企業の人事部は激変する働き方や構造的な人材・人手不足への対応を迫られている。山積する課題の解決に注目されているのが、「HRBP(人事ビジネスパートナー)」の存在だ。事業部門に寄り添い、経営目標の実現に必要な人材戦略の立案・実行を担う。SHIFTは早くからHRBPが採用面で活躍してきた。そのロールモデルとなった人物を追うシリーズ最終回では、SHIFT流HRBPの実際の動きに迫る。

(写真=Lazy_Bear/stock.adobe.com)
(写真=Lazy_Bear/stock.adobe.com)

 一般的に人事部門と事業部門との間には壁や溝がある(SHIFT人事部奮闘す(1)事業部の壁を越えろ、採用巧者への道程)。これを乗り越えない限り、競争力のある採用は実現しない。SHIFT事業人事部の古澤美月部長はこう見抜き、事業部に乗り込んでいった(SHIFT人事部奮闘す(2)採用の前にまず事業部門の心をつかめ)。

 事業部門の売り上げ目標や事業計画が見えてくれば、HRBPの採用戦略も変わってくる。どんな人材であれば事業部門のニーズを満たし、売り上げ拡大に貢献してくれるのか、計画から逆算し、先回りして採用の作戦を練る余地が出てくるからだ。

SHIFTのファンになってもらう

 計画実現に必要な人材像を固めて、その「生態」を調査する。どんな会社に勤めていて、どんな仕事をしているのか。現在の仕事や待遇への不満、普段の移動手段、食生活、よく目にするメディア、家族構成から休日の過ごし方まで、人材像(ペルソナ)をはっきりとさせる。そして、狙った人材に刺さるコンテンツを作り、ターゲットとする人材がよく目にする場所に仕込んで網を張る。あたかも、クルマや消費財のターゲットマーケティングのようだ。

 キャリア人材の奪い合いは激しい。採用エージェントからの紹介をただ待つだけでは、規模が大きく予算も潤沢な競合には勝てない。上述した採用エージェントの「ファン化」に加えて、「求める人材にもSHIFTを知ってもらいファンになってもらう。そうすることで競合に勝っていける」と古澤部長は画策する。

人材市場には、人目に付かないが戦力として見込める、いわば地下資源のような層もある。競合が見過ごしている隠れた鉱脈を探し当てるのもHRBPの腕を見せどころだ。

 たとえば第二新卒(明確な定義はないが、新卒入社からおおむね3年以内に転職する社会人。業務の専門性はないが、基本的な社会人スキルは身に付いているとされる)。人手不足や人材不足が顕在化した昨今は有望な人材として期待が高まっているが、これまではどちらかと言えば見過ごされていた。新卒採用を重視する企業が多かったからだろう。一方でSHIFTは古澤部長がHRBPを名乗り始めた17年ごろから第二新卒をむしろ狙って採用してきた。

 SHIFTはIT未経験者でも活躍できる環境や、意欲次第で成長できる仕組みを整えてきたので、彼らを戦力として活用できる。実際、「(キャリアアップの仕組みである)トップガンで最初に火が付いたのは、SHIFTに転職してキャリアに再挑戦しようとしていた第二新卒の社員たちだった」(丹下社長)という。

「もっともっとオポチュニティーを」

 IT未経験の第二新卒とSHIFTとの相性はいい。そこで古澤部長はこれまでに1000人ほどの第二新卒を獲得し、事業部門に次々と送り込んだ。他社が手を回し切れていない〝人材資源〟を発掘し、時には事業部が求める以上の採用を持ちかけ、成長の加速にハッパを掛ける。

 事業部門側は想定以上の人員増には及び腰にもなる。2章で見たように、きちんと仕事をアサインし、成果を出してもらう必要があるからだ。そんな採用拡大に二の足を踏む事業部門の背中を押すのもHRBPの役目。「せっかく採用できるのだから、もっともっとオポチュニティー(プロジェクト獲得が見込める機会)を取ってきて成長を実現しましょう」と説得にかかる。「事業部との信頼関係があるから言えること」だと古澤部長は笑う。

SHIFT事業人事部の古澤美月部長(写真=菊池 くらげ)
SHIFT事業人事部の古澤美月部長(写真=菊池 くらげ)

 HRBPの役割はまだある。採用した人材が組織になじんでいるか、活躍できているか、細やかに目配りする。担当する部署の評価会議にも出席する。採用した人材が評価されているか確認するのに加えて、担当部署で高い評価を受けた人材に注目し、これを次の採用のロールモデルにしているのだという。

 足元で全事業部門の採用戦略はグループ会社も含めて古澤部長が計画を描いている。事業部門に入り込みつつ、全体も俯瞰(ふかん)し、会社を挙げて進めていくべき採用計画を立案する。ここまでがSHIFTのHRBPの役割だ。

 担う仕事は重い。だが人事部門が単なる「御用聞き」から脱するには、ここまでやる必要がある。「人事部門は(自ら売り上げを確保するわけではないから)結局のところはコストセンターだ。だからこそ事業部門の目標にコミットできないといけない。そうじゃなければ私は生きてちゃいけない」。

 「い、生きてちゃいけないんですか……」、こう引き気味に反応した筆者を見て、古澤部長は慌てて「冗談ですよ、冗談! それくらいの覚悟がないとダメってことです」と笑った。だが、恐らく古澤部長は本気でそう思っているのだろう。

日経ビジネス電子版 2026年2月19日付の記事を転載]

「部下の給与を増やせない上司は不要」。SHIFTの経営のスタンスを象徴するのがこの言葉だ。この姿勢が「上場10年で売上高50倍」という驚異的な数字に結実した。SHIFTの「究極の人的資本経営」を具体例を交え徹底解剖する。

飯山辰之介著/日経BP/1980円(税込み)