グーグル、ネットフリックス、テスラ、アマゾンの成功は、先端テクノロジーによるものではない! ギークが書き換えた企業文化こそが成功の秘訣である。DX(デジタル・トランスフォーメーション)革命を先導したギークたちは企業文化の革命も起こし、工業化時代とはまったく異なる「企業形態」と「経営」を生み出した。MIT(米マサチューセッツ工科大学)の気鋭の研究者がその実態を解き明かした『ギーク思考 圧倒的な結果を出す型破りな思考法』(アンドリュー・マカフィー著/小川敏子訳/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

「セカンド・マシン・エイジ」が崩した産業構造

 2009年、ハーバード・ビジネススクールで教鞭(きょうべん)をとるようになって10年が過ぎた時、私はMITスローン経営大学院に戻った。そこでテクノロジーと情報の研究における第一人者である経済学者エリック・ブリニョルフソンと共同研究を始めた。

 とてつもない何か、産業革命と同じ規模の大きな何かがいま目の前で始まっている――そんな感覚を私たちは共有していた。2014年の共著『 ザ・セカンド・マシン・エイジ 』(村井章子訳/日経BP)では、それを次のように記した。

 「産業革命[は]……ヒトと家畜の力の限界を打破し、大量のエネルギーを思いのままに生み出すことを可能にした……。そしていま人類は、『第二機械時代(セカンド・マシン・エイジ)』を迎えている。コンピュータをはじめとするデジタル機器は、『目的に向けて環境を制御する頭脳の能力』を発揮する。かつて蒸気機関が肉体労働において実現したことを、知的労働において実現すると言えるだろう。コンピュータは人間の知的能力の限界を吹き飛ばし、人類を新たな領域に連れて行こうとしている」[24~25ページ]

 エリックと私はデジタル・トランスフォーメーションについて、さらに2冊共著した。『 機械との競争 』(村井章子訳/日経BP)と『 プラットフォームの経済学 機械は人と企業の未来をどう変える? 』(同)だ。この「マシン3部作」は適切なトピックを適切なタイミングで扱ったため、多くの読者を得た。おかげで産業、経済、社会で起きている構造的転換について世界中のリーダーと話をする機会にめぐまれ、多くの学びのチャンスを得た。

 グーグルの自動運転車に乗り、アマゾンの倉庫でロボットが走り回るのを見学し、ウーバーとエアビーアンドビーがデータとアルゴリズムを駆使して需給バランスを動的に最適化していることについて経済