新刊『 妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話 』の著者、編集Yこと山中浩之氏が日経ビジネス電子版で始めた連載「数字で縛ればやる気が逃げる」。自著の取材を振り返りながら、あれこれ考えを深めていくコラムを日経BOOKプラスでも転載させてもらうことになりました。とても面白い記事なのでぜひ読んでいただきたいのですが、せっかく「本の情報」を発信する当サイトですので、元記事には収録されていないオリジナルコンテンツとして、記事の関連箇所を書籍から抜粋して掲載します。本書の主人公たる相模屋食料の鳥越淳司社長と編集Yのテンポの良いやり取り。そこで明らかになっていく「数字の罠」とその飛び越え方。記事と共に、本の魅力もしっかりお伝えできれば幸いです。第7回は「数値目標の意味」について考えます。(日経BOOKプラス編集部)
前回(「『数字の責任はすべて社長が取る』 建前か本気かを見抜く方法」)
「数値目標を出して、それを達成するのが社員の仕事だ、と投げっぱなしでいいなら、経営者は何をするんですか、という話ですよね。読んでくださった方のコメントにもありましたけど、その場合、優秀なのは現場であって経営者じゃない。じゃあ、経営側が社員全員の納得を得るまでその数値目標の背景について説明し尽くすことができるか、といったら、規模にもよりますが、なかなか難しいだろうなと思います」
相模屋食料(以下相模屋)の鳥越淳司社長は、「自分が雪印乳業の社員として働いていたときの気持ちから考えれば、ですが」、と断りながら言う。
数字は、打った手の効果を確認し、次の手を考える極めて有効なツールだ。目標として設定すれば、目にハッキリ見える形でゴールを共有できるという強い効果もある。
だが、数字を目標に設定すると、反作用として「その数字をこういうふうに達成したい」「達成することによって、こういう効果を期待したい」という、数字達成の前と後ろへの意識が薄くなることは避けられない。
数字への意識が強くなりすぎると、経営側は「数字が達成できたかどうか」を、現場は「数字を達成する最も効率のよい方法」を、必死に追い求めるようになり、「どうやるか」「どうなるか」がどこかへ飛んでいく。やがて経営も現場も「いかに(おとうふ、ではなく)白い塊を効率よくつくらせるか」こそが、マネジメントであり、仕事であると信じるようになる。現場では白い塊を製造することへの抵抗感が消えていく。待っているのは、顧客の離反だ。「そんな会社をたくさん見てきました」と、鳥越社長。
数値目標で「いいヤツほど損をする」
何より、数字の目標が先行すると、他人のため、全体のためになることを意識し、社内の活気を生み出す「いいヤツ」が、損を押し付けられることになってしまうのだ、という。企業再建の現場での「数字」について触れてきたが、ダメになってからではなく、通常運行中の企業でも、「数字」に縛られるデメリットはある。今回はそんなお話を。
企業再建の始まりの時点、『生き延びることができるかどうか』という状況で最も重要なのは、「やる気以前の『カラ元気』かもしれない」と鳥越社長は言う。前回まで見てきたとおり、「N字再建」に代表される実績に裏打ちされた方策はある。しかし、それを伝えることが難しい。

「作戦はアタマの中にちゃんとあるんです。でも、その作戦を聞く気になってもらわないと話が始まらない。だから『大丈夫! こうやれば必ずなんとかなる!』と、ある意味カラ元気を見せることから、再建が始まりますね」
その段階では、数字の出番はない。鳥越社長はその会社のPL(損益計算書)、BS(貸借対照表)は見て、理解しているけれど、それを逐一説明して、打ち手を語ることはしない。
数字でやる気が出るのは、先に意味を共有できているから
「だって数字で説明されても、聞く側は全然元気が出ないでしょう。というか一般論として、数字で理解して、それをやる気につなげられる人って、信じられないくらい優秀だと思いますよ。大企業の社員さんにはそういう人もいると思いますが、うちには入ってくれません(笑)」
普通は数字が出てきたとたんに思考停止したり、自分には関係ない、と思ったりする人が多いのではないか、と鳥越社長。言い換えれば、数字で目標を共有し、やる気を出せるということは、その前にすでに「何をやりたいか」「やる意味は何か」が、経営と現場の間でしっかり握れている、ということだろう。
そして再建会社では、共有うんぬん以前に、まず話を聞く気になってもらわねばならない。
