毎年2000人を大きく超える人材を採用してきたSHIFTだが、数年後には現状の倍の規模となる5000人を採用する目標を掲げる。ただし人事部の陣容は変えない。対応するには人事業務を大幅に効率化する必要がある。カギになるのが人工知能(AI)の活用だ。前回に引き続き、同社の採用関連のAI活用について『SHIFT解剖 究極の人的資本経営』(飯山辰之介著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする。

SHIFTは独自開発したAIレジュメアナライザー「Resumiru(レジュミル)」を導入することで、同社に大量に届く職務経歴書(レジュメ)のチェックの大幅な効率化に取り組む。加えて、このレジュミルには録画した面接をチェックする機能もある。
書類選考を通過した候補者と面接官とのやり取りを記録し、自動でテープ起こしする。起こしには「あー」とか「えー」といった内容には直接関係のない発言も多い。こうしたノイズを除去し、内容を要約する。さらに面接時間中にどんなテーマが話題になったのか、技術に待遇、これまで経験など、時間ごとに整理して、後で面接官や人事部員が参照しやすくする。
会話の内容を分析するだけでなく、候補者と面接官の感情まで読み取る。たとえば候補者は「私のスキルは御社のメンバーより劣るかもしれません」と話したとする。候補者はネガティブな感情を示したとAIは分析。しかしそこで面接官が「そんなことはないと思いますよ」と気にしていない発言をしていれば、面接官の感情は「ニュートラル」となる。AIは候補者が自らの弱みをきちんと示したことを評価し、「候補者と面接官とは信頼関係が構築されている」とコメントを出す。
さらに会話の内容からも候補者のスキルや経験、仕事に対する姿勢や志向などを判断し、採用の推奨度を示す。「周囲からのプレッシャーで能力を発揮するという候補者の気質は、期待値を高く示す当社の環境とマッチする可能性がある」といった助言までする。
「AIで何か面白いものは作れないか」。菅原要介・最高人事責任者(CHRO)の一言で人事領域のAI開発は加速した。24年12月のことだ。レジュミルが運用を開始したのは翌年の2月だから、年末年始を考慮すると2カ月もかかっていない。ただし運用に際しては「苦労も多かった」と採用開発部HRイノベーショングループの井戸誠也プロダクトマネージャーは言う。
社内で「AIを使ってもらう」工夫
AIのツールを開発したところで、使ってもらわなければ意味がない。たとえば人材マネジメントツールを導入する企業は増えているが、多くの企業は人材に関するデータをそろえて満足してしまっているのが実情だ。AIにしても、同じ罠(わな)にはまる恐れがある。人事の採用担当者や面接官の業務フローにきちんと定着してこそAIは威力を発揮する。
ではどうすれば使ってもらえるのか。井戸マネージャーらは知恵を絞った。たとえばレジュミルは閲覧権限の管理が容易にできるようになっている。社内でデータを閲覧できる人を簡単に設定できる。名前や部署を検索窓に入力し、目的の部署や社員にマークをつければいい。社内でオンライン会議の参加者を簡単に設定できるような仕組みと同様だ。これがたとえば一人ひとり検索して設定しなければならなかったり、その都度、参加者にリンクを送らなければならなかったりしては、利便性は低下するだろう。
閲覧権限の管理は機能としてはありふれたものだ。だがこうした「かゆいところに手が届く仕組み」をつくることが「AIをスムーズに現場に導入していく上でのポイントになる」と井戸マネージャーは言う。
ついに面接官もAIに
レジュミルがあれば動画にした面接を細かく分析できるが、SHIFTは面接それ自体を自動化する試みも進める。こちらはまだ試験運用の段階ではあるが、人に代わってAIが候補者と面接するシステムも開発している。候補者がパソコンやスマホ向けのアプリで動画の録画ボタンを押すと、あらかじめ設定された質問がタイミングよく候補者に投げかけられる。候補者はカメラの前で質問に答えていけば面接は終了だ。
近年は若年層を中心に動画を自撮りしてSNSなどにアップする習慣がついてるから、アプリを相手に考えたり、話したりすることも、思ったほどの違和感はないのかもしれない。むしろ気楽に感じる可能性もありそうだ。一方で、面接官の姿が見えないことに不安を覚える候補者も中にはいるだろう。そういった候補者がAIアバターと面接できる仕組みもある。こちらはまるで人と話しているような感じで、自然な会話のキャッチボールができるという。

内定者にAIがラブレターを書く
書類選考と面接をくぐり抜けた候補者には内定を出すことになる。ここでもレジュミルが登場する。候補者に合わせた内定通知書を送ることができるのだ。内定を出したところで候補者が必ず入社してくれる保証はない。特に優秀な人材であれば複数企業から内定を得ている可能性もあるだろう。そこで通知書を「ここから内定をもらってよかった」と感じさせるラブレターとすることで、候補者の心をがっちりつなぎ留める。
何千人もの内定者一人一人に人手をかけて丁寧なラブレターを書く余力など人事部門にはない。だから大多数の内定者には定型文を送る形になっていた。一般的に見ても通知書は無味乾燥な定型文であることが多く、場合によっては待遇などを羅列しただけの採用条件通知書を送って済ませる場合もある。
AIを活用すれば、レジュメの内容や面接での候補者の発言を参照し、候補者の気持ちをくすぐる通知書を作ることができる。「『あなたの良かったところはここです』とか、『SHIFTはあなたにこんなキャリアパスを用意できます』といった文言があれば、候補者は『ここまで見てくれているのか』と驚いてくれる」(井戸マネージャー)。結果、定型文をただ送るのに比べ内定承諾率が5~10%程度高まるという。ただし、ここでもすべてをAI任せにはしておらず、人が最終チェックして通知書を仕上げる。
レジュミルが蓄積した情報は、最終的には全てSHIFTが独自開発した人材マネジメントシステムである「ヒトログ」に格納される。社員に関する情報を450項目以上も詰め込んでいるデータベースだ。
一般的な人材のマネジメントシステムは、既存の社員の状況や情報を可視化するために用いられる。つまり採用段階で得られた情報とは分断されているのが普通だ。ここを「一気通貫させる」(井戸マネージャー)ことで、新しい知見が得られるとSHIFTは考える。採用時の判断が正しかったのか、つまり採用した人材が見込んだ通りの活躍をしたのか、生産性を発揮したかどうか、効果検証できればSHIFTで活躍できる人材をあらかじめ高い精度で見極められるだろう。(続く)
[日経ビジネス電子版 2025年11月20日付の記事を転載]
飯山辰之介著/日経BP/1980円(税込み)
