世の中には、「努力」し続けられる人と、そうでない人がいます。努力できる人は、目標に向かって着実に歩みを進め、大きなことを成し遂げることができます。一方、努力が苦手で何事も中途半端になってしまう人も少なくありません。努力できる人とできない人の差は、いったいどこにあるのでしょうか。この連載では、人間の行動と心理について長年研究し、行動経済学・ナッジを基に企業へのコンサルティングを行っている経済学者・山根承子さんが、「努力ができる人とできない人はなぜいるのか?」「努力をしておくといいのは本当か?」「正しい努力とは何か?」「どうすれば努力できるのか?」という観点から、「努力」を科学で解明します。今回のテーマは「強い意志に頼らず努力を続ける方法」について。意志が弱い人が努力するための仕掛けを考えます。

努力を自動化する方法

 意志の強さと努力の継続が関係していることを前回までに見てきた。それでは、「強い意志」を手に入れる方法はあるのだろうか?
 今回はその問いに真正面から答えるのではなく、視点を変えてみたいと思う。つまり、意志が弱いのであれば、意志が介在する機会を最小限にすればいいのではないだろうか。何も考えなくても習慣として「努力」ができるようになれば、意志の強さは問題ではなくなるだろう。

 ある研究では、習慣を「環境という刺激によって、自動的に行動が行われること」と定義している(1)。例えば、「ソファに寝そべる」と自動的に「スナック菓子を食べてしまう」というようなものである。
 会社の帰りは1駅歩く、夕食後は1時間勉強をする。意識してやっているうちは「実行意図」だが、これを繰り返し、何も考えなくてもできるようになれば、「習慣」と呼べるようになっているだろう。

 このように何も考えなくても行えるようになることは「自動化」と呼ばれており、自動化の程度を測定することで、その行動が「習慣」として根付いたかどうかを判断している研究が多い。
 自動化の程度は、直接本人に尋ねる形で測定されており、「その行動を自動的に行った」「その行動を特に何も考えずに行った」「その行動をせずにはいられない」といった項目に「非常に当てはまる」から「全く当てはまらない」までの段階で回答する。

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どのくらい我慢すれば、「自動でできる」ようになるのか?

 では、行動が自動化するまでには、いったいどのくらいの時間がかかるのだろうか?
 英語圏では、「新しい習慣を身に付けるには21日かかる」という俗説があるそうだ。これが本当なのかを確かめた研究がある(2)。男性30人、女性66人の96人に対して、その人が普段やっていない行動を定着させることを目的とした研究だ。
 普段やっていない行動とは、例えば「ランチのときに果物を食べる」「夕飯前に15分走る」などで、各人がどんな行動を習慣化するかは、面談により決定された。これを84日(12週間)にわたって調査し、その行動がどの程度自動的に行われるかを測定した。

 この研究で使用された自動化の指標は42点満点で、点数が高いほど「その行動を自動的に行った」ということになる。
 例えば図1は「ランチのときに果物を食べる」が自動化するまでの日数を表したグラフである。縦軸は自動化の程度、横軸は日数で、0日目(調査開始日)から84日目までの自動化の程度が分かる。

図1 84日間にわたる、行動の自動化の程度「ランチのときに果物を食べる」
図1 84日間にわたる、行動の自動化の程度「ランチのときに果物を食べる」
(Lally et al.〈2010〉より著者作成、図制作:キャップス)

 まず、全体としてグラフは右上がりなので、日がたつにつれ、何も考えなくてもランチに果物を食べることができるようになっているといえる。縦軸が42点に近いほど「自動化している」ということだが、60日目には35点を超えている人が多く、この頃にはほぼ自動化されているといえるだろう。

 図2は「朝食のあとに1杯の水を飲む」という別の行動についての結果である。こちらは20日ごろに40点前後となっており、「ランチのときに果物を食べる」よりもかなり早い時期に自動化していることが分かる。

