「読書にも戦略が必要だ」。そう語るのは『経営戦略全史〔完全版〕』『ビジネスモデル全史〔完全版〕』『戦略読書 増補版』(いずれも日経ビジネス人文庫)の著者で、ボストン コンサルティング グループ(BCG)やアクセンチュアで活躍し、現在はKIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授を務める三谷宏治さん。幼少期から本好きで、「読書は楽しむもの」と考えていた三谷氏が、なぜ「読書にはいつ、どの本を読むべきかという戦略が必要だ」と考えるようになったのか。そのきっかけや背景について、そしてビジネスパーソンが、キャリアのステージごとにどのような本を選び、どのように読書を活用すべきかを聞いた。
科学書とSFに夢中だった少年時代
人の体が食べるものからできているように、私たちの中身は、読んだものでできています。私がそのことに気づいたのは社会人2年目のころでした。それまでの私にとって、「読書は楽しむためのもの」でした。小学校入学直後に入院生活を送り、本を読むしかやることのない40日間を過ごしたせいか、子どものころから活字好きで、小学生の頃は、『 地球幼年期の終わり 』(アーサー・C・クラーク著、創元SF文庫)などSFが9割で、ときどき科学書。自然科学や科学技術の話題を一般読者向けに解説する『ブルーバックス新書シリーズ』(講談社)は、好奇心を満たしてくれる最高の科学書で手当たり次第読んでいました。
もともと新聞は毎日読んでいましたが、中学生になると、全国紙というものがあることを知り、親に頼んで地元紙の福井新聞のほかに朝日新聞をとってもらい、2紙を毎日端から端まで読んでいました。さすがに株価面は見出しだけでしたが、とにかく1枚1枚全頁に目を通す。大学浪人で福井から東京に移って、購読する新聞は日経新聞と朝日新聞に変わりましたが、新聞2紙を端から端まで読む習慣は今に至るまで変わっていません。
浪人時代に、毎日通っていた書店でたまたま手に取ったのが『 竜馬がゆく 』(司馬遼太郎著、文春文庫。リンクは『新装版 竜馬がゆく(一)』)。タイトルは知っていたのですが、読んでみたら本当に心が震えて毎日1冊ずつ全巻を読みました。その後は幕末を中心とした歴史書や『 新十八史略 』(駒田信二、常石茂ほか著、河出書房新社 リンクはKindle版〈1〉王道・覇道の巻)などの中国ものにも手を広げていました。
大学時代は哲学やビジネス系の本も面白く読みましたが、一番好きだったのはやはり科学系の本。中でも面白かったのが『物理の散歩道』(ロゲルギスト著、岩波書店)。ロゲルギストという匿名の科学者集団が書いたエッセイ集です。例えば、沸騰した水の水面が滑らかに見えるのはなぜか、水滴が落ちたときに澄んだ音がするのはなぜかなど、身の回りの疑問からどうしたら調べられるか、なぜそうなるのかを突き詰め、身近な物理現象の真実に迫っていくさまにワクワクしていました。
人と同じものを読み続けていたら意見も同じになる
大学4年の秋、生まれて初めて必要に迫られての読書をしました。内定先のボストンコンサルティング グループ(BCG)から入社までに読むようにと、課題図書が送られてきたのです。物理専攻で経営学やマーケティングに無縁だった私はこの時初めて、『 コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント 』(フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー、アレクサンダー・チェルネフ著、丸善出版、画像とリンクは原書16版)や『 競争の戦略 』(マイケル・ポーター著、ダイヤモンド社)を知りました入社まで時間があったので、注釈を書き込んだり文中の数字を書き出して比べたりしながら、かなりじっくり読みました。特に『競争の戦略』には事例がたくさん紹介されていますが、文章ばかりなので、「いくつかの要因がある」とあれば、小見出しや段落に通し番号を振ったり、まとめの図表を勝手につくったりしていましたね。入社後もマーケティングやファイナンス、経営戦略、経済学などは、読書で強化していきました。
一方、問題だったのは「サラリーマンの心」です。私は福井の酒食料品店の長男だったので、自営業(特に小売)のことはよく分かります。1袋のポテトチップスが売れて粗利が20円入ってくる、その積み重ねで自分たちの生活が成り立っている感覚、毎日仕入れる生鮮食品が売れ残ることの恐怖など。でも一般のサラリーマンの感覚や家や会社でどういう生活をしているのかをほとんど知りません。入社後、ベテランの先輩に相談したら、「だったらサラリーマン小説を100冊読めばいいじゃねえか」と言われて、『炎の経営者』(高杉良著/講談社文庫)ではオーナー経営者の気迫を、『小説日本銀行』(城山三郎著/新潮文庫)では、銀行の世界の怖さを学びました。結局、1年で100冊くらい読みました。小説を通じてサラリーマンの世界を疑似体験し、もう一方でコンサルティングビジネスに必要な本を読みまくっていたのが1年目です。
