『昭和人間のトリセツ』著者でコラムニストの石原壮一郎さんと、『日経マネーと正直FPが教える 一生迷わないお金の選択』著者の大口克人日経マネー編集委員が昭和人間と令和の若者世代のおカネや消費に関する意識や行動について語り合った対談。最終回はバブルの隅っこを駆け抜けた2人が、老後資金の不安から「モテたい」願望まで、昭和世代の視点で、貯めるだけでは見えてこない豊かさについて語りました。

第1回 「石原壮一郎×大口克人 バブル世代は投資のトラウマ世代」
第2回 「石原壮一郎×大口克人 昭和人間が体験した『無駄遣い』の喜び」
第3回 「石原壮一郎×大口克人 クレカのポイントは、要らないものに使ってナンボ」
第4回 「石原壮一郎×大口克人 『お金が減るのが怖い』昭和世代のこれから」 から読む

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人生はたぶん思っているより長い

日経マネー編集委員・大口克人(以下、大口) 石原さんはご自分の老後資金について、どのようにお考えですか?

コラムニスト・石原壮一郎(以下、石原) 老後資金は不安だらけです。フリーでずっとやってきましたから、公的年金だけでは無理でしょうね。

大口 年金と貯蓄でまかなうことになるわけですよね。でも、皆さん潤沢な老後資金をお持ちかといったら、そうでもない人が多いんじゃないでしょうか。

石原 まぁ、そうですよね。順調に使い続けて、なくなるくらいでしょうか。

大口 何歳まで生きるのかを考えるとき、平均寿命の解釈を間違っている人が多いですよね。男性の平均寿命は81.09歳(令和5年簡易生命表)だから自分は81歳で死ぬと言っている人がいますが、男性の場合、最多死亡年齢は87歳です。それに、簡易生命表を見ると80歳まで生きた人はその後も結構長生きするわけですよ。

石原 女性の場合は80歳を過ぎたら、93歳くらいまで生きますよね。

大口 そうなんですよ。だから、何年くらいで自分の資産を使い尽くせばいいのかという試算でも、たぶん、皆さん、計算違いをしているように思います。

石原 人生は思いのほか長いぞ、と。我々バブル世代はバブル世代で、もう少し若いときからお金のことを考えておけばよかったという反省があります。逆に今の若者のように早いうちから考え過ぎている人たちは、60歳くらいになってもっと遊んでおけばよかったと後悔しそうですね。

大口 そう思います。60歳ならまだいいですが、気が付いたときにはもう海外旅行もできないし……となったら悲惨ですよ。

石原 年を取ってゆったりしたらやろうと思っていたことは、実際に年を取ってゆったりすると意外とできない。

大口 自分がまさにそうですが、活字の小さな本を読むのはきつい。耳も難聴気味になってきますから、お気に入りの曲を1日聴きまくろうとしても、なんだかいまひとつだなと。

石原 疲れちゃって、じっとしていられないし。

大口 そんなことばかりですよね。ですから、20~30代の人は今やりたいことがあるのなら、お金を使ってやったほうがいいと思います。貯蓄や資産運用をすすめる立場の私が言うのもなんですが。

石原 旅行にしたって、60歳を過ぎてから行くのと20代の頃に知らない国に行くのとでは全く意味合いが違いますからね。

大口 20代ならお金がなくてもバックパック旅行ができますし、いざとなったら野宿だって可能です。60代で野宿は無理ですよ。

石原 恋愛もそうですよね。若いからこそ、いろいろできる。

大口 20代から守りに入ってしまうのはもったいないですよ。貯める一方では、生きたお金の使い方をしているとは言えません。

石原 大口さんはいかにお金を大事にするかを伝えるお仕事をしていらっしゃいますが、大事にするということのなかには、いかに有効に使うかも入ってくるんですね。

大口 おっしゃる通りです。そこをしっかりやらないと、個人の幸福の問題にも関わってきます。預金通帳の残高が増えていくのが幸せでは決してないですからね。

石原 預金通帳の残高を見て喜ぶって、昔の映画に出てくるケチなおじいさんみたいですね。

大口 そういう人、本当にいるらしいですよ。私が聞いたなかで一番強烈だったのは、ある証券会社の営業担当者の話ですが、お客さんの家の押し入れに数千万円、いや、おそらく数億円のお札の山が積んであったと。下のほうのお札は一部がカビていたそうです。

石原 カビてしまったお札を引っ張り出して使っているんでしょうか?

