システム責任者の最重要任務は正しい決断、意思決定を下すことである。多様な視点を持ち、組織の目的との整合をとってこそ正しく決められる。そのための「立体的な思考力」を磨く方法を提案した新刊を紹介する。

 CIO(最高情報責任者)や情報システム部長・課長などの肩書はともかく、情報システムに関する責任者にとって最も重要なのは正しい意思決定をすることだ。いわゆるDo the right things(正しいことをする)である。正しいとは所属する組織あるいは顧客に向けて何らかの価値を提供することを指す。管理職である以上、Do things right(ことを正しくする)も必要だがそれだけで価値を届けられるとは限らない。

意思決定の質を高める

 「意思決定の質を高める」ことを根幹とする書籍が2026年4月26日に出版された。『プロジェクトマネジャーになる』(峯本展夫著、日経文庫)である。書名を見て「プロジェクトはいくつか抱えているものの自分がプロジェクトマネジャーを務めるわけではない」と思う人がいるだろう。恐ろしいことに日本においては自社のプロジェクトのマネジャーが外部のIT企業側にいたりする。こういう状況ではこの書名がますます縁遠く感じられるかもしれない。

 とはいえ体制や役割がどうであれ、情報システムの責任者である以上、プロジェクトについて決断する機会が必ずある。その時、質の高い意思決定ができればプロジェクトを成功させられる。プロジェクトマネジャーになってもならなくてもこの本が役立つゆえんである。

 企業におけるプロジェクトは千差万別であり、正しい意思決定を下せる妙手などあるのだろうか。著者の峯本氏は意思決定に影響を与える5点を挙げ、繰り返し5点を考えることを提案する。5点とは「目的との整合」「前提の検証」「多様な視点の統合」「感情知性の活用」「責任の引き受け」である。

 何のためにこの決断を下すのか、常に目的に立ち返る。「こうなるはずだ」という前提、つまり思い込みに注意を払い、本当にそうなのかどうか検証する。多くの利害関係者の視点から状況を見て、気付いた諸事をいったん統合し、全体にとって何が正しいのかを考え抜く。進展度合いや成果物の品質といったデータに加え、プロジェクト参加者の感情や現場の雰囲気もつかんだ上で物事を決める。下した決定に責任を持ち、悪い影響が出たとしたら自分の責任であることを認め、直ちに対処する。

 5点を日ごろから意識し、気を配り、考える。例えば、ある部門と別の部門の意向が対立した場合、両者の言い分を聞いているうちに、ある前提についての認識にずれがあることが分かったりする。思い込みを改めてもらうためにプロジェクトの目的を再度示して説得し、決定する。

 このように5点を循環しながら意思決定をしていく。5点は決断時のチェックリストなどではなく、意思決定者の日ごろからの姿勢を示したものと言える。

多面的かつ構造的に捉える

 5点、とりわけ「目的との整合」「前提の検証」「多様な視点の統合」に取り組むために「立体的な思考(物事を多面的かつ構造的に捉える力)」が必須であると峯本氏は主張する。目的と言っても特定部門のための目的、全社のための目的、顧客あるいは社会のための目的といったように色々ある。視座を上げ下げしながら検討していく。

 それが揺らぐとプロジェクト全体が揺らぎかねない前提条件をあらかじめ見つけておき、前提が崩れていないかどうかを確認するための指標を用意し、モニタリングすることを峯本氏は勧める。そのためにはプロジェクト内の諸要素を「多面的かつ構造的に捉える」必要がある。

 立体的な思考は誰でもできるようになると峯本氏は考えており、そのためのセルフトレーニングを提案する。『プロジェクトマネジャーになる』において最も長い章は立体的な思考の自己訓練に関するものである。16通りのトレーニングのやり方と自分に合ったトレーニングプログラムを生成AI(人工知能)に作らせるプロンプトが記載されている。

 5点に留意した意思決定、立体的な思考、これらの具体的な使い方が最終章で述べられる。交渉やコミュニケーション、プロジェクトの戦略やスコープの決定、重要な前提のモニタリングといった3領域について、検討ないし考えるべきことが提示され、調査や思考の結果をまとめる書式が提案される。

マネジャーが注視すべき3領域

 3領域のやり方次第でプロジェクトの成否が決まる。QCD(品質、コスト、納期)をしっかり管理するのはもちろんだがそれだけで成功できるわけではない。コミュニケーション、戦略とスコープ、前提とそのモニタリングのいずれかに問題があったら、QCDに関する会議をいくら重ねていてもプロジェクトは失敗する。

 3領域の重要性はプロジェクトに限ったことではない。システム責任者は経営者や事業部門の長とコミュニケーションをうまくとって合意を取り付ける。システム部門としての戦略や取り組むスコープを定め、やるべきことを漏れなく洗い出す。システム部門の諸活動における重要な前提条件に注意する。

 『プロジェクトマネジャーになる』は『正しい決断ができるマネジャーになる』本でもある。いや、マネジャーだけではない。峯本氏は次のように定義しているからである。未来に「何かを実現しようとする1つの意図」を「現実の行動と成果へとつなげていく者を、私たちは『プロジェクトマネジャー』と呼ぶ」。

(写真:bizvector/stock.adobe.com)
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[「日経コンピュータ」2026年4月30日号の記事『成功に向けて正しく決断 それには立体的な思考力』を改題して転載]

プロジェクトを成功させるカギは意思決定と思考力です。様々な事象や情報の関連と本質を見抜く思考があってこそ、質の高い決断ができます。プロジェクトを通じて自分の姿勢を問い、未来を選び取るすべての人へ向けて、成功につながる意思決定、求められる思考力、それらを身につけるセルフトレーニング、交渉・企画・先読みの具体策を伝えます。

峯本展夫(著)/日本経済新聞出版/1430円(税込み)