人工知能(AI)をはじめ、技術が急速に発展する現在。「AIに職を奪われそう」「子どもが大きくなったら世界はどうなっているのだろう」などと、未来に不安を覚えることはありませんか。そんな不安を吹き飛ばす書籍『東大教授の超未来予測』(瀧口友里奈編著)から、AIの限界および今後の発展に必要なことについて抜粋してご紹介します。語り手は東京大学大学院工学系研究科教授の松尾豊氏です。経済キャスターの瀧口友里奈氏と東京大学大学院工学系研究科特任准教授でティアフォー代表取締役CEO(最高経営責任者)の加藤真平氏が聞き手でお届けします。

今の生成AIは長い文脈が苦手

瀧口友里奈氏(経済キャスター。以下、瀧口) 「10年後の未来」をキーワードにいろいろお話をしていきます。まず松尾先生からいただいた「生成AIの限界とは?」というテーマです。世の中は生成AIで何でもできるんじゃないかというムードになっていますが。

松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科教授。以下、松尾) これから進化していくので将来的な話は別として、今のAI技術は面白い時期にあります。AIの研究はずっとされてきて、いろいろな手法があった中で、ほぼ「Transformer(トランスフォーマー)モデル」という1つのモデルだけでいけるようになった。あと、データをたくさん集めてちゃんとつくれば精度が上がる。技術的にすごく収束した、これまでにはなかった面白い時期です。

 今の生成AIには画像系や自然言語処理系がありますが、いずれも「長距離のコンテキスト(文脈)」を保存するのがなかなか難しいんです。画像では長時間の動画を生成すること、テキストではコンテキストを保持しながら会話を続けることなど、非常に大きな塊として仕事をしてもらうことが問題になります。

松尾豊(まつお・ゆたか)
東京大学大学院 工学系研究科 教授
香川県生まれ。2002年に東京大学大学院工学系研究科電子情報工学専攻博士課程修了。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学CSLI客員研究員を経て、2019年から東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻教授。2017年、日本ディープラーニング協会理事長。2019年、ソフトバンクグループ社外取締役。2021年、新しい資本主義実現会議有識者構成員。2023年、AI戦略会議座長。著書に『 人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの 』(KADOKAWA)など。
[研究分野]人工知能

瀧口 長距離のコンテキストを保存できないというのは、たとえば、AIで映像をつくるときに途中で矛盾が生じてくる、みたいなことですか。

松尾 そうですね。首尾一貫性がなくなったりします。

加藤真平氏(東京大学大学院工学系研究科特任准教授。以下、加藤) 次の10年くらいは、言語系は長いコンテキストも含めて使えるようになっていくんでしょうか。

松尾 それにはブレークスルーが必要なので、そんなに簡単じゃないとは思いますが、そこは突破していくと思います。たとえば、「モデルマージ」といって、学習済みのモデルを切り張りして組み合わせていくと精度が上がるような面白い手法も出てきています。どう進んでいくのかは、ちょっと分からないですけどね。

加藤 データは引き続きあったほうがいいんですか。たとえば、今のChatGPTは基本的にインターネットの情報を学習したものですよね。

松尾 そうですね。でも、必要なデータ量はある時期にぐっと減ると思います。我々は車を運転するときに、教習所に行くじゃないですか。でも、30時間ぐらいで運転できる自動運転アルゴリズムって、今はまったくないんですよ。

 1万時間とか2万時間運転しても、まだ人間のような例外対応ができない状況で、人間の学習スピードは圧倒的に速い。もちろん、人間はその前にいろんなことを学習して「日常生活でどういうことをすると何が起こるか」という「世界モデル」をかなり学んでいるから、ということも背景にありますが。アルゴリズムは人間ほど学習効率が良くないので、その差が解消されるともっと少ないデータでも学習できるようになるはずです。

瀧口 人間並みに学習がうまくなるということですか。

松尾 そうですね。少ないサンプルで学習ができるようになります。

加藤 基本原則は、AIは人間と造りが一緒で、まず「常識」という話と、ある特定の目的を果たすための「学習」という話があります。

瀧口 常識というのが、世界モデルのことですか。

加藤 そうです。今は常識や世界モデルがまだまだ足りていないし、人間なら30時間で終わる学習も機械にやらせるとすごい時間かかる、という状況ですよね。

松尾 そうですね。人間の場合、たとえば自転車に乗れるようになると、違う自転車に乗ったときに最初の1〜2分は「運転しにくいな」と思っても、慣れますよね。それは、すでに学習したことを転移して、使う時にすぐに調整できるからです。車も、左ハンドル車に乗ったら「あれ?」ってなるけれど、しばらくすると、できちゃいますよね。そういうすでに学習したものを使う仕組みがすごく上手にできています。

瀧口 たとえば、サム・アルトマンさんは「もう少しでAGI(汎用人工知能)ができるんじゃないか」と楽観的な発言をされています。松尾先生のお話を伺うと、その辺りはもう少し先になるんでしょうか。

松尾 サム・アルトマンさんは「あと1つか2つぐらいのブレークスルーでAGIができる」と言っていますが、僕はまだ少し遠いような気がします。でも、それほど大きく間違っているとも思えないので、そういうトレンドにあるのは間違いないと思います。

瀧口 その「1つ、2つのブレークスルー」というのは、たとえば、先ほどおっしゃったモデルマージとかですか。

松尾 たぶんもっと大きく別の手法だと思いますが、いずれにしても僕は今の手法はいろいろと限界があって、そのままだとうまくいかないと思っています。ただ、試行錯誤のうちに何らかの方法で突破しちゃうかもしれないですね。

頭だけではなく体の部分をどうつくっていくか

加藤 今のAIは、人間でいうと「知能」の部分しかないので、体の部分をロボットや技術で置き換えないといけません。世の中にはセンサー(感知器)、アクチュエーター(駆動装置)、モーターなどいろいろあります。AIがそうしたデバイスで取得したデータを持っているかというと、ほぼ皆無の状態だと思います。今後10年で実世界の情報をどんどん学習していくトレンドになってくるんですかね。

松尾 最近、グーグルも「RTX」というロボットのトレーニングを進化させるプロジェクトをやっているんですが、そうすると、やはり精度が上がるんですね。センサーやアクチュエーターでデータをたくさん集めて学習させると、すごく良いモデルができる。それでロボットのコントローラーが使えるようになり、またデータが集まって、という構造ができてきます。それをどうやってつくっていくかがすごく重要です。

瀧口 人間でいうと、頭ではなく体の部分をどうつくっていくかが大事なんですね。

松尾 そうです。体のモデルですね。

瀧口 それができると、かなり面白い世界になりそうですね。

今後、AIがさらに成長するには体が必要となる(写真:Montri/stock.adobe.com)
今後、AIがさらに成長するには体が必要となる(写真:Montri/stock.adobe.com)
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(第6回に続く)

AI・脳・半導体・量子コンピューター・地球温暖化など、第一線で活躍する東大のスター教授たちが縦横無尽に語る。未来が楽しみになる教養が身につく1冊。

瀧口友里奈編著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)