『経営戦略全史〔完全版〕』『ビジネスモデル全史〔完全版〕』(いずれも日経ビジネス人文庫)著者で、ボストン コンサルティング グループ(BCG)、アクセンチュアで経営戦略コンサルタントとして活躍した三谷宏治さん。キャリア戦略に応じて、読むべき本を変える「読書ポートフォリオ」に基づいた読書戦略を提案する三谷さんに、今回は社会人5~10年目の読書ポートフォリオとお薦め本について聞きました。
1回目
三谷宏治 読むべき本は「読書ポートフォリオ」で考える
2回目
三谷宏治 就活~社会人1年目の「読書ポートフォリオ」と読むべき本
3回目
社会人2~4年目の読書は「非ビジネス」ジャンルを増やす
から読む
「戦略読書」は、その人個人のキャリア戦略に沿わせていくものになります。社会人5~10年目は中堅といわれる領域に入り、ビジネスを深めていく時期です。
読書ポートフォリオとしては、年間100冊は維持したいものですが、量より質。セグメント別の資源配分は、己の殻を破り、幅を広げるために【非ビジネス】を増やします。基礎として選んでいたジャンル以外の【新奇】を増やすつもりで、月1冊、年間12冊は読んでみましょう。
【ビジネス基礎】は少数を徹底攻略。ある本に興味を持ったら、その同じテーマや気に入った著者つながりで深めていくことができます。【ビジネス応用】では、事例などのファクトを中心に集めましょう。人や物事を動かすときに力があるのは、ファクト、特に数字です。例えば、全国5000店を展開するチェーンの総売上が1兆円だとしたら、1店舗当たり年間2億円。1日当たり約54万8000円だということが割り算をするだけで分かります。数字が2つ出てきたら四則演算をしてみるなど、次につながる情報がないかを意識して読みましょう。
【ビジネス系】は気になるテーマ、著者から深掘りする
【ビジネス系】は勤務先の業種や職種によってテーマが違いますが、例えばイノベーションについて知りたいと思ったら、どうテーマを深め、読書の幅を広げていくかという例を紹介しましょう。
基礎としては、『 イノベーションのジレンマ 増補改訂版 』(クレイトン・クリステンセン著、翔泳社)という本があります。大企業にとってイノベーションはなぜ難しいのか、そこには共通する特徴があると著者は書いています。イノベーションは、初期についた優良な顧客が育ててくれます。資金を提供してくれ、実現すべき機能や品質レベルを示してくれます。トランジスタやICが誕生し成長できたのは、NASAという顧客がいたからです。
NASAがアポロ計画実現のためにそれらを選び、望むスペックを指し示し、大量のお金をつぎ込んでくれました。だからこそ、イノベーションを起こした企業はその大切な既存顧客の半歩先を進もうと努力します。それは顧客志向の良い会社なのですが、だからこそ別の潜在顧客が求める次の破壊的なイノベーションに遅れてしまうのです。
本著の原題は『The Innovator’s Dilemma』。イノベーションにジレンマがある訳ではありません。イノベーションを起こしたイノベーター(大企業)だからこそ、大事な既存顧客に縛られて、次のイノベーションを起こせなくなる。それがこのタイトルの本当の意味なのです。
クレイトン・クリステンセンは、『イノベーションのジレンマ』では、未来の市場・顧客をとらえるために「小さな組織を社内につくって任せよう」と提言していますが、その後の著書『 イノベーションへの解 』(翔泳社)では、やっぱり大企業の中では変身は困難だとして「新たな組織・企業で破壊者になろう」と説いています。
ただ、その後の『 イノベーションのDNA[新版] 』(クレイトン・クリステンセン、ジェフ・ダイアー、ハル・グレガーセン著、翔泳社)では、「イノベイティブなリーダーは育てられる、5つのスキルのうち4つは鍛えうる、その中核は『発見力』だ」と主張しています。
このようにテーマつながりで読み広めながら、ファクトを追い、それまでの業界の常識や固定観念が覆された部分にこだわることで、新たな発見や気づきを深めていくことができます。
著者つながりでは社会心理学者のアダム・グラントを紹介します。彼の本の素晴らしいところは序章や、はじめにを読むと本のおよその内容が把握できるだけでなく、そこでとても印象的な実例が紹介されていることです。例えば、『 ORIGINALS 』(三笠書房)は、彼自身の教授およびエンジェル投資家としての大失敗談から始まります。でも、彼は転んでもただでは起きません。なぜそんな失敗を犯したのかを反省し、研究テーマとしたことで、彼は新しい起業家像を見いだしました。ファースト・ムーブ・アドバンテージなんてない、一番手になるより適切なタイミングで起業する方がよい。専任で頑張る人より副業で頑張る人、自信家のリスクテイカーより臆病者の方が成功するという、これまでの常識を否定する話がどんどん出てきます。成功した起業家たちは、奇人・変人ではなく、ちょっとだけ変わったORIGINALな人たちでした。
