人手不足を背景に、事業の成長に必要となる人材を採用する難度は高まっている。競争力のある採用を実現するには、人事部門と事業部門が連携して取り組む必要がある。だが双方の間には壁や溝があることも珍しくない。SHIFTはどう乗り越えてきたのか。『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』(飯山辰之介著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする。

(写真=Nuttapong punna/stock.adobe.com)
(写真=Nuttapong punna/stock.adobe.com)

 人材の採用は人事担当者だけでは当然、完結はしない。どんな属性の人材をどれだけ確保すれば事業拡大が見込めるのか。予見性を持って採用に動くには、事業部門と人事部門の協調が欠かせない。両者が手を携えてこそ、採用→戦力化→業績貢献という流れは加速する。ただし、これは理想論にすぎない。人事部と事業部との間には溝があるのが普通だからだ。

 SHIFTに人事の「普通」は通じない。ブラックボックスがあればこじ開け、溝があるなら橋を架ける。

 同社の事業部門には、数十人の人事担当者が入り込んでいる。そして事業の実情にあった採用戦略を主導するのは同社に6人ほどいるHRBP(人事ビジネスパートナーだ)。

 HRBPに求められる役割や機能は企業によって大きく異なるが、基本的には事業部門に寄り添い、経営目標の実現に必要な人材戦略の立案・実行を担う。6000社を超える企業の人事の実態について調査した資料「日本の人事部 人事白書 2024」によれば、HRBPを導入している企業は2割に満たないが、近年は大手を中心に多くの企業が関心を高めてもいる。

 日経ビジネスが24年7~8月に人事経験者を対象に実施したアンケート調査によれば、人事部の課題解決に必要な施策として、HRBPの導入を挙げる人が全体の約3割を占めた。

 SHIFTでの導入は17年に遡る。事業の幅を広げるために大手ITサービス企業などから高年収帯の人材を次々と獲得し始めた頃のことだ。日本企業のHRBP導入事例としてはかなり早いと言えるだろう。

 その立ち上げを担い、SHIFT流HRBPのロールモデルとなった人物がいる。事業人事部の古澤美月部長だ。彼女の動きを追うことで、HRBPの果たすべき役割が見えてくる。

 古澤部長は15年まで飲食店を経営していたが、ランチ時に財布を手に店を訪れるビジネスパーソンへの憧れもあって15年にSHIFTに入社し、専らキャリア採用畑を歩んできた。

SHIFT事業人事部の古澤美月部長(写真=菊池 くらげ)
SHIFT事業人事部の古澤美月部長(写真=菊池 くらげ)

事業部の「下請け」でいいのか

 人手を欲する事業部門の要請に応えるべく、必死で採用に取り組んだ。ただ元経営者だからこそ見える景色もあったのだろう。古澤部長は採用の在り方に大きな課題があるとも感じていた。

 事業部門はプロジェクトの推進や事業の拡大に必要な人員数を独自にはじき出し、不足する人材の採用を人事部門に依頼する。だが、どういう事情や背景があって、どんな目標を見据えて作られた採用計画なのか、人事側は分からない。実態としては、欲しい数の人材の採用を事業部門から丸投げされているようなものだった。

 オーダーを受けた古澤部長ら人事部門側はとにかく人を確保して事業部門に送り込むものの、なかなか定着しない。仕事の内容や組織の雰囲気になじめずに辞めてしまう人が続出した。

 人事部門と事業部門との間に溝があることが最大の課題であると古澤部長は気づいた。売り上げ拡大や事業の成長など、双方は同じゴールを共有しているはず。それなのに事業部門は人事部門を信頼せず、どちらかというと人事部門を従属的に見ている。人事部門側もそれを当然のように受け止めてしまう。

 人事部門と事業部門の乖離(かいり) は、多くの企業が抱える課題でもある。本来であれば人事部門は組織成長の司令塔ともなるべき部署なのに、実態としては事業部門の御用聞きとなっていることが少なくない。だからこそ両部門を橋渡しできるHRBPへの期待が高まっているとも言えるだろう。

 事業部門の状況や計画を深く理解できなければ、競争力のある採用はできない、そう考えた古澤部長は垣根を越えるべく動き出した。

(続く)

日経ビジネス電子版 2026年1月22日付の記事を転載]

IT企業でありながら「元警察官だろうがキャバクラだろうが引きこもりだろうが、前職を問わない」採用、「トップガン」と呼ばれる社員の隠れた能力を引き出す仕組み、急成長した社員が稼げば「前年比で600万円の昇給」が当たり前に行われる風土。これらが「上場10年で売上高50倍」という驚異的な数字に結実した。人の能力をとことん引き出し、企業の成長につなげる。丹下社長ら経営陣、そして現場への密着取材で、SHIFTの「究極の人的資本経営」を徹底解剖する。

飯山辰之介著/日経BP/1980円(税込み)