2024年5月に成城石井の代表取締役社長に就任した後藤勝基氏。その後藤氏の初となるインタビューを2025年8月に行った。前回(参照:「失われた30年」に成長を続けた成城石井 原動力は客と店員の会話)、成城石井で働いている社員やパート従業員は成城石井のことが好きな人が多く、それが成城石井の特長になっているという話などを聞いた。今回は、成城石井の強みである多品種のオリジナル商品などについて聞く。『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?(日経ビジネス人文庫)』(上阪徹 著)から一部を抜粋してお届けする。

(写真=鈴木 愛子)
(写真=鈴木 愛子)

安定運営できる基盤をつくる

三菱商事で小売りに関わり、ライフコーポレーションに出向したこともある後藤さんは、ご自身の経験を成城石井でどのように生かせると感じましたか。

後藤勝基氏(以下、後藤氏):やはり外の目線で成城石井を見られるということです。成城石井で育ってきた方々が運営しているからこその強みもある一方で、外から見たらギャップに思えることもあるわけですから。新たな視点が会社に入ってくる、それを提供できる。

 それこそ土台は昔のままに、上の部分だけが2倍になってしまった建物のようなところがあったわけです。もう一度、土台となる経営の基盤のところをしっかりつくるタイミングに来ていると感じました。

 システムもそうですし、人材育成の仕組みもそうですし、内部統制のルールもそうです。売上高が1000億円を超え、1万人を超える従業員が働く会社になってきているわけですから、そういう中でもちゃんと安定運営できるような基盤を作らないといけない。そんな時期に来ているのではないか、と。

入社後に実際、どんな取り組みを進められていたのでしょうか。

後藤氏:一つはデータをしっかり分析し、結果に向かう精度を高めていくことです。商品のプロダクトアウトができている会社ですから、そこはいいところではあるんですが、精度が高かったかといえば必ずしもそうはいえなかった。

 たくさんの新商品を出していて、それを進めるか引っ込めるか、という判断のスピード感はコンビニよりも速いくらいだと感心もするんですが、一方でもうちょっと結果の精度を上げられるのではないか、と。そこでできることがあると思ったんですね。

 もう一つ、これも他の小売業とはちょっと違うところなんですが、成城石井にはとても特徴のあるお客様の塊がいらっしゃるんです。このお客様をしっかり把握して、次の売り上げにつながるような新しいビジネスを作っていくことです。

後藤 勝基(ごとう・かつもと)氏
後藤 勝基(ごとう・かつもと)氏
成城石井代表取締役社長。1972年、東京都生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、95年に三菱商事入社。英国駐在などを経て、16年、ライフコーポレーションに出向。取締役上席執行役員戦略ビジネス本部長などを歴任。20年、三菱商事リテイル本部戦略企画室室長。24年、成城石井に出向。(写真=鈴木 愛子)

平たい言葉でいえば、マーケティング、ですね。書籍『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?(日経ビジネス人文庫)』にもありますが、成城石井はこの言葉をあまり好まない、という(笑)。

後藤氏:マーケティングという言葉がどうかというよりも、ちゃんとデータを分析して、PDCAを回そうよ、ということなんです。また、顧客基盤というところで、いつも来ていただいているお客様にいつもありがとうございますと言える仕組み、また来ていただくための仕組みをつくりましょう、ということです。

 新商品に関しても、外から冷静に見てみると、このままでは現場は疲弊してしまうと思えたんですね。次から次に出さないといけないわけですから。もっというと、出すことが目的になってしまうようなことも起こり得る。だから、データを活用しましょう。ちゃんとお客様の声を聞ける仕掛けをつくりましょう、と。

 実際、あまりデータは使われていなかった。新商品を出してみて、シンプルに売れたか売れないかで判断するという、その感覚は正しいんです。例えば1日で売れなかったものは、1週間後も売れない。これは、経験則に基づく判断なんですね。

 でも、本当は同じ売れないにしても、初めて買う人が少ないのか、2度目に買う人が少ないのかによっても意味が違うわけです。こういうところもしっかり考えられたら、開発にもプラスにつながるのではないか、と思いました。

