「ここをがんばればいいのに、なぜがんばれないのか」「なんでこの一歩を踏み出せないんだ」とメンバーにもどかしさを覚える上司は多い。こうしたメンバーに共通するのが「自己効力感」の不足。そもそも自己効力感とは? それを育むための具体的なマネジメント術とは? 『なぜ部下は不安で不満で無関心なのか メンバーの「育つ力」を育てるマネジメント』(片岡裕司、山中健司著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。
「壁を越えられない人」の共通点
成長を考えチャレンジを促しているとき、壁にぶつかって一歩踏み出せないメンバーに対して、
「ここをがんばればいいのに、なぜがんばれないのか」
「なんでこの一歩を踏み出せないんだ」
ともどかしさを覚えることはありませんか。
このようなメンバーが踏み出せない要因の1つとして「自己効力感の不足」があります。
「自己効力感」とは、心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した概念で、「難しい問題があっても、なんとかできる」という自信のようなものです。
自己効力感が高い人、低い人には次のような特徴があります。
[自己効力感が高い人の特徴]
・積極的にチャレンジする
・失敗を恐れず、困難に立ち向かえる
・粘り強くあきらめない
・ストレスに強い
・立ち直るのが早い
[自己効力感が低い人の特徴]
・失敗を恐れるあまり、チャレンジを避ける
・壁にぶつかると逃げる
・やる前からあきらめる
・ストレスに弱い
・立ち直るのが遅い
皆さんの職場はどちらのメンバーが多いでしょうか?
自己肯定感を土台に自己効力感を育む
自己効力感とは別に「自己肯定感」という言葉があります。
自己肯定感と自己効力感の違いを整理すると次のようになります。
自己肯定感:「いいところもダメなところも含めて、自分を受け入れること。自分が自分であって大丈夫と思えること」という考え方
自己効力感:「難しい問題があっても、なんとかできる」という自信
自己肯定感は、自己防衛本能を抑えて、チャレンジの機会に一歩踏み出す際の重要な要素となります。しかし、チャレンジに壁はつきものです。
壁にぶつかってうまくいかないときに、自己肯定感はあるけれど自己効力感が低い人は、「やっぱり難しいから無理かもしれない。でも、うまくいかないことも自分だから仕方ない」とあきらめてしまう傾向があります。
一方、自己肯定感と自己効力感が高い人は、「この仕事は大変だ。でも、大丈夫。自分ならできる!」と思い、壁を乗り越えるための意欲と行動が引き出されていきます。
自己肯定感という土台の上に自己効力感を育むから、困難を乗り越えていこうという意思や行動が生まれてくるのです。
管理職に昇格する人は一般的に自己効力感が高く、がんばれないメンバーを見ると「なんでがんばれないのか」「ここで逃げちゃダメじゃないか」ともどかしさを感じることが多くあるといわれます。
けれど、自己効力感が低いメンバーに、いくら「がんばれ!」といってもうまくいきません。自己効力感を高めるアプローチが必要なのです。
ここで一番大切なことは「成功体験を積み重ねる」ことです。
成功体験から自己効力感を育む
「成功体験から自己効力感を育む」ための具体的な手法が「前始末型のマネジメント」です。
「前始末」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、この反対語が「後始末」と聞けばイメージしやすいでしょう。
後始末型のマネジメントは、まずは仕事をアサインし、目的や目標を確認したらあとは任せっぱなしです。「何かあればいつでも相談して」と伝えることはしますが、途中でマネジャーからメンバーへ声がけをすることはありません。
そして、ある程度時間がたった段階で「そういえば、あのプロジェクトはどうなっている?」と確認。想像以上に進捗が悪かったり、期待と違う方向に向かっていたりすることが発覚すると、結果責任を負っているマネジャーが口や手を出してしまうというパターンです。
このパターンでは結局マネジャーがリカバリーしているので、メンバーは「自分でやった気がしない」となり、自己効力感は高まりません。
うまくいっていないマネジャーの大半は、このように後始末をすることがマネジメントだと思い込んでいる節があります。しかし残念ながらこのパターンでは、能力も高く、もともと自己肯定感も自己効力感も備わっているメンバーしか育てることができません。
一方、あらゆるメンバーに有効になるのが、「前始末型のマネジメント」です。何か起こる前に始末するので「前始末」というわけです。
何か起こる前に始末するなんて、占い師みたいなことできませんとよくいわれますが、とてもシンプルで、決して難しいものではありません。
事前にひと手間は必要になりますが、後始末に振り回されることがなくなると思えば絶対に“お得”なマネジメントメソッドになります。
「自分でやり切った」感覚を育む
「前始末型のマネジメント」も基本的にメンバーに任せることは変わらないのですが、任せ方が後始末型とは異なります。
仕事をアサインするとき、目的、目標の確認で終わらずに、その後どのように進めていくのかをメンバーに話してもらいます。メンバーの話が急に曖昧になったり、具体性がなくなったりしたところがマネジメントのポイントです。
仕事の見通しを最初に立てながら、難しそうなところや不安なところを確認し、必要なリソースを一緒に考えたり、知識・情報不足であれば学ぶことを確認したり、周囲にサポートを頼むことなどをメンバー自身が考えるように促します。
そして、どのタイミングで一緒に進捗を確認し、相談する場を設けるかも話し合います。
相談の場でも、メンバーが抱えている課題や乗り越え方をメンバー自身が考えるように促します。このような関わり方によって、予想外の進捗遅れや期待と違う方向に向かうことなく、メンバーも自分で考え、取り組んでいる感覚を持つことができます。
前始末というのは、事前に阻害要因をマネジャーが取り除くのではなく、メンバー自身が前始末をする=メンバーが常に仕事の見通しや阻害要因を考えながら、試行錯誤して仕事を進めることなのです。
その結果、最終的に「大変だったけれど、自分でやり切った!」となり、自己効力感が高まっていきます。
大事なことは、メンバーが「自分でやり切った」という感覚を持つことです。こうした成功体験を持つことによって自己効力感が育まれ、さらなるチャレンジへとつながっていきます。
最初は手がかかると思うかもしれませんが、メンバーの「予想外」に振り回されることが減り、格段にマネジメントがしやすくなると思います。ぜひ、チャレンジしてみてください。
誰も本音を話してくれないから、どんな感情を持っているかも分からない。だけど、問題になるのが怖くて一歩踏み出せない。そんな負の連鎖が職場のあちこちで起きている。“上司であること”が何よりも難しい今、新しいマネジメントの方法論を提案。
片岡裕司、山中健司著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)