「そういうときに私がいつも思い出すのが、ヤン准将のあの言葉なんです」
「心配するな。私の命令にしたがえば助かる。生還したい者はおちついて私の指示に従ってほしい。わが部隊は現在のところ負けているが、要は最後の瞬間に勝っていればいいのだ」
ヤン・ウェンリー 自由惑星同盟軍准将(宇宙暦796年当時)
出典:『銀河英雄伝説』1・黎明編 第二章 アスターテ会戦
もちろんヤン准将は実在の人物ではない。田中芳樹氏の『銀河英雄伝説』に登場するキャラクターだ。上官の負傷で撤退戦の指揮を執ることになった彼が言い放ったのがこのセリフ。
「要は最後の瞬間に勝っていればいいのだ、という考え方。これはいいなと思っています(笑)。毎日、毎日、今日も赤字だ、明日も赤字だ、とやっていたら誰だって気持ちが折れちゃいます。今は負けてるよね、たぶんしばらくは負けかもね。でも気にするな。途中失敗してもどうでもいい。最後にうまくいけば、黒字になればいいんだから。そんな気分でいなかったら、再建なんてやってられないですよ。途中は負けてもいいんだよ、と言われると、だったらやれるかも? と、少しは前向きになるじゃないですか」
経営者の鳥越社長は、もちろん日次で数字を見ているが、「今日もまた赤字でした」と従業員を数字でやっつけても、誰も何もメリットはない。「怒ってみせることで、俺は社長だ、と、マウンティングは出来るかもしれませんけれど(笑)」
実際に、2019年7月に救済M&A(合併・買収)で傘下に入れた京都タンパク(京都市)では「私の言うとおりにやってくれれば、4カ月で黒字にできます」と宣言したという。同社は7年間赤字決算が続いていたが、5カ月目で単月黒字に転換した。
「そこですかさず祝勝会をやるわけです。円陣を組んで『京タン、ナンバーワン』って勝ちどきを上げて(笑)。その会で、30年この会社にいる人から『10年以上こんな飲み会はなかった、みんなで笑い合うなんてなかった』と言われたんですよね。さすがにぐっときましたね」
さて、ここまで見てきた「数字よりまず気持ち」という再建の手順には、会社勤めの経験が長い人ほど違和感を覚えたり驚いたりするのではないかと思う。
まずユーザーにとって意味がない“仕事”をやめて、時間と人間というリソースに余裕をつくる。かつて顧客に愛され「黄金時代」をつくったが、今は忘れられているアイテムを見つけ出し、浮いたリソースをその商品、あるいは今売れている商品のリフレッシュに充て、「おいしさ」で市場からの信頼を取り戻す。その経験を通して「自分たちの仕事は世の中に受け入れられている」と、社員の気持ちを立て直す。自信を取り戻したところで、本格的な生産設備や労働環境の改善に入る。
PDCAのツールがマルバツの採点システムに
会社組織で働いたことがない人なら、どれも、全然驚かないのではないか。「そりゃそうだよね? 他にどんなやり方があるの?」と言われそうだ。なぜ、鳥越社長のやり方が、本になって、しかも売れるくらい(ありがとうございます!)珍しいのか。
これは妄想だが、今の時代に立ちこめる閉塞感は、「働く側の気持ち」よりも「数値目標の達成」「工程管理の完璧さ」といった「見て分かる」管理を優先していることがあるように思う。数字を共有するデバイス、見やすく表示するソフトは増える一方だ。
これらは本来「なにかをやった結果をすぐみんなで見る」ためのもので、PDCAサイクル(Plan・計画、Do・実行、Check・評価、Action・改善、の仮説・検証プロセス)を素早く回すことが可能になる。ここで言う「C」は、「D」の成否を問うのではなく、「P」の仮説の検証に使うものだ。期待値を下回ったならば、施策の打ち直しを考え、それが「A」になる。
だが悪いことに、この手のツールは「D」にマル・バツを付ける採点の道具として、とても使い勝手がいい。そして、自分で新しいことをやるよりも、人の出した結果を数字であれこれ評価するほうが楽だし、個人的にはリスクも少ない。だから、そちらを志向する人が増えていく。
これが昂(こう)じて企業の中がSNSのごとく「総ツッコミ社会」化してしまうと、社員は誰かから「あれができていない」「これをやっていない」「これは考えたのか」と突っ込まれることを恐れるようになる。万事「無難」が志向され、「仕事で新しいことをやるのはリスクだ」という気持ちすら生まれかねない。
その一方で、数字や手続きをうまく操作したり、チェックの負荷を減らしたり(=手抜き)する方法は、現場のやむにやまれぬ需要に応じて日々開発、洗練されていく。こちらの末路は言うまでもない。企業不祥事の続発は、緻密な管理システムを真面目に運用した反作用なんじゃなかろうか。
