い。書籍『嫌な仕事のうまい断り方』(日経BP)の著者で戦略コンサルタントの山本大平さんに4回にわたって聞いた。今回は第2回。
第1回「
山本大平 『嫌なら断る』嫌な仕事のうまい断り方
」
「個人的な意見」という前置きはいらない
第1回では、「聞くのが怖い」がために「嫌な仕事を増やす可能性」について話をしました。
その一方で、私の客先でも、上役が何か意見を尋ねると、「私の個人的な意見ですが」「今の時点での見解ですけど」と逃げ道を残そうとする答え方を目にすることが増えているのですが、そういう社員や部下に対して、「自信ないのかな」「この人には仕事を頼みたくないな」と思う経営者や管理職の方も少なくないのではないでしょうか。
そもそも、世の中の意見のほとんどは個人の意見であり、感想です。そこに論拠となるファクトや考えがあれば、堂々と述べればいいんです。それなのに否定されたり、論破されたりしたくないために、「いかに安全に意見を述べるか」にこだわっている方がいつしか増えてきたようにも感じます。
私の会社では海外企業とも仕事をしますが、「This is my opinion.」と前置きを入れてから意見を述べるビジネスパーソンに私はいまだ出会ったことがありません。そして、誰かが何かを発言して、まったく反論がないケースはまれです。
なので、日本でも、この「個人的な意見」という前置きをなくし、気になることがあれば上役に対してガンガン言えばいいと思っています。年齢も関係ありません。「いや、それができないから困っている……」という声が聞こえてきそうですが、そうこう言っていられる時代でもありません。そして、そんな悠長なことに付き合っていられるあなたの貴重な時間は1秒もないのです。
対面に勝るコミュニケーションはない
話は変わりますが、スマホ慣れのせいなのか、最近では、何が何でもチャットで仕事を完結しようとする方が増えたように感じています。実はこれも危険です。なぜなら、チャットで効率よくやり取りできる情報量はたかがしれているからです。“効率よく”という条件を付けると、チャットで済むことは、イエスorノーの確認か日時の擦り合わせぐらいでしょうか。さっさと電話して話したほうが早くてズレないのに……。相手の本心まで知りたければ会えばいいのに……なんて思ってしまいます。
ちょっと極端な例ですが、原始時代にマンモスを捕獲する際に、チャットで「俺がヤリを投げるよ」「じゃあ、俺が縄をかける」と、どれだけ入念にやり取りしていても、絶対にマンモスは捕まえられなかったと思うんですよね。当たり前ですが、その時代にチャットやスマホがなかったから、ということではなく。
なぜなら、ビジネスの現場の連携って、「思ってたのと違う」といったことばかりだからです。予定調和にシナリオ通り、なんてことはないから、そのときどきで状況をこまめに確認する必要が出てくる。きっとマンモスを捕獲するときも予定不調和ばかりで、結局、仲間の言葉だけじゃなくて、表情やちょっとした身体の動きも細かく確認し合いながら連携(コミュニケーション)していたと思うんですよね。
確かに、デジタルツールが増えて便利な世の中にはなったんですけど、それでもコミュニケーションを取る上で、人の声の機微や表情の変化、あるいは身体の動きからしか感じ取れない情報は原始時代から変わらず存在しますから。
便利さとは裏腹に、我々の祖先が使っていた非言語コミュニケーション能力が、ビジネスシーンではいつしか退化してしまっているように感じています。
コミュニケーションは仕事にも必須の要素ですが、アイコンタクトや阿吽(あうん)の呼吸でコミュニケーションを取るからこそ、臨機応変により難しい連携にも成功することができます。職場の会議でも、リアルでその場の雰囲気や相手の表情などを感じ取れると意見交換の深度や親和性が違ってきますよね。相手から感じる波動やノリのようなものは非言語な情報ですが、それもコミュニケーションには必要で、対面だからこそ感じ取れるものです。
対面とメールの使い分け方
結局のところ、コミュニケーションの目的を「的確な意思疎通」と考えると、テキストや会話で得る言語情報以外にも、人の表情の変化や音声の起伏から読み取れる非言語な情報もあったほうがズレのないコミュニケーションに近づきます。なので、コミュニケーションを的確な意思疎通を図れる順番に並べると、
1. 対面
2. オンライン会議(顔出し)
3. 電話
4. メール
5. チャット
……となるのではないかと考えます。もちろん、どれも相手の時間を奪うことでもありますから、すべてのコミュニケーションを対面で取るべきだとは言いません。「使い分けしていますか」と問うています。
「明日は何時からですか」「場所はどこですか」といったWhen、Where、Who、Yes or Noぐらいなら、チャットやメールがいいと思います。「何時ぐらいなら直接お話しできますか」といった聞き方もテキストで済みますよね。
でも、Why、Howは対面、オンライン会議、電話にしたほうがベターです。もし、新規案件の進め方をチャットで尋ねられたら……ものすごく説明を要するのでそもそも面倒です。
その割にチャットで伝えられる情報量には限界があり、ミスコミュニケーションも起こりがち。WhyやHowの説明までテキストで伝えようものなら、時間はかかるし、ズレます。そもそも相手と対極の意見を述べる内容ならば、なおさら、あなたに対して誤解や溝も生じやすくなるでしょう。
誤解が生じたら、今度は火消しを行う時間が必要になります。だったら、最初から相手の反応を確認しながらコミュニケーションを取れる電話か会うかにすればよかった……経営コンサルをしていると、そんな場面をよく見かけます。
それから、意外とチャットに関しては世代間ギャップもあるようです。私は仕事柄、50代・60代の方とコミュニケーションツールの使い分けについてよく話すのですが、年輩者の方は傾向的に、チャットで「(笑)」やスタンプを使われるとバカにされているように感じるみたいです。
若い世代はそうでもないようですが、そのたった1文字や1スタンプで誤解が生じていたとしたら、印象も時間ももったいない。もし対面だったら「(笑)」のニュアンスも伝わるし、誤解を招くこともないでしょう。そのギャップを知ってから、私は年輩者とチャットするのが怖くなりましたね(笑)。
断るときこそツールの使い分けを
ここまで、自分の主張の要否やコミュニケーションの話をしてきましたが、まとめると、「断る」といった言いづらいシチュエーションのときにこそ「非言語情報を交えて話す」のが最良の選択だと考えています。自分の非言語情報だけではなく、相手の表情や仕草といった非言語情報も読み取って、その上で軌道修正しながら会話を組み立てていく。
一方的に自分が用意したシナリオや脚本に沿って話す行為は、回り回ってもっとも非効率な断り方になりやすいということです。
さらに、その先もその内容を引き続き話し合わないといけない場合は、様子を見ながら、テキストコミュケーションで補いつつ、「違和感」を感じたら、また非言語情報でやり取りできるコミュニケーション方法に戻す。このように適応していくことが、「うまい断り方」に近づくための一つの要件になるように思います。
ツールを選べる便利な時代だからこそ、相手の情報を読み取る努力を惜しまずに、ツールと言葉の選択に配慮すれば、自分の意見をより言いやすくなるのではないでしょうか。
取材・文/三浦香代子 取材・構成/栗野俊太郎(日経BOOKSユニット) 写真/鈴木愛子
その仕事、やる意味あるのかな? 嫌なものは嫌。断っていいんです。つらい職場を脱出するテクニックから自分主体の人生を生きるためのキャリア構築まで、戦略コンサルタントが語ります。
山本大平著/日経BP/1650円(税込み)