大口 恐らく、上のほうから使っているんじゃないかと。でも、私に言わせれば、カビて使うのに躊躇(ちゅうちょ)するようなお金は死に金ではないかと思うわけです。

石原 お金の額とか量で幸せを測っている人なのかもしれませんね。

大口 でしょうね。でも私は、死後には葬式代を残すくらいにして、貯めたお金を使って豊かに暮らしたほうがよほど幸せだと思いますけどね。

「モテたい」欲望が社会を発展させてきた

石原 お金は大事にすべきだけれど、使ってこそ生きる。今の若者は、「もっと遊べばよかった」とどこで気が付くんでしょうね?

大口 それは人にもよるのかな。私が危機感を持っているのは、欲望そのものが縮小されて、人生の最期まで「老後のためにお金を貯めてきてよかった」と思ったままの人が出てくるのではないかということです。

石原 消費の楽しみとか、バカをやって遊ぶ楽しみを知らないまま、年を取っていく人が増えていくわけですね。それはその人個人としてももったいないことだと思いますが、日本の社会や経済への影響はどうなんでしょう?

大口 日本経済は縮んでいくでしょうし、子どもの数も今よりもっと減りますよね。恋愛に興味がないんですから。我々の時代はモテるためにそれは必死でしたよね。酒が飲めるほうがモテるとか。

石原 それこそブランド物を持ち歩けばモテると思っていましたけれど、それが功を奏したことは1度もない。

大口 車を持っているとモテるとか、ギターが弾けるとモテるとか。

石原 アメリカンジョークを知っているとモテるとかね。

大口 あの頃のモテたいという欲望は、今の若者がなくしてしまった大切なものの一つかもしれません。

石原 そうですね。モテたいは、お金を稼ぎたいとか、お金を使いたいという欲望と隣り合わせの関係にありましたよね。

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大口 人間が欲を持つのは善か悪かという話がありますが、私は善だと思っています。モテたいもそうですし、今より豊かになりたい、楽をしたいという欲があるから人間社会が成長してきたわけです。

石原 おいしいご飯が食べたいとか、タワマンに住みたいといったこともそうですね。

大口 それがなかったら、人間は21世紀の今も旧石器時代のように穴の中に住んで、石おのを持って狩りをしていたかもしれません。だから欲を持つのはいいことだと思うんですが、行き過ぎると守銭奴や拝金主義者になりかねません。その間でうまくバランスを取っていくところに、人間の生まれてきた意味があるように思います。

石原 そうですね。我々の世代の揺り戻しで、今の若い世代は無駄遣いをせず堅実に暮らしていくのがいいという流れになっていますが、それではつまらない気もします。

大口 消費疲れがある半面、節約疲れというのもありますよね。

石原 じゃあ20年先くらいの若者は無駄遣いに戻るのでしょうか?

大口 かもしれませんよ。何ごともそうですが、やはり、行き過ぎると揺り戻しがあるじゃないですか。最近危ういと思っているのが、高級腕時計を買う若者が多いことです。ものすごく高価な腕時計を、それほど年収が高くないうちから買っています。将来値段が上がるから投資になるんだそうです。

石原 そもそも将来値上がりするかもしれないから腕時計を買うっていうのは、何か大きなところで間違っている気がします。

大口 そうなんですよ。家を買う目的もそうですが、将来売って儲けようというよりは実需、自分がそこに住んで安心を得るための家ですよね。投資目的で買うというのが、おかしな話だと思うんです。

石原 一時期マンション転がしがはやっていましたが、関わった人は大抵、悲惨な結末を迎えていますよね。

大口 自分の本来持っている器量を超えたところにお金を突っ込まないほうがいい。

石原 借金してワンルームマンションを買って家賃収入を得て、それをまた高く売り抜けるみたいな投資がはやった時代がありましたね。

大口 今もそういう投資はありますし、すべてが悪いわけではないと思います。最近、人が住まなくなった空き家を安く買って、ちょっとだけお金をかけてリフォームして賃貸物件として貸し出すというビジネスを取材しました。そういうのはいいと思うんですよ。

