『経営戦略全史〔完全版〕』『ビジネスモデル全史〔完全版〕』『戦略読書 増補版』(いずれも日経ビジネス人文庫)の著者で、KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授の三谷宏治さんは、「私たちは読んだ本でできている」という。ビジネスパーソンはいつ、どんな本を読むべきか、今回は読書ポートフォリオ・マトリックスをもとに、就活時期から社会人1年目の読書ポートフォリオと読むべき本を聞きました。
1回目 三谷宏治 読むべき本は「読書ポートフォリオ」で考える から読む
2×2の4象限で読書戦略をたてる
私がボストン コンサルティング グループ(BCG)のプロダクトポートフォリオ・マトリックス(PPM)にならって作ったのが「読書ポートフォリオ・マトリックス」です。自分が読む本や雑誌のタイプを、横軸は「ビジネス度」で【ビジネス系/非ビジネス】の2分類、縦軸は「基礎度」で【基礎/応用・新奇】の2分類。計4分類するものです。
まずは①~④の各象限の位置づけを簡単に説明します。
- 【ビジネス基礎】は、少数の古典をじっくり読んで徹底攻略しましょう。テーマとしては、企業戦略や、事業戦略、マーケティング、生産・物流、財務、IT、人事・組織、論理的思考など。自身が今、関わっているビジネスの主要テーマごとに1~2冊でかまいません。古典を今さら? と思うかもしれませんが、どの分野でも古典といわれるものを読んであれば、そのあと何を学んでもその体系の内外のどこかに位置づけ理解することができます。
- 【ビジネス応用】は、毎年何千冊も出版される新刊の中で、適当に選びます。成功や失敗事例など、ファクトを中心にいろいろな事業の実例や新しい理論を読みましょう。
でもビジネス系の本や雑誌だけ読んでいると、確実に視野が狭く、視座が固定的になってしまいます。非ビジネス系の読書も大切です。 - 【非ビジネス基礎】は、今関わっているビジネスから離れた分野の学びを楽しみましょう。私の場合は、それがSFだったりしますが、歴史書でも科学書でもいいでしょう。自然や人の本質を描こうとしている本なら、文芸書でも何でもOKです。楽しく雑学として、自分の世界を広げていきましょう。
- 【非ビジネス応用・新奇】は、新規ではなく新奇であることがポイント。自分にとって世の中にとって新奇なもの、流行をチェックします。選択方法としては、書店でたまたま目に留まったものを読む、はやりものを読んでみる、新聞や雑誌、書評サイトの書評から選ぶ、人にお薦めを聞くなどです。
第1回 「三谷宏治 読むべき本は『読書ポートフォリオ』で考える」 でもお伝えした通り、企業が成長し続けるために事業ポートフォリオを随時見直し、段階的に変えていくのと同様、読書も段階に応じて読む本を見直し、バランスを変えていく必要があります。時間という誰もが同じだけ持っている資源の配分を、変えていくのです。『戦略読書 増補版』では4つの時期に分けて、読書ポートフォリオを紹介しています。
第1期 就職活動期~社会人1年目は古典を読み通すことから
今回取り上げる第1期は、就職活動~社会人の1年目。ビジネスの世界で一人前になるためにまずはビジネスパーソンとして足腰を鍛え、使える技を増やしていく時期です。
社会人になる前、就職先が決まったら、人事部から「入社までに読むべき本のリスト」などが送られてくることがあります。そうしたものがなくても、先輩やインターンシップなどでお世話になった人に、お薦め本を聞いてみるといいでしょう。
社会人1年目は、年100冊を目指します。まあ「ビジネス系」に100%全部投入でもいいでしょう。
目安は、【ビジネス基礎】10冊、【ビジネス応用】90冊くらいでしょうか。90冊は厳しいと思う人もいるかもしれませんが、ここには「日経ビジネス」などのビジネス誌も含んで構いません。年間100冊読む時間なんてないと思うかもしれませんが、通勤・通学電車の中でスマートフォンを見ている時間の半分を読書に振り向けるだけで、朝夕30分ずつ計1時間が捻出できます。あとはランチタイムや寝る前にSNSやゲームに使っている時間を半分読書に戻すだけで、1日平均80分ほどの読書時間が生まれるはず。楽勝です。
まずは①【ビジネス基礎】のカテゴリで読みたい本です。入社前から社会人1年目のまだ時間がある時期こそ、コトラーらの『
コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント
』(フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー、アレクサンダー・チェルネフ著/丸善出版)、『
競争の戦略
』(マイケル・ポーター著/ダイヤモンド社)などの基礎や大作をじっくり読みましょう。これらは私もかつて本に書き込みをしながら何度も読み込みましたが、その後の20年弱の経営戦略コンサルタント生活の基礎になりました。
最新の『マーケティング・マネジメント』第16版は800ページ超もあります。
基本編
は500ページ弱なので、そちらでもいいかもしれません。また、『
組織は戦略に従う
』(アルフレッド・D・チャンドラーJr著/ダイヤモンド社)はケーススタディが中心で面白く読めるでしょう。
古典や昔の事例なんてと思うかもしれませんが、ベースとなる企業事例の知識がなければ、今見えている範囲しか理解できなくなってしまいます。例えば、「調べる」という行為一つをとっても、かつては百科事典や辞書を使ったり、図書館に行って関連図書や新聞・雑誌のバックナンバーを参照したりしていました。それを知っていたら、Google検索で家にいながら世界の情報を検索できるようになったことの意義が分かります。
しかし、ChatGPTなど生成AIに聞くことが日常で育ち、それ以前を知らなかったら、Google検索もChatGPTも何がすごいのか分からない。どんな仕組みで、何がどう変化したのか、進化のステップはどういうものだったのかを分かっていることが重要なのです。
「全史もの」で基礎を確認、ビジネス応用本のヒントを得る
ビジネスパーソンとしてのスタートを切ったばかりの時期には、【ビジネス基礎】としてテーマごとに「全史もの」を読むこともおすすめです。同じ業界、同じビジネスであったとしても、時間とともに常識がどんどん変わっていくことの面白さや、同じ時代でもやり方はいろいろあって、答えは1つではないことを認識できるのが全史ものの良さです。事例が豊富にあって基礎の考え方が分かるものとしては『 ビジネスモデル全史〔完全版〕 』(三谷宏治著/日経ビジネス人文庫)、『 会計の世界史 』(田中靖浩著/日本経済新聞出版)、『 IT全史 情報技術の250年を読む 』(中野明著/祥伝社黄金文庫)などをお薦めします。
「全史もの」では、基礎の確認をすると同時に、紹介されている書籍や論文から、応用本を選ぶこともできます。例えば、『 経営戦略全史 〔完全版〕 』(日経ビジネス人文庫)は、20世紀初頭からの経営戦略論の流れを知るだけでなく、辞書的に気になる単語の意味や位置づけや、主たる関連書籍や論文を知ることができます。
自著が続きますが、『 新しい経営学 』(三谷宏治著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は「経営学」の基礎を理解する助けになるはずです。経営学はまことに幅広い学問で、経営戦略、マーケティング、アカウンティング、ファイナンス、人・組織論、オペレーションの6分野の束のこと。これまで専門分野の寄せ集めに過ぎなかった経営学の基礎本を、ビジネスの目的別に再構築した入門書が『新しい経営学』なのです。
ビジネス応用では序章と図表を斜め読み。数字やファクトにこだわる
この時期、②【ビジネス応用】で、一番力を入れるべきはファクトです。興味のあるテーマについて、いろいろな事業の実例を読みましょう。例えば、『 戦略は「1杯のコーヒー」から学べ! 』(永井孝尚著/KADOKAWA、『 たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング 』(西口一希著/翔泳社)、『P&Gウェイ』(デーヴィス・ダイアー、フレデリック・ダルゼル、ロウェナ・オレガリオ著/東洋経済新報社)、『 ドリルを売るには穴を売れ―誰でも「売れる人」になるマーケティング入門 』(佐藤義典著/青春出版社)など。読む時もファクトと数字にこだわることが大切です。
基礎さえあれば斜め読みで構いません。「はじめに」や「序章」、目次などで全体をつかんだら、ざっと読みながら図表があるところはしっかり見て、ピンと来るものあったらその前後を読む。ファクトとして人に話して面白そうな事例を拾う、数字が出てきたら書き出してみるといいですね。