グラントの出世作はこの本の前の『GIVE&TAKE』です。そこに遡ってもいいですが、今回は次の作品『 THINK AGAIN 』(三笠書房)を紹介しましょう。
この本の最初に出てくる事例はある悲劇でした。1949年に米国・モンタナ州の野火の消火活動をした消防士15名中12名が亡くなったのです。2名は体力で逃げ切り、残り1名は隊長だったのですが、絶体絶命の中、素早い再考で「エスケープ・ファイヤー」を敢行し難を逃れます。しかし他の隊員たちはそれをまねることなく、亡くなってしまいました。でもその12人の本当の死因は何だったのか、ということが、そこから何段階にもわたって語られます。そして、その最終的な結論は「野火はそもそも消火する必要がない」でした。野火は消すものという「思い込み」とそれを再考しなかった為政者たちの不作為こそが、消防士たちの命を奪ったのです。だからこそ彼は主張します。「Think Again」と。アダム・グラントにはこういった面白い著作が他にもあるので、ぜひ読んでみてください。
パーパス経営をテーマに多視点から読む
関心を持ったキーワードから深掘りする方法もあります。
例えば、最近「パーパス経営」ということがよくいわれます。このパーパス経営を例に、「多面的な本の読書法」を紹介しましょう。日本での「パーパス経営」の源流がどこかは明確ではありませんが、遡ってみると、2018年に『 パーパス・マネジメント 』(丹羽真理著、クロスメディア・パブリッシング)が出版されています。実例を知るなら『 THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス) 』(ユベール・ジョリー著、英治出版)がよく知られています。すっかり凋落(ちょうらく)していた米国の家電量販店ベスト・バイを1人のCEOがパーパス経営によって再生させた有名な事例です。
すっかり人気となったパーパス経営に対して、経営学の重鎮リチャード・P・ルメルトは『 戦略の要諦 』(日本経済新聞出版)でミッションやパーパスなんて無意味だと、真っ向から反論しています。ビジネスが成功するかどうかを決めるのは戦略的な「核心」である。その核心を見つけることこそ経営者がしなければいけないことであり、曖昧で差別性のないパーパスを掲げることなどではないと。
パーパス経営に関しては、こういった礼賛系も反論系もある中、セールスフォース・ドットコムの創業者で多くの著書を持つマーク・ベニオフの最新著『 トレイルブレイザー 』(マーク・ベニオフ、モニカ・ラングレー著、東洋経済新報社)が最も優れた事例を示していると(個人的には)思います。
セールスフォースを世界最大の顧客管理サービス企業に育てあげた成功について、彼自身、その成功を解説した本で様々に書いてきました。しかし「社会貢献というパーパスを掲げたことが成功の最大の要因だった」とこの本では言っています。
自分たちのビジネスの要諦は何かと言えば、優秀なITエンジニアを雇えるかどうかだが、その優秀なエンジニアたちが求めているものは、お金だけじゃない。自分自身が社会貢献できていると感じられるか、そして企業にも社会貢献の姿勢と行動を求める。セールスフォースは「社会貢献」を自社の存在意義(パーパス)として掲げ、社会貢献モデル「1-1-1」で、株式の1%、製品の1%、従業員の就業時間の1%を使って社会貢献にささげるという数値目標を作って、実際にやり続けてきた。だからこそ優秀なITエンジニアが集まり、セールスフォースの成長を支えてくれた。事業の戦略戦略の核心(優秀なITエンジニア)とパーパス(社会貢献)の合致こそがその成功の秘密でした。
【非ビジネス】は自分の好みを超えて売れている本を読んでみる
社会人5年目になれば、自らの問題意識や解決法を持ち、チームメンバーと共有し、実行することが求められます。そこで必要なのは新しい言葉を磨き、論理を学ぶことです。
この時期は年間100冊のうち1~2割をこれまでなじみのないジャンルの本=【非ビジネス】の「新奇」に振り向けます。月に1~2冊のペースで、特にリベラルアーツ(教養)を深めることを意識して読むのが有効です。
「新奇」はこれまでなじみのない言葉や考え方を取り入れることが目的なので、学問をキーにしてどのジャンルを読むかを考えます。探す方法としては、大学の教養学部の授業で使われる本や、東京大学の講義資料を無償で公開するWebサイト(UTokyo OCW)、あるいは書店の普段行かない書棚で、人文・社会・自然科学など興味を持った本や自分の深掘りしたい分野を探してみましょう。『 高校生のための東大授業ライブ 学問からの挑戦 』(東京大学教養学部編、東京大学出版会)シリーズは、これまで6巻が刊行されていますが、興味がそそられるテーマが並んでいます。月に1冊「新奇」を読むとっかかりに良いのではないでしょうか。