石原 半分楽しむみたいな感じですね。

大口 はい。楽しみと社会貢献。空き家を再利用することで、そのエリアに人が戻ってきますからね。3000万円で買った物件を3500万円で売りますみたいな転がしは、あまり褒められたものではありません。

石原 売り抜けたとしても、そういうあぶく銭は身に付かないでしょうからね。

大口 ええ。皆が嫌いな転売ヤーとどこが違うのかという。

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お金を「増やす」よりも大切なこと

石原 家の話で思い出したんですが、先日、30代の編集者から相談を受けたんです。お父さんが定年を迎えて退職金を受け取り、家を建て替えようとしているので、きょうだいで反対していると。退職金で建て替えるのではなく、ローンを組んで、現金は運用に回したほうがいいというわけです。しかし、お父さんはずっと働いてきて、退職金で家をリフォームするのが人生の目的だったらしくて。

大口 お父さんにとっては喜びですよね。

石原 「お父さんはそれがうれしいんだから、好きなようにさせてあげたらいいんじゃないの」と言ったら「そうですね」と納得したようでしたが、世代間ギャップを感じましたね。

大口 子どもからすれば「現金は投資したほうが儲かる」という判断だったと思いますが、そのケースで一番大切なのは、お父さんの気持ち。頑張って働いてきて手にした退職金でリフォームをしたかったのなら、そうしてもらうのが正解だと思います。

石原 現金を投資に回して数パーセント増やすことと、お父さんの満足感と、どっちが大切かという話ですね。

大口 投資がどうなるかは分かりませんが、お父さんの意思を優先した場合、確実に言えるのは、そこにリフォームした家が残ること。子どもたちの誰かは死ぬまでそこに住むことができます。

石原 おっしゃる通りです。お金はなんでもいいから増やせばいいというものではないですからね。

大口 いくらお金を持っていようが、自分が何をしたいのか分かっていないとそこから幸福感を得ることはできません。

石原 押し入れの中でお札にカビを生やすことになる。

大口 我々の世代もこれから本格的な老後を迎えるわけで、いろいろ考えさせられますね。気が付かずに来てしまった人は老後資金が手薄で割と厳しいことになる。でも、自分の間違いを我々の世代の悪いクセで認められず、「国が悪い」と騒ぐ一生で終わるかもしれません。

石原 騒いでも、制度は簡単には変わりません。となると、生活保護しか選択肢がなくなる人もいると思います。

大口 あるいは70歳や75歳になってもできる仕事をして、少しでも収入を得ていくとかですね。

石原 とはいえ実際には、なんとなくやっていく人が多数派かと思います。多少小金を持っていて生活に余裕があり、20~30代の頃にかなえられなかった夢を50~60代で実現している人もいますね。大型バイクを乗り回すとか。

大口 それ、私です。憧れのハーレーですね。

石原 我々の世代は、70代になってもそうやって無駄遣いしているんじゃないかと思います。

大口 ある程度の蓄えがある人なら、今さら貯め込もうとせずに好きなものを買ったほうがいいですよ。

石原 老後にどうお金を使っていくか、メディアでももっと訴求していただけるといいんじゃないかな。

大口 人間、入ってくる額がそんなにないとなると使えなくなるみたいですけどね。

石原 それでも、お金のことで頭がいっぱいの老後は嫌だなと思うんですよ。私の友達でも、仕事を辞めてやることがないものだからデイトレーダーみたいなことをして、それで日本経済に参加しているような気になっているのが何人かいます。

大口 戦略的なデイトレーダーを除けば、投資した後はあまり頻繁に売ったり買ったりしないほうがいいと思います。放置しているほうが、投資成績がいいというデータも出ていますから。

石原 暇つぶしや頭の体操と割り切って楽しむのは大いにけっこうだと思います。でも、上がった下がったと一喜一憂することが日々の生活のすべてになってしまったら寂しいかも。お金は大事ですけれど、これから本格的な老後を迎えるに当たっては「いかにお金を忘れるか」というのも大きなテーマになると思うんですよね。

大口 石原さんとの対談を振り返ると、こうしてお金を貯めるといいという話にはなっていなかったと思います。無理して貯めなくてもいいんですよ。

石原 むしろ、どう無駄遣いするかが残された人生の課題のような気がしてきました。

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取材・文/森田聡子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集) 写真/吉澤咲子