 消費者の視点から見たときにどう見えるか、何が売れるか売れないか、そのヒントがあれば開発に生かせる。プロダクトアウトが間違っているわけではないし、お客様のいう通りにしなさいというわけでもない。

 ただ、成城石井らしい商品と思って出しているのに、成城石井の商品が大好きな人たちにも支持されないとなると、それはどうしてだろうということを、ちゃんとロジカルに分かるようにしたほうがいいんじゃないかと思ったわけです。そのためのシステム基盤をしっかり作っていこう、と。これは継続中です。

有料会員「成城石井メンバーシップ」の成功

成城石井ならではの顧客基盤に向けての施策というと、2024年に成城店でスタートした「成城石井メンバーシップ」ですね。年間1万円(税別)の会費を払うと、買い物が常時3%割引になるなどの特典がある有料会員制プログラム。成城在住の私もすぐに申し込んで使っています。

後藤氏:ありがとうございます。ご活用いただいている方には、とても好評をいただいています。もちろん特典もあるわけですが、好評をいただいている理由の一つが、レジでしっかりスタッフの対応ができていることだと思っているんです。メンバーシップであることが分かると、「いつもありがとうございます」と、きちんとお礼を申し上げる。これも、成城石井が重視するお客様との会話であり、コミュニケーションなんですよね。

 当初の事業計画からすると、申込時点ではトントンくらいの想定だったんですが、実際には想像以上にメンバーシップのお客様の売り上げが伸びていまして。従来は他のスーパーで買っていたものまで成城石井でお買い上げいただいている、というデータも上がってきています。

 また、前年に本店は改装をしているのですが、改装初年度というのは売り上げは大きく伸びるものなんです。実際に伸びたんですが、驚いているのは2年目に入っても売り上げが伸びていることです。これは、メンバーシップのお客様の存在が大きい、と考えています。

 もともとは、米国の西海岸にある有名な高級スーパーマーケットが同じようなことをやっていたのを知っていたんです。スーパーなのに、有料会員になってまでお客様が来るというのは、ちょっと驚きでした。

 有料会員の小売モデルには例えばコストコもありますが、コストコは有料会員にならないとお店に入れないわけですね。ところが、このモデルは誰でもお店には入れる。それでも支持されて、お金を払って有料会員になってもらっている。

 もしこれを日本でやるなら、成城石井以外にできるところはないと思いました。そんな仮説を持ってやってみたら、想像以上の結果が出たんです。

 まずは成城店1店だけでのスタートになりました。それには理由があって、成城石井という会社の中ではこういう取り組みでお金を使うことをあまりやったことがなかったから。予算をもらえないわけです。

 とはいえ、事業計画がないとお客様に向けての取り組みができないので、このくらいの収入があって、こんなリターンもあって、売り上げが伸びたらこうなります、と社内を説得する必要があり、まずは成城店でやってみよう、ということになりました。

 結果が出せましたから、2025年8月からは、成城店に加えて柿の木坂店、自由が丘店、池尻大橋店、浜田山店、青葉台店の5つの店舗でもスタートしています。

成城石井を働きやすい会社にすること

こうした取り組みを進めている中、2024年5月に前社長の原昭彦さんが任期満了で退任されることが決まり、社長に就任することになりました。社長就任はまったく想定しておらず、まさに青天の霹靂(へきれき)と驚かれたそうですね。

後藤氏:話をいただいたときは、その場ですぐに「はい」ということにはならなかったですね。ただ、自分は成城石井に来たくて来たわけですから、そういう役割を与えられるのであれば、チャレンジしたいと思いました。

 前社長の原さんは商品のスペシャリストであり、その役割を私は担えませんから、原さんとは違う会社の軸を作らないといけないという思いはずっと持っていました。成城石井を働きやすい会社にすること、誇りを持って働けるようにすること。それこそ、自分がやるべきことかな、と。