もう一つは、とりあえずはやっているものに、書店や図書館で一通り目を通してみることです。私もこの機会に日販の「2025年上半期ベストセラーTOP20」を見てみました。すると『 大ピンチずかん 』(鈴木のりたけ作、小学館)とか本屋大賞を受賞した『 カフネ 』(阿部暁子著、講談社)などが目に止まりました。売れている本だったら何かあるはずだと思って読みます。非ビジネス系は新しい領域を自分の好き嫌いは関係なく、とりあえずは1回読んでみましょう。全部を熟読する必要はありません。楽しく斜め読みでも十分です。本を通じてどんどん世界が広がっていくはずです。
この記事で取り上げた本
| 書名 | 著者 | 出版社・レーベル |
|---|---|---|
| イノベーションのジレンマ 増補改訂版 | クレイトン・クリステンセン著、玉田俊平太監修、伊豆原弓訳 | 翔泳社 |
| イノベーションへの解 | クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、玉田俊平太監修、伊豆原弓訳 | 翔泳社 |
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イノベーションのDNA[新版]
破壊的イノベータの5つのスキル |
クレイトン・クリステンセン、ジェフ・ダイアー、ハル・グレガーセン著、櫻井祐子訳 | 翔泳社 |
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ORIGINALS
誰もが「人と違うこと」ができる時代 |
アダム・グラント著、楠木建監訳 | 三笠書房 |
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THINK AGAIN
発想を変える、思い込みを手放す |
アダム・グラント著、楠木建監訳 | 三笠書房 |
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パーパス・マネジメント
―― 社員の幸せを大切にする経営 |
丹羽真理著 | クロスメディア・パブリッシング |
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THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)
――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ |
ユベール・ジョリー著、キャロライン・ランバート執筆協力、樋口武志訳 | 英治出版 |
| 戦略の要諦 | リチャード・P・ルメルト著、村井章子訳 | 日本経済新聞出版 |
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トレイルブレイザー
:企業が本気で社会を変える10の思考 |
マーク・ベニオフ、モニカ・ラングレー著、渡部典子訳 | 東洋経済新報社 |
| 高校生のための東大授業ライブ 学問からの挑戦 | 東京大学教養学部編 | 東京大学出版会 |
| 大ピンチずかん | 鈴木のりたけ | 小学館 |
| カフネ | 阿部暁子 | 講談社 |
取材・文/中城邦子、構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集)、写真/鈴木愛子
メディチ家「国際為替・決済」から、フォード「垂直統合」、アマゾン「ロングテール」まで画期的なビジネスモデルを、誕生から衰退までストーリー形式でダイナミックに読み解く
三谷宏治著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)
ポーター、コトラー、ミンツバーグ、BCG、マッキンゼー etc. 20世紀初頭から現在まで、100年の間に登場した経営戦略論を紹介します。経営戦略論の変遷を一気読み!
三谷宏治著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)
掲載当初、『大ピンチずかん』の書名に誤りがありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2025/11/05 11:00]




![『イノベーションのDNA[新版] 破壊的イノベータの5つのスキル』(クレイトン・クリステンセン、ジェフ・ダイアー、ハル・グレガーセン著、櫻井祐子訳/翔泳社)/画像クリックでAmazonページへ 『イノベーションのDNA[新版] 破壊的イノベータの5つのスキル』(クレイトン・クリステンセン、ジェフ・ダイアー、ハル・グレガーセン著、櫻井祐子訳/翔泳社)/画像クリックでAmazonページへ](https://cdn-bookplus.nikkei.com/atcl/column/100600573/102300004/05.jpg?__scale=w:600,h:450&_sh=0907c0100b)