損益責任が「自分の城」意識をつくる
こんな妄想をしていると、鳥越社長がニコニコしながら「うちって、工場に損益責任がないんです。だから、全体最適に従って生産を調整できる」と言い出す。
「これこれの事情でA工場が2カ月間赤字になる? でもそれ以上にB工場が稼げるんだよね。いいよ、いいよ、それくらい。もしB工場のキャパが足りないなら、どこか助けられる工場はないかな? といった判断ができるんです。経営者の私“だけ”が数字に責任を持つから可能になる。工場は、生産する商品のおいしさと出荷に責任を持ってくれればいい」
普通はどうなるか。例えば「A工場の稼働率が低い」「B工場はややキャパオーバー」という状況があったとする。B工場からいくつか商品を抜いてA工場で生産すると、会社全体としては生産効率が改善する。しかしこれをやるには慎重な根回し、交渉が必要だ。
B工場は一生懸命頑張って数字を稼いでいたのに、稼働率が下がってしまう。なんでA工場のために俺たちが割を食うのか。あいつらが自分で頑張ればいいじゃないか、と反発するだろう。
「部署に数字の責任を負わせると、『自分の城』という意識が過剰になって、他部署への協力が『自分の城の兵糧を奪われる』ということに思えてくるんです」
「やれと言われればやりますが」
これは会社員ならみな経験があるところで、組織に生きる人間のサガでもあるのだろう。責任と権限は表裏一体だから、全体最適よりも、まず自分の権益がどうしても気になるのだ。
「そうなると必ず出てくるのが『やれと言われればやりますが』という前置き、そして『でも、できる限りですよ』という〆の文句です(笑)。そして、可能な限り自分の部署に影響のない、極小レベルで、ほとんどフリだけの協力をして、それで『やってあげた』という余計な主従関係までつくろうとする」
たいした協力もしてもらえず、恩に着せられた部署は反発を強めるので、連携を取るどころか、会社の中が個別最適に走ってバラバラになっていく。
「社内がバラバラだから、部署間を調整する新しい組織が必要だ、なんてことになる。すると今度は『部署間を調整する部署に、いかに正論をぶつけて抵抗するか』が、各部署のメインテーマになって、割を食うのは全体のために協力する意識があるところや、抵抗する術(すべ)を持たない組織になる。いいヤツほどひどい目に遭うということです。いや、久しぶりにこういう話をするとサラリーマン時代がよみがえりますね(笑)」
「相模屋は工場に損益の責任を持たせないから、需要の変動に応じて柔軟に生産する量、場所を変えられるわけです。もちろん工場でラインを切り替えるのは大変です。手間も掛かるし、商品の不良も出やすい。
それでもやってくれるのは、『この前助けてもらったし、今度はこっちが面倒を見よう』『たまには俺たちもいいところを見せたい』『やれるところを見せてやる』みたいな、頼られたからうれしい、誰かを、仲間を、助ける俺たちってかっこ良くない? という、すごく感情的なエネルギーだったりするんですよね。つまり『いいヤツでいるほど社内で評価され、自己評価も上がる』というわけです」
そして、営業部隊も数値目標、損益責任はないのだという。
「だって、数値目標なんて……むしろないほうが売れますよ」
「前年比」で評価すると、人は出し惜しみをする
どうしてですか、と聞くと「もともとモチベーションがある人を前提としての話ですが」と前置きしつつ、鳥越社長はこう言った。
「数値目標があると、売る力がある人ほど出し惜しみするようになるからです」
鳥越社長自身、相模屋に入社する前は群馬県のスーパーへ牛乳類を売り込む雪印乳業の営業マンで、全国で表彰されたこともある。その経験を踏まえて、数字の目標があると、その達成のみに意識がいくから、企業にとってはむしろマイナスだと見ているのだ。
例えば、3社から発注を取れる見込みができた。
しかし、このうちの1社で目標は達成できる。営業マンはどうするか。
「1社はもちろん確定するとして、1社は保険としてとっておいて、目標がもし上積みされたら進めよう。もう1社は、商談のペースを調整して来期に回そう。そう考えません? 私なら考えます(笑)。そんなにうまくいくかどうかは別として、もしそれが可能なら、数値目標があったら、みんなそう考えるんじゃないでしょうか」
これが数値目標がない相模屋だとどうなるか。次のために取っておく意味がない。だから、売れるときに売れるだけ売るぞ、という意識になる。