ところが社会人2年目のある日、職場で同僚数人と雑談をしていたら「〇〇って××だよね」と、初めて人と意見がかぶりました。これは二重の意味でショックでした。私は多少なりとも「独自の面白い視点を持っている」ことが自分の価値であり、そこを評価されてBCGに採用されたと思っていたのですが、それが人と全く同じ意見を言ってしまった、しかも残念なことにそれが実に凡庸な意見だったのです。ガッカリだけでなく、危機感すら覚えました。
直観的に「原因は本だ」と思いました。ヒマさえあればサラリーマン小説とビジネス書ばかり読んでいた1年半。人と同じものを読み続けていたら意見も同じになってしまう、これではダメだ、読書にもポートフォリオが必要だ、資源配分が必要だと考えたのです。楽しむためだけの読書、あるいは仕事のためだけの読書から、自分の独自性をつくるための読書へ大きくシフトさせました。
読書ポートフォリオで資源配分を考える
何を、いつ、どう読むかの工夫で自身のオリジナリティーを育て維持する。そのためのポートフォリオを説明しましょう。
これはBCGがかつて編み出した「成長・シェアマトリックス」、しばしばプロダクトボートフォリオマネジメント(PPM)といわれるものです。横軸は「相対シェア」で、縦軸が「市場成長率」の2×2のマトリックスで4つに分け、企業が持つ複数の事業をどう位置づけるのか、経営資源(特に資金)をどの事業に振り分けるかを明らかにするための分析ツールです。
例えば、市場成長率は高くない(市場は成熟している)けれど、相対シェアが高い(シェア1位)のであれば「金のなる木」に分類されます。そこでの基本方針は「低成長・高シェア」の維持であり、投資は最小限にとどめ、そこで得た資金の一部は、成長率は高いけれどまだシェアが低い「問題児」事業から次のスターを育てるべく選択的に投入するといった形で、経営資源の配分スタンスを明確にしました。企業は環境変化に対応しつつ成長を続けるために、この事業ポートフォリオを随時見直し、段階的に変えていくわけです。
読書も同じです。1日24時間という誰にも共通の時間という資源を、どんなジャンルの読書にいかに配分するか。社会人1年目と3年目の資源配分、「読書ポートフォリオ」が同じでいいはずがありません。次回からは、それぞれの段階に応じた読書ポートフォリオの考え方、読むべき本を紹介しましょう。
この記事で取り上げた本
| 書名 | 著者 | 出版社・レーベル |
|---|---|---|
| 地球幼年期の終わり | アーサー・C・クラーク | 創元SF文庫 |
| 竜馬がゆく | 司馬遼太郎 | 文春文庫 |
| 新十八史略 | 駒田信二、常石茂ほか | 河出書房新社 |
| コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント | フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー、アレクサンダー・チェルネフ | 丸善出版 |
取材・文/中城邦子、構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集)、写真/鈴木愛子
メディチ家「国際為替・決済」から、フォード「垂直統合」、アマゾン「ロングテール」まで画期的なビジネスモデルを、誕生から衰退までストーリー形式でダイナミックに読み解く。
三谷宏治著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)
ポーター、コトラー、ミンツバーグ、BCG、マッキンゼー etc. 20世紀初頭から現在まで、100年の間に登場した経営戦略論を紹介します。経営戦略論の変遷を一気読み!
三谷宏治著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)
[2025/10/22 16:30]図版「BCGの成長・シェアマトリックス」中、横軸「相対シェア」の高低が左右逆でした。
[2025/10/28 15:00] 本文中の「ロデルギスト著」は正しくは「ロゲルギスト著」でした。
お詫びして訂正します。いずれも修正済みです。








