『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』(日経BP)と『古典に学ぶ現代世界』(日経プレミアシリーズ)の刊行を記念し、2025年9月27日、東京・ジュンク堂書店池袋本店で滝田洋一さん(名古屋外国語大学特任教授、日本経済新聞客員編集委員)と豊島晋作さん(テレビ東京報道記者、WBS[ワールドビジネスサテライト]メインキャスター)の対談イベントが行われた。その模様をお伝えする。2回目は、「伝え方」について。相手に伝えるためには情報を絞る必要があるが、それは物事を単純化してしまうことであり、ジレンマもある。後段ではニュースを報道する際の「軸」についての議論が交わされた。

余計なことをそぐから伝わる

テレビ東京 WBS(ワールドビジネスサテライト)メインキャスター 豊島晋作さん(以下、豊島) 『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』にも書きましたが、伝えるときに大切なのは、「余計なことをそぐ」ということです。例えば、女性に「私はあなたのことが好きです。その理由は7つあります」と言ったら、女性は「は?」となりますよね。だから、7つの理由を1つにして、余計なものをそいで伝える必要があります。

 我々の番組では3分や5分のVTRを作りますが、常に「情報量が多すぎる」「もっと絞れ」と議論します。例えば、トヨタが新型のプリウスを発売したとします。圧倒的にデザインが変わった、燃費効率はこのぐらい上がった、価格はいくらになった。おそらく、この3要素は必ず伝えなくてはなりません。それ以外にも部品がどうだ、生産地はどこだと、いろいろな情報があるのですが、「あえて全部を伝えない」ことによって「必須の3つを伝える」という逆説的な伝え方をします。

 話が長い人や面白くない人は、とにかく「すべての情報」を「順番バラバラ」にワッとしゃべって、「何を言っているのか分からない」となりがちです。テレビでそれはご法度なので、まず取捨選択をします。ただそうすると、単純化した情報が視聴者に伝わる弊害があるので、難しいですね。常にそうしたジレンマを抱えながら報道をしています。

 例えば、今回の自民党総裁選で5人の候補者が出そろったとき、「この人はこういう人だ」という印象は、1人につき1つぐらいしか伝わりません。すると、高市早苗さんは「積極財政派」という伝え方になる。だからテレビというのは罪深い商売かもしれません。その点、新聞のほうが、罪深さが少ないというか、活字にする分たくさんのことを伝えられると思います。

社説はAIに書かせればいい

名古屋外国語大学特任教授 滝田洋一さん(以下、滝田) そんなことないですよ。どの新聞社も「積極財政」か「健全財政」かのキャッチフレーズが先に来て、政策の中身や実際のデータをきちんと伝えているか首をかしげたくなります。AI(人工知能)がどんどん進化しているので、その社の主張の結論が決まっているなら、私は新聞の社説はAIに任せればいいとさえ思っています。「Aでもないが、Bでもない」とか「議論を深めなければならない」といった、読んで時間の無駄になるような書き方はやめたほうがいい。

 今の豊島さんの話はすごく重要な問題提起ですね。例えば、プリウスのニュースを伝えるとき、情報を絞るのも大事だけれど、車体をなでながらとか、ハンドルを握りながら解説するとか、身体言語を含んだメッセージを発することも必要ですね。

「先般の自民党総裁選では、5人の立候補者の意見の違いがよく分かりませんでした」と滝田さん
「先般の自民党総裁選では、5人の立候補者の意見の違いがよく分かりませんでした」と滝田さん
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 先般の自民党総裁選については、「定率減税」と言った人が1人。「給付付き税額控除」「地方に対する戦略的交付金」と言った人もいました。よく、学生時代のテストで「数字の1~5番と項目のA~Eの当てはまるものを線で結べ」といった問題が出ましたが、今回の総裁選では誰をどの項目と結べばいいのか、よく分かりませんでした。テレビでも5人の候補の特徴を伝えるのに苦労したのではないですか。

