三菱UFJニコスの角田典彦社長にインタビューし、自身の「読書の軌跡」をうかがいました。今回は、日本的なリーダー像を学ぶ本、一生モノの伝える力が身に付く本、詐欺被害を防ぐリテラシー強化の必読書について語っていただきます。(聞き手は、日経BOOKプラス編集長 常陸佐矢佳)

「角栄本」で学ぶ日本的なリーダー像
組織における「上司」という存在は、業績だけでなく、部下のやる気や成長、職場の空気の良しあしをも左右します。だからこそ、どう振る舞うかが課題になり、それを身に付けるには、実践で成果を出された方を見習うのが早道となります。
その観点で、毀誉褒貶(きよほうへん)はありますが、上司としてたくさんのエピソードを残している田中角栄元首相のマネジメント力はとても参考になります。『 田中角栄 上司の心得 』(小林吉弥著、幻冬舎)では、「親分力」という言葉を用いて説明しています。本書の「角栄氏の親分力の底流には、利害損得勘定はなく、誠心誠意がある」という点に深く共感します。
角栄氏は、いろいろと批判も多い方だから毛嫌いして読まない、というのはもったいないと思っています。成功した要素や模範となる部分のみ取り入れて、欠点や過ちの部分は反面教師にすればいいのではないか、と。氏は決断力の速さ、行動力と実現力の高さ、人心をつかむ優れた言語感覚が卓越しています。また、人情味があることから、日本的なリーダーとして一つの手本になる方であろう、と私は捉えています。
本書は4章構成で、「親分力の磨き方」「交渉力の極意」「人材育成の奥義」「『心理戦争社会』の勝者を目指す」という章立てになっています。具体的かつ、普遍的な事例がコンパクトにまとめられているので、年齢や性別を問わず読みやすいと思います。
ちなみに、私はいわゆる「角栄本」はぼ全てに目を通しています。基本的に、気に入った人物に関する本はほとんど入手します。重複するエピソードも多々ありますが、新しいエピソードと出合えることがあるので、それを求めて買うわけです。我ながらあきれますが、超がつく“オタクコレクター”気質です(笑)。プロ野球の名監督だった野村克也さんに関する本も、ほとんど読んで所有しています。
一生モノの伝える力が身に付く『「言葉にできる」は武器になる。』
最近、「言語化」の大切さを説く書籍が増えていますが、私も、言語化は現代における必須スキルだと痛感しています。言葉を正しく伝えること、さらに伝わる言葉を生み出すことはトラブルや誤解を避け、ビジネスのみならず人生の質にも関わるといっても過言ではありません。
私が数々の言語化に関する本を読んだなかで、もっとも共感したのがコピーライターの梅田悟司さんの『 「言葉にできる」は武器になる。 』(日本経済新聞出版)です。梅田さんの名前を知らない人でも、日本コカ・コーラのコーヒーブランド「ジョージア」の「世界は誰かの仕事でできている。」「この国を、支えるひとを支えたい。」や、リクルートの求人情報サイト「タウンワーク」の「その経験は味方だ。」「バイトするなら、タウンワーク。」などのCMコピーの生みの親と言えばピンとくるでしょう。
本書では、表現のノウハウやテクニックに入る前に、まず「内なる言葉」という、感情や頭の中に浮かぶ考えとしっかり向き合う重要性が指摘されています。この点が、私自身の体験からもとても共感でき、強く引かれた点です。カギになるのは、「相手の胸に響く言葉を生み出すために必要なのは、実際に書いたり、話したり、入力したりする『外に向かう言葉』そのものを磨くのではない」「自分の頭の中に生まれている『内なる言葉』に幅や奥行きを持たせることによって得られる、言葉の重みである」と指摘されていて、まさに至言だと思いました。
「内なる言葉」と向き合うべく、社長ブログでメッセージを発信
少しでも自分の「内なる言葉」と向き合うべく、私は社内掲示板で社長ブログを書いています。更新ペースは月3回。始めたのは23年6月に社長に就任した時なので、かれこれ2年半ほど続いています。内容は3部構成で、「本編」は仕事に関する話です。例えば、ある部署の新しい試みや画期的な取り組みを取り上げて、感謝と敬意をつづります。また、組織全体で進める一大プロジェクトを控えていたら、社員の士気を高める言葉を記します。ただ、それだけだと大して読まれませんので、導入や余談として、会社や各拠点周辺の「グルメ情報」や「エンタメ情報」も載せています。
私はB級グルメが大好きなんです。ゴルフの予定のない週末は街を歩いて、おいしそうなお店を見つけたら入るようにしています。多いときは4、5軒はしごすることも。おかげで私の“グルメ・アンテナ”の感度が上がりまして、お店の外観を見ただけで、おいしいかどうかがわかるようになりました。ブログには気に入ったお店について書くわけですが、私のブログを読んで実際に行ってみた社員もいるようです。エンタメ情報も、私が最近読んだ本をはじめ、実際に見て感動した映画や舞台、コンサートについて書いています。
工夫のかいあってか、私が社長ブログを書くようになって、社内掲示板のPV(ページビュー)数が約10倍に増えました。社長がB級グルメ情報やエンタメ情報を発信するというのは珍しいかもしれません。だからこそ、変わった社長として認識してもらいやすく、その結果、社員にとって話しやすい存在になれば、会社の雰囲気をより盛り上げていけるのではないか、と。それが、ブログを書いている真の狙いです。弊社は「ワンチーム」をスローガンの一つとして掲げているので、形式にとらわれることなく、社員の一体感向上に努めたいと考えています。

詐欺被害を防ぐリテラシー向上の必読書
弊社の属するクレジットカード業界において、不正利用の防止は最も重要な課題の一つとなっています。弊社でも業界他社と同様にAIを導入するなどして、人力とハイブリッドでの対策を全力で進めております。その結果、不正利用件数が3年連続で前年より減少させることができています。
今後も様々な手立てを講じていきますが、詐欺被害の撲滅には、お客さまご自身のリテラシーの向上も欠かせません。それに役立つ本として紹介したいのが『 だます技術 』(小森美武ほか著、技術評論社)です。この本の著者であるラックの金融犯罪対策センターは、近年増加しているサイバー犯罪や金融犯罪に対応する専門組織で、2021年5月に設立されました。同分野のプロ集団で、初代センター長の小森美武さんは私の銀行時代の後輩です。「世の中から1人でも詐欺の被害者を減らしたい」という志を掲げ、安心して利用できる金融サービス環境の実現に向けて多角的な取り組みをしています。その一つが本書です。
本書は一般の方向けに分かりやすく書かれていて、題名の通り、多種多様な詐欺の手口について、具体的な事例が紹介されています。秀逸なのは、読者が注意しやすいように、章立てが主要なだまし方で整理されている点です。具体的にいうと、「本物と錯覚させる」「美味しい話で惹きつける」「話術と仕掛けで信用させる」「考えられない状況に陥れる」といった章が並び、終章は「だまされる可能性を下げるには」というタイトルで、詐欺に遭わないためにやるべきことが詳しく列挙されています。犯罪者の悪質な手口と、それに付け込まれてしまう被害者の心理の両方が分かる1冊で、現代を安全に生き抜くための必読書といえるでしょう。

文/茅島奈緒深 構成/南浦淳之(日経BOOKプラス) 写真/鈴木愛子


