「ここを直せばもっとよくなるのに」……マネジメントでつい目につくのがメンバーが苦手とする部分。著名な経営思想家ピーター・ドラッカーは「強みを活かすマネジメント」を語ったが、組織である以上、得意なことばかりをやらせるわけにはいかない。弱みを改善しても強みとはなりにくい。そこでカギになるのが「持ち味」。『なぜ部下は不安で不満で無関心なのか メンバーの「育つ力」を育てるマネジメント』(片岡裕司、山中健司著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。
ドラッカーが語ったマネジメント革命
マネジャー研修などで「若い頃に上司や先輩からどのように育てられましたか?」と尋ねると、多くの方から「とことんダメ出しをされた」「足りない部分をたくさん指摘してもらった」という答えが返ってきます。
いわゆる「弱みを克服する」というアプローチで、今の管理職世代はこの方法で育ってきた方が多いのではないでしょうか。
著名な経営思想家ピーター・ドラッカーは、著書『 明日を支配するもの 21世紀のマネジメント革命 』(ダイヤモンド社)の中でこう述べています。
「何事かを成し遂げるのは、人の強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない。もちろん、できないことによって何かを行うことなど、到底できない」
この言葉に代表されるように、昨今「強みを活かす」重要性が認識されていますが、マネジメントの現場ではまだ「弱点克服」のアプローチがとられがちです。なぜでしょうか。
これは、「できていないところがあってはいけない。弱みを何とかしないと困る」という切迫感から来ていると考えられます。
日本の教育、受験システムが影響しているところが大きく、企業の人財育成にもこのアプローチが根強く残っている印象です。仕事や年次によって求められる能力を可視化し、足りないところを課題として改善するやり方です。
「弱み克服」型育成の一長一短
もちろん、弱みを克服するアプローチにもいい点、悪い点があるので、一概に否定するものではありません。
いい点は、弱みを改善・克服することで、ある程度、平均的に仕事を進められるというところです。
一方、悪い点は、苦手なところや弱いところを改善しても、その人の強みになることは少ないということ。また、弱いところばかりを見ていると、強みを活かす視点になりづらくもなります。その結果、平均的なメンバーは育つのですが、組織全体の力が高まらないケースが多々あります。
さらに弱みを克服するアプローチばかりを行うことで、メンバーが「自己肯定感」を持ちづらくなることも注意点です。
「強みを伸ばす」アプローチの限界
これらの反省からここ10年ほどの間で少しずつ、人財育成の世界でも「メンバーの強みを見て伸ばそう」という考えが増えてきた印象です。その人が他の人よりも得意なことを引き出していくアプローチです。
しかし、この強みを伸ばすアプローチにもいい点、悪い点があります。
いい点としては、メンバーにとって自然と熱が入ることや苦も無くできることを活かして仕事に取り組んでもらうので、本人のモチベーションが高まり、パフォーマンスが上がりやすいことが挙げられます。
一方、悪い点としては「得意なこと、やりたいことだけやって、やるべきことをやらない」「弱みの部分が、強みを活かした活動の足を引っ張る」などの副作用を生み出すことがあります。結果、徐々に強みを強みとして維持し続けることができなくなってくるのです。
さらに、仕事ではやりたいことだけやるわけにはいきません。「苦手分野にはチャレンジしない」ことで、成長の幅も狭くなります。
持ち味とはその人がそもそも持つ特性
では、どうしたらメンバーが自身の弱みと向き合い、強みを伸ばせるのでしょうか?
その方法が「持ち味」を活かすという考え方で、私たちは「持ち味」を次のように定義しています。
その人にとって苦も無く、自然にできる考え方、行動のパターン。知識や技術など身につけることができるものとは違い、その人が本来持っている特性。
具体的には、たとえば、
「自然と周りの人の気持ちを考える」
「好奇心が強く、新しいことへの挑戦が好き」
「物事をじっくり考え続けても苦にならない」
「物事を俯瞰(ふかん)して、大局的に見る」
「後先考えずに、まずは行動する」
など、その人が自然とできること、他の人からすると「すごい!」と思えることです。
環境次第で強みにも弱みにもなる
その人の持っている特性のため、環境によって強みにも弱みにもなりうる。これが、持ち味を考える大きなポイントになります。
たとえば、「自然と周りの人の気持ちを考える」という持ち味は、「人の気持ちを優先しすぎて思っていることをいえない」という弱みにもなれば、「人の気持ちに寄り添って行動できる」という強みにもなります。
本人が「持ち味」として自分の「強み」と「弱み」を受容することで、自らの行動メカニズムを認識することができ、その結果、自分の持ち味を強みとして活かそうと思えたり、弱みが足を引っ張りそうなときはカバーしようとしたり、誰かに助けを求めることができるなどバランスがとれるようになります。
ズケズケ発言する社員の「持ち味」は?
ある企業の人事部の課長Cさんからうかがった話を紹介します。
Cさんの頭痛のタネは、部の中堅メンバーDさんです。Dさんは、自分より上席がたくさんいる経営会議などでも、率直に意見をいうタイプでした。
上司であるCさんは、その様子にいつもヒヤヒヤしていましたが、ある日、部長、Cさん、そしてDさんの3人で飲みに行った際に、とうとう注意したそうです。
「Dさんの発言はいくら何でも生意気だ、失礼だ」
Dさんはそれに反論し、口論が始まりました。それをしばらく聞いていた部長はこう発言しました。
「いやいや、それでいい。率直に思っていることをいえるのは、Dさんの持ち味なんだ。どんどんいってほしい。でも、持ち味は強みにも弱みにもなるから扱い方が重要だよね。
誰であろうと自分の意見を伝えることができるのはDさんの強み。でも、率直にいうだけだと相手に心の壁ができて物事が進まないことも多い。これがDさんの弱み。
だからモノの言い方を工夫すると、Dさんがやりたいことができるようになるんじゃないかな」
Cさんは、部長の言葉で「Dさんの持ち味」を改めて認識し、Dさんも納得して、そこから自分がどのように伝えたらよいのか発言の仕方を考えるようになったそうです。
メンバーの自己肯定感を育む
このように、強み、弱みを単純に分けるのではなく、源泉となるその人の「持ち味」や「それが生み出す強み、弱み」をマネジャー、メンバーが共に理解し、受容することで、弱みをカバーしつつ、強みを伸ばすことが可能になります。
そして、持ち味として、自分の強みも弱みも受容できることが、チャレンジの一歩を生み出すメンバーの自己肯定感を育むことになるのです。
ここまで強み、弱みの土台となる持ち味の大切さを見てきましたが、皆さんはメンバーそれぞれの「持ち味」をどのように捉えていますか?
メンバーの持ち味を見つけること、一緒に探求すること、メンバーが持ち味を活かせるように関わることで、メンバーの自己肯定感を育み、主体性を引き出すことにつながります。
それが、「育つ力」を育てる大きなポイントになるのです。
誰も本音を話してくれないから、どんな感情を持っているかも分からない。だけど、問題になるのが怖くて一歩踏み出せない。そんな負の連鎖が職場のあちこちで起きている。“上司であること”が何よりも難しい今、新しいマネジメントの方法論を提案。
片岡裕司、山中健司著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)