「『数字をつくる』ことを考えると、今できるベスト、という発想が曇るんじゃないでしょうか。そして出し惜しみという行動につながる。出し惜しみは本人のためにもよくないです。タイミングを逃してしまえば、商品のトレンドが、客先の担当者が、変わるかもしれない。
それに、仕事って仕事を呼ぶじゃないですか。ぶんぶん回っているときって、きっかけのタネをばらまいているみたいなもので、次の仕事がどんどん入ってきたりしませんか。動けば次のチャンスや、助けてくれる人が出てくる。数字は、その回転を上げるために使うべきで、止めるために使うのはどうなんだと思います。少なくとも『いいヤツ』でいたいと思う気持ちを、妨げるべきじゃない」
【日経BOOKプラス限定公開】
本記事に関連する箇所を書籍『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』から抜粋してお届けします(69~76ページ)。当該部分は第2章の〆のところです。鳥越社長の「仕事が仕事を呼ぶので、動けば次のチャンスや、助けてくれる人が出てくる。止まっていたら出てこない」という言葉は、現場で働く人にとっては、そのまま心したいこと。そして経営者にとっては「だから数字で縛って現場の動きを止めるな」という戒めとセットで心したいこと。では、どうぞご一読を。
~~苦しい中でも打つべき手をしっかり打って結果を出していけば、どうして「その一手」が必要だったのか、現場もその意味を理解してくれるようになる、というお話の流れから……
鳥越:「何でボイラー、ガス、電気の設備を一生懸命更新しているんだ、製造に意味ないじゃないか」と思っていた人が、「固定費を下げるためなんだ」と理解してくれるようになったりします。それはすごくうれしいですね。
思い切った設備投資をやって、新規の生産ラインが入って、それを精いっぱい踏ん張ってがんがん回して稼働率を上げて、もちろん営業も頑張って売って、そこまでやって黒字にできる。大変ですが、全力で突っ込んでくれるから早期黒字化が達成できるわけです。
── そして、「黄金時代を取り戻そう」というキラーフレーズが現実になる、と。
鳥越:そうなんですけど、いろいろ理屈っぽくお話ししてきましたが、初期の初期、「生き残れるかどうか」が切実な問題 として口の前にあるときは、もう、「大丈夫! なんとかなる!」というある意味カラ元気を見せることから始まりますね。もちろん、作戦はアタマの中にちゃんとあるんですよ。でも、その作戦を聞く気になってもらわないと話が始まらない。
途中で勝てなくても全然かまわない
鳥越:そんなときいつも思い出すのが、アスターテ会戦で急に撤退戦の指揮を任されたヤン准将のセリフですね。「心配するな。私の命令にしたがえば助かる」。
── ああ、「銀英伝」の。「わが部隊は現在のところ負けているが」……。
鳥越:「要は最後の瞬間に勝っていればいいのだ」という。これはいいなと思っています(笑)。何を達成したいかが明確で、そのためには「現状は負けてるけど気にするな、途中は勝たなくてもいい」と。だったらやれるかも、と思うじゃないですか。
── 「この人、少なくとも現実をちゃんと見てはいるな」と思えるだけでも頼もしい。
鳥越:京都タンパクでは「私の言うとおりにやってくれれば、4カ月で黒字にできます」と宣言して、5カ月日で7年間赤字だった会社が黒字になりました。1カ月のずれがありましたけれども、有言実行できたという(笑)。そこですかさず祝勝会をやって。
── 「この黒字を続くようにしないと」と言う人がいたらたしなめて、と(笑)。
鳥越:その会で、もう30年この会社にいる人から「10年以上こんな飲み会はなかった、みんなで笑い合うなんてなかった」と言われたんですよね。さすがにぐっときましたね。
── なんだかこうしてお聞きしていると、まずユーザーにとって意味がないことをやめて、社員の気持ちを立て直すところから真面目にやったら、日本の会社もみんな、けっこういい感じに元気になるんじゃないかと思えてきますね。
今の閉塞感って、働く人の気持ちよりも、数値目標の達成や工程管理の完璧さのほうが優先されちゃって、「目標を完遂しなきゃ」「手続き通りにちゃんとしなきゃ」というプレッシャーが生じて、どんどんやる気を圧殺しているせいじゃないかと。
鳥越:ただYさん、それは自分で言うのも何なんですけれども、管理より元気、途中で負けても最後に勝てばいい、って、オーナーじゃないとなかなか言えないことだと思いますよ。そして、そこにこそうちの強みがあるんですね。
── たとえば?