図2 84日間にわたる、行動の自動化の程度「朝食のあとに1杯の水を飲む」
図2 84日間にわたる、行動の自動化の程度「朝食のあとに1杯の水を飲む」
(Lally et al.〈2010〉より著者作成、図制作:キャップス)

 様々な行動が自動化されるまでの日数を見ると、18日で自動化される行動もあれば254日(約8カ月)かかる行動もあったが、中央値は66日であった。つまり、2カ月頑張ることができれば、その努力は意識せずとも自然に行えるようになっている可能性が高い。
 努力を自動化できれば、意志はもはや問題ではなくなる。意志の弱さに悩んでいる人は、行動が自動化することを目指して、2カ月間頑張ってみるのがいいだろう。

 このような自動化は、実行意図や目標、知識によって促進することができる。これは励みになる知見だろう。例えば、第11回で紹介した、歯磨きのフロス使用を習慣付ける実験(3)では、実行意図の作成はフロスをより自動的に使うことにもつながっていた。

「教育」が、いい習慣づくりに果たす役割

 目標や教育によって自動化が進んだ別の研究(4)も紹介しよう。親に教育を行うことで、子どもの食生活を改善することを目的とした研究だ。

 この研究では、親たちは介入群とコントロール群のどちらかにランダムに分けられた。介入群では、研究者が家庭訪問をし、親と1時間ほど面談を行った。この面談に子どもは参加しない。介入群の面談では、果物や野菜を十分に摂取することがなぜ重要なのかということや、習慣化のためのヒントを学んでいった。さらに、健康的なおやつのレシピなどの実践的なアドバイスを与えられ、健康的な食事の目標を具体的に立てていった。例えば「夕食時の飲み物は水だけにする」などである。さらに、それをいつから始めるかも話し合って決め、実施の障害となるものがあればその克服方法も決めた。

 このようなディスカッションを8週間の間に4回行った介入群では、何も行わなかったコントロール群に比べて、親の行動がより自動化していた。

 例えば、「1日に5種類の果物や野菜を食べさせる」という行動が自動化した程度は、コントロール群では7点満点のうち4.7点だったのに対して、介入群では5.5点であり、統計的にも有意に高い値になっていた。「ヘルシーなおやつを食べさせる」「ヘルシーな飲み物を飲ませる」という行動についても、同様の差が観測された。

 「なぜそれが必要なのか」「どのような効果があるのか」「どのように行うのか」「いつ行うのか」「何を目標として行うのか」をきちんと考えることが、自動化、つまり習慣化につながるのである。
 まずは2カ月間、実行意図や目標を活用しながら、行動が自動化するようにトレーニングするのがよさそうだ。

■参考文献
(1) Verplanken, B., Wood, W. (2006) "Interventions to Break and Create Consumer Habits" Journal of Public Policy & Marketing, vol. 25 (1), pp. 90-103.
(2) Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W, Wardle, J. (2010) "How are habits formed: Modelling habit formation in the real world" European Journal of Social Psychology, vol. 40, pp. 998-1009.
(3) Orbell, S. (2004) "Intention-Behavior Relations: A Self-Regulatory Perspective" in Contemporary Perspectives on the Psychology of Attitudes, G. Haddock and G.R. Maio, eds. New York: Psychology Press, 145-168.
(4) McGowan, L., Cooke, L. J., Gardner, B., Beeken, R. J., Croker, H., Wardle, J. (2013) "Healthy feeding habits: efficacy results from a cluster-randomized, controlled exploratory trial of a novel, habit-based intervention with parents" The American Journal of Clinical Nutrition, Vol. 98 (3), pp. 769-777.

<14回目のまとめ>
  • 「意志が弱い」人こそ、上手な自動化が「いい習慣」獲得の決め手になる。
  • 多くの物事は、「2カ月」頑張って継続すると習慣化できる。
  • 習慣にしたいことについては、「なぜそれが必要なのか」「どのような効果があるのか」「どのように行うのか」「いつ行うのか」「何を目標として行うのか」をきちんと考えておくこと。
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