豊島 確かに苦労しました。茂木敏充さんと林芳正さんは言っていることの形が違うだけで、中身は同じでしたし。そうなると、個々の政策の細かい部分には差があるんですが、そこは無視したり、違いが明確な別の政策を取り上げたりする。あまり良くないやり方ですが。

滝田 私はたまたまBSテレ東の「NIKKEI NEWS NEXT」でコメントを求められました。5人の候補者に差がなかったので、「5人が語らなかったこと」が重要だと思い、「全員が消費税減税を語らなかった」というところに注目しました。

豊島 なるほど。WBSには「マーケットに聞く」という手があります。何かニュースがあったとき、市場や金利はどのように反応したかを報道します。WBSの「マーケットがどう見ているか」という視点は、ほかのニュース番組と違うところかもしれません。

「マーケットはどう見ているかが、WBSの報道の1つの軸になっています」と話す豊島さん
「マーケットはどう見ているかが、WBSの報道の1つの軸になっています」と話す豊島さん
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滝田 やっぱり、何か1つ軸がないとまずいわけですよね。では、ぶっちゃけた話、今年4月初の日経平均の水準は3万1000円、9月末時点で4万5000円じゃないですか。トランプショックで下がったところから見れば、V字回復しているわけですよ。

 でも、自民党の5人の候補がものすごく立派な経済政策を立ててそうなったわけではないので、株高の分析は難しいですね。経済政策は心ここにあらずだった石破茂政権に対する「石破ディスカウント(割安)」がなくなったからなのか。石破政権は事実上、経済政策を打ち出していなかったけれども、今回の5人の候補は何らかの形で経済に軸足を置くということが、ポジティブに受け取られたということでしょうか。

豊島 確かにそうかもしれません。ただ、WBSでは「石破ディスカウントがなくなった」ではなく、「次期政権への期待感」という誰も傷つけないような伝え方にしました。

 市場に関していえば、テレ東では朝の番組の「Newsモーニングサテライト」や、配信サービスの「モーサテプレミアム」では個別銘柄についてわりと詳しい情報を提供しています。この5年で、Newsモーニングサテライトやモーサテプレミアムを見て株を買っていた人は、資産が2~3倍になっているかもしれません。バブル崩壊で日経平均が3万8000円台から7000円台になるのを目の当たりにした方もいるので、日本には投資に対する根強い不信感が残っていますが、それが変わりつつあるようにも見えます。

 この30年間で日本人はグーグル、アップル、メタのような巨大企業を生むことはできませんでした。今、時価総額で世界トップ10に入れるような日本企業はトヨタぐらい。アップルを生めないのであれば、我々はアップルの株主になったほうがいいと思います。そういう投資についての本質的な見方を伝えてきたのは、テレ東ぐらいだったかもしれません。だから、ニュースを伝える1つの軸として、マーケットに対する見方もブレずに持ち続けていきたいと思っています。

(第3回に続く)

取材・文/三浦香代子 構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集) 写真/鈴木愛子

日経プレミアシリーズ『 古典に学ぶ現代世界
名著の中に問題解決の道を探す

AIと超高齢化、ポピュリズムと全体主義、権力の偏重とタテ社会、人情と情緒、外交と経済運営――。長きにわたって読み継がれてきた古典は、私たちが抱えている課題解決へのヒントになる。ジョージ・オーウェルから有吉佐和子まで、数々の名著を現代の視点から読み解く。「日経BOOKプラス」の好評連載を大幅加筆。

滝田洋一著/日本経済新聞出版/1210円(税込み)
テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターである豊島晋作氏が、過去の失敗や苦い思いを通してたどり着いた「自分の考えや情報を分かりやすく人に伝える方法」、「より正確に、より多くの情報を人から聞き出す方法」について、基本的な部分から応用的な要素までを徹底解説。

豊島晋作著/日経BP/1980円(税込み)