『 戦略は「一杯のコーヒー」から学べ 』セブンカフェ、マクドナルド、スターバックス、ブルーボトルコーヒーなど事例をコーヒーのみで通していて、コーヒービジネスの本に見えるのですが、戦略の多様性が感じられ私自身も学びがありました。
就職活動期には非ビジネスの古典も
なお、時期が前後しますが、就職活動期の読書ポートフォリオでは【非ビジネス基礎】として古典の大著を読んでおくことをおすすめします。時間に余裕がある時期だからこそ、大作にも挑みやすいはずです。私の場合はSF、『 銀河帝国の興亡 』(アイザック・アシモフ著/創元SF文庫、リンクは新訳版1:風雲編)でした。
これは20万光年、1000年間の物語です。子どものころからSFを読み続けていましたが、中学生のとき「SFをこんなに読んでいるけど、きっと人生の役には立たないんだろうな」と思ったのを覚えています。でもそうではありませんでした。
SFはヒトの根源的なテーマを論じるのに最高の場所です。宇宙人との邂逅、つまりファースト・コンタクトものは、「コミュニケーション」の本質とは何かを教えてくれます。アンドロイドや機械知性(AI)ものは、「ヒト知性の本当の価値」を抉り出す舞台になるでしょう。
私にとってSFや科学書は、人とちょっと違った情報や発想の源であり、自らをコモディティ化しない学びの源泉でした。
この記事で取り上げた本
| 書名 | 著者 | 出版社・レーベル |
|---|---|---|
| コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント | フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー、アレクサンダー・チェルネフ | 丸善出版 |
| コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント 基本編第3版 | フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー、アレクサンダー・チェルネフ | 丸善出版 |
| 競争の戦略 | マイケル・ポーター | ダイヤモンド社 |
| 組織は戦略に従う | アルフレッド・D・チャンドラーJr | ダイヤモンド社 |
| ビジネスモデル全史〔完全版〕 | 三谷宏治 | 日経ビジネス人文庫 |
| 会計の世界史 | 田中靖浩 | 日本経済新聞出版 |
| IT全史 情報技術の250年を読む | 中野明 | 祥伝社黄金文庫 |
| 経営戦略全史 〔完全版〕 | 三谷宏治 | 日経ビジネス人文庫 |
| 新しい経営学 | 三谷宏治 | ディスカヴァー・トゥエンティワン |
| 戦略は「1杯のコーヒー」から学べ! | 永井孝尚 | KADOKAWA |
| たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング | 西口一希 | 翔泳社 |
| P&Gウェイ | デーヴィス・ダイアー、フレデリック・ダルゼル、ロウェナ・オレガリオ | 東洋経済新報社 |
| ドリルを売るには穴を売れ―誰でも「売れる人」になるマーケティング入門 | 佐藤義典 | 青春出版社 |
| 銀河帝国の興亡 | アイザック・アシモフ | 創元SF文庫 |
取材・文/中城邦子、構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集)、写真/鈴木愛子
メディチ家「国際為替・決済」から、フォード「垂直統合」、アマゾン「ロングテール」まで画期的なビジネスモデルを、誕生から衰退までストーリー形式でダイナミックに読み解く。
三谷宏治著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)
ポーター、コトラー、ミンツバーグ、BCG、マッキンゼー etc. 20世紀初頭から現在まで、100年の間に登場した経営戦略論を紹介します。経営戦略論の変遷を一気読み!
三谷宏治著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)
















