AI(人工知能)は今、バブル状態にある。そのバブルは深層学習を基礎とした生成AIの登場によって急速に膨張した。しかしバブルであるがゆえに、いつかそれは必ず崩壊し、そしてその瞬間は間もなく訪れる。本コラムでは書籍『AIバブルの不都合な真実』(クロサカタツヤ著、日経BP)から抜粋し、AIをめぐる現在の状況を筆者が「バブルである」と断言する理由について、根拠となる事実や数字を交えて解説する。第1回は期待と現実のギャップから考察を。
大量のカネが流れ込み続けるAI業界
2024年から2025年にかけて、生成AIをめぐる熱狂は頂点に達しつつある。数年前には、一部の専門家や投資家だけが注目していた生成AIが、ChatGPTの登場以降は一般社会の関心を独占し、「第4次産業革命の旗手」とも「人間の危機」とも、喧伝(けんでん)されている。
AI企業のリーダーやVC(ベンチャーキャピタル)は生成AIが不可避の未来であるかのように語り、メディアも新たな生成AIモデルやサービスが出現するたびにその驚異的な性能を伝えた。既存のあらゆるビジネスも「AIを取り入れなければ時代に取り残される」とあおられ、社名に「AI」を加える企業が乱立している。
市場においてもAIブームの様相は鮮明で、生成AI関連銘柄が株価指数を牽引(けんいん)し、特に半導体大手の米エヌビディア(NVIDIA)は時価総額4兆ドルを超えている。このような熱狂を裏付けるかのように、世界の大手金融機関やコンサルティング会社もAIによる経済効果を巨額に試算した。米モルガン・スタンレーはAIが「6兆ドル規模の機会」を生み出すと予測し、米マッキンゼーも「生産性の次なるフロンティア」として生成AIの経済効果を年間2.6兆〜4.4兆ドルと見積もった。その金額は、英国の年間国内総生産(GDP)や世界の農業生産額に匹敵するという。
こうした報告は企業経営者にAI投資を急がせ、市場には「AIに乗り遅れるな」という強烈な同調圧力が広がった。現に2023年は生成AIにとって「飛躍の年」と呼ばれ、企業の生成AI導入事例や提携発表が相次ぎ、テック業界全体がAIブームに沸き立った。
その結果、投資マネーが前例のない規模でAI分野に流入した。ソフトバンクグループや大手テック企業が2024年末から2025年初頭にかけて発表した巨額投資計画はその最たる例である。例えば2025年1月、ソフトバンクは米オープンAI(OpenAI)や米オラクル(Oracle)などと共同で新会社スターゲート(Stargate)を設立し、今後4年間で最大5000億ドル(約78兆円)ものAI開発投資を行う計画を打ち出した。
さらに同月にはソフトバンクがオープンAIに対し最大250億ドル(約3.9兆円)の追加出資を検討していると報じられ、実現すればオープンAI最大の株主に躍り出る可能性があると伝えられた。イーロン・マスク氏が率いる新興AI企業xAI(エックスAI)も、2024年5月に60億ドル近い資金調達に成功している。
こうした大規模資金の投入によって、米国のVCによるAIスタートアップへの投資は激増し、2020年にはVC投資全体の14%にすぎなかったAI関連投資の比率が、2024年1〜9月には33%にまで上昇した。HSBCイノベーション・バンキングの試算では、同比率は2024年末時点で42%に達したとも報じられている。これは市場に流入する新規マネーのほぼ半分近くがAIに向かったことを意味し、生成AI周辺のスタートアップには天文学的な評価額が次々と付き始めていた。
AIがバブルであると断言する理由1:期待された性能とのギャップ
現在のAI分野は、まさにバブル的な熱狂に包まれている。生成AIブームの到来以来、AI関連企業の株価や評価額は急騰し、市場には巨額の資金が流入している。その一方で、実利用の段階では期待ほどの浸透が見られず、技術的な限界や投資過熱への警鐘も鳴り始めている。
ここでは、筆者が現在のAIをバブルであると断言する理由と、すでに現れ始めたバブル崩壊の兆候、そして現在のAIが抱える推論能力の限界について論じていく。具体的な企業名や市場動向のデータを引用しつつ、AI投資・技術開発を取り巻く社会的・経済的構造の変調を多面的に検証する。
第1の理由は、現在のAIが期待された性能やインパクトまで到達していない、という点である。AIへの熱狂とは裏腹に、実際にはプログラミングなどの一部の分野を除き、多くのAI技術が十分に使われておらず、企業や社会全体でのAI活用は期待ほど進んでいない。
例えば、生成AIの企業導入は一巡した後、幻滅期に差しかかっているとの指摘がある。実際、2025年の米国における調査によれば「自社で実施した生成AIの実証プロジェクトの大半を中止・放棄した企業の割合」が42%に達し、2024年の17%から急増した注1。
これは、多くの企業がAIに飛びついたものの、思ったような成果が出ずにプロジェクトを断念していることを示している。その背景には、現行のAI技術がまだ実務の課題解決に十分な水準に達していないことや、導入・運用コストに見合うリターンが得られていないことがある。
こうした「使われないAI」の存在は各所で表面化している。例えば米大手フィンテック企業ランプ(Ramp)が同社の請求書およびカード決済データを分析することで企業のAI導入状況を可視化したAIIndex注2によると、2025年初頭まではAI製品導入率が成長を続けたものの、同年5月ごろに41%で横ばいになったという。また、スウェーデンのフィンテック企業クラーナ(Klarna)は、数百人規模のカスタマーサポート要員をAIチャットボットで代替しようとしたものの、サービス品質の低下を招き、結局一部人員を再雇用する事態注3となった。短期的なコスト削減や話題性を狙ったAI導入が実務上の有効性に欠け、「やはり人間が必要」という逆戻りが起きた例だ。
つまり現在のAIブームでは、「AIですべてが置き換わる」という期待だけが先行し、実際には現場で十分使われず放置されているAIソリューションが少なくない。「草が刈られていない」畑のように、手付かずのまま過剰に育ってしまったAIへの期待が膨張しているのだ。

注2 https://ramp.com/data/ai-index
注3 https://techcrunch.com/2025/06/09/corporate-ai-adoption-may-be-leveling-offaccording-to-ramp-data/
(書籍『AIバブルの不都合な真実』を基に再構成)
[日経クロステック 2025年10月3日付の記事を転載]
クロサカタツヤ著/日経BP/2530円(税込み)