鳥越:うちって、工場に損益責任がないんです。
これがどういうことかというと、ある日突然「A工場の稼働率がちょっと低いから、B工場からこの商品を抜いてA工場で生産してね」ということを、すぐにやれちゃうんですね。これをもし普通の会社でやったら、B工場の責任者が怒り狂うわけです。
── 「A工場のためにうちの稼働率が落ちて赤字になるかもしれない、どうしてくれる?」と。
工場に損益責任を持たせない理由
鳥越:数字の責任は権限とセットですからね。会社全体で見れば「これこれの事情でB工場が2カ月間赤字になる? でも それ以上にA工場が稼げるんだよね。いいよ、いいよ、それくらい」という考え方ができるんです。そのためには、経営者“だけ”が数字に責任を持てばいい。うちはオーナー企業だからそれが可能、というわけです。
── そういえば最初に「上場企業の経営者だったら決算数字を見て半狂乱になっている」と言われました。
鳥越:はい。企業再建なんて、その期の損益計算書の上ではマイナスばかりです。すこし長い日で見れば、とてもいい投資になるんですけどね。それが実るのを待つのは、上場企業だと難しいかもしれません。経営したことがないので本当はわかりませんが(笑)。
── それは……。しかし、数字での責任とそれにひも付く権限を持たせないとなると、「全部鳥越さん任せ」の、無責任な組織になっちゃいませんか。それに、そうそう、営業の方は、さすがに数値目標が必要でしょう?
「前年比」で評価すると、人は出し惜しみをするようになる
鳥越:いえ、営業も数字では管理していません。製造部門と同様、損益責任はないんです。
── え? いや、だったら前年比とか、売上高目標とか……。
鳥越:ありません。
── それでどうやって管理するんです?
鳥越:本人にモチベーションがあれば、数値目標なんてないほうが売れます。
── どうしてですか。
鳥越:数値目標があると、売る力がある人ほど出し惜しみするようになりますから。早い話、得意先のA社、B社、C社さんから注文が取れる見込みがあったとするじゃないですか。今年の日標はA社で達成、B社も取れれば上乗せボーナス、じゃあC社は来年の保険に取っておこうかな、と、考えませんか。
── 考えますね。
鳥越:ですよね。私も雪印乳業の営業マンだった時代ならばそう考えます。一方、うちには数値目標がない、つまり来年という概念がないんです(笑)。今年より来年伸びたからって、誰も褒めてくれない。次に取っておく意味がない。だから、売れるときに売れるだけ売るぞ、というマインドになる。
── う、うーん。
鳥越:これは理屈というより体験から感じることですけど、取っておく意味って「数字を作る」以外にはあまりないと思うんです。出し惜しみしないでやっていけば、来年は来年でチャンスが来る。それに、来年にはもうトレンドが変わっているかもしれないじゃないですか。本当にC社さんから注文を取れるか、わからないですよね。
新製品もそうですね。出せるときに出せるだけ出す。やってしまえば出てくるけれど、せこく抑えると「もう考えなくてもいいや」と思うからなのか、出てこない。やればできるのに、やらなくするとやれなくなるんですよね。
── ちょっと意味が違うかも知れませんが、やった仕事は次の仕事につながりますよね。
鳥越:そうそう。そうなんです。仕事が仕事を呼ぶので、動けば次のチャンスや、助けてくれる人が出てくる。止まっていたら出てこない。新陳代謝を進めるようなものなんでしょうかね。わざと止めるとミクロではよくても、マクロではマイナスになる。
(次回に続く)
[日経ビジネス電子版 2023年12月1日付の記事を転載、一部情報を追加]
「前年比」「利益率」などの数値目標がない会社が「失われた20年」で売上高23億円から400億円に急成長している。2012年に「ザクとうふ」で話題を呼んだ相模屋食料だ。率いるのは当時雪印乳業の「営業マン」だった鳥越淳司社長。普通の会社員が会社を燃える集団に変えていった20年間を、本人の言葉で語ります。
山中浩之(著)、日経BP、1870円(税込み)
●本書の内容をさらに詳しく知りたい!という皆さん、日経BOOKプラスにて「はじめに」と「もくじ」も公開しております。