 ビジネスモデルはしっかりしているし、商品のところに関しては商品本部長が別にいますので、彼に思い切りやってもらい、私は口を挟むことはありません。

 なので、あとは経営基盤をしっかりつくって、従業員が思い切り前向きに仕事ができる環境を作る。成功体験の中で組織が硬直化したり、縦割り化したりもしていた中で、チャレンジできるような風土や素地を作ることもそうです。そうした基盤づくりを担うのが、自分の役割だと思いました。

 社内には、ワクワクして働けるようにしましょう、ワクワク仕事ができるような未来を皆さんで一緒に考えていきましょう、とメッセージを発信しました。

店員は顧客とのコミュニケーションを重視し、豊富な商品知識を持つ(写真=鈴木 愛子)
店員は顧客とのコミュニケーションを重視し、豊富な商品知識を持つ(写真=鈴木 愛子)

社長交代のリリースは出ましたが、対外的には特に社長からの発信はありませんでした。実は、これが初の社長インタビューになりました。

後藤氏:上場企業ではないですし、それよりまずはちゃんと中を向かねば、という思いでした。従業員にとっては、社長の交代は大きな出来事ですが、そもそもお客様から見れば、社長交代がどれほどの関心事なのかな、とも思っていました。

 それよりも、成城石井のお店は変わりません、変わらずに今まで通りお客様にご利用いただけます、ということを伝え続けることが大事だと思っていましたので。

セントラルキッチンの安心安全をどう担保するか

社長になって1年と少し、過ぎたわけですが、どんな取り組みを進めてこられましたか。

後藤氏:まずは、セントラルキッチンの改善活動です。2022年に第3セントラルキッチンができて、生産能力がさらにアップし、このおかげで成城石井はまだまだ伸びていけると感じました。ただ一方で、これだけ重要な組織だからこそ、もしここで何か問題が発生したり、それこそ安心安全を揺るがすようなことが起きたりしたら、大変なことになるとも思ったんです。

 1500人が働いていて、シェフとパティシエが30人くらいいて、この本にも出てきますが、やっていることは変わっていなくて、ほとんど手作業で作っています。しかも、24時間365日休まず毎日500 SKU(ストック・キーピング・ユニット)をかつては10万、今は20万パック手がけている。

 コンビニの工場にも20万パック手がけるところもありますが、SKUはせいぜい15ほど。その何十倍ものSKUですから、大変な多品種大量生産なんです。こればかりは、業界の方が見て絶対にまねできないといわれます。

 だからこそ、何かあったら大変なので、そこに安心安全をどう担保するかが、喫緊の課題だと思いました。逆に、そこに安心安全を担保できる仕組みができれば、さらなる成長につなげていくことができる。

 安心安全な商品を作っていくためには、まず働く人たちが安心安全な職場にする必要があります。今日作った商品が、もう販売停止になって、次からはまた違う商品になるということもありうる世界。

 それを少しでも減らすべくマーケティングも活用しようとしているわけですが、生産現場でも何かができないか、ということで改善活動を始めました。トヨタ自動車のグループ会社でTMS(Toyota way Management System)の指導を行うコンサルティング企業と契約し、カイゼン活動を推進しています。

 実は、まずは整理整頓から始まったんですが、その効果が明らかに出始めているという報告を受けています。この先、さらに1年たって振り返ったとき、組織風土そのものが変わっていくのではと感じています。

 そしてセントラルキッチンが変わっていけば、成城石井全体にも波及していくと考えています。本社が新しくなりましたが、整理整頓はものすごく大切なことなんです。セントラルキッチンから、その改善活動が始まれば、さらにいい風土にしていけると思っています。

日経ビジネス電子版 2025年10月6日付の記事を転載]

エキナカ続々出店! 「近くにできて良かった。ありがとう」といわれ、愛されるスーパー、成城石井。モノの値段が上がり続ける今こそ知りたい、「お客に支持される付加価値」をつくる仕組みを明かす。取締役社長からバイヤー、現場のスタッフまで徹底取材。他業種・他業態でも参考になる一冊!

上阪徹著/日経BP/990円(税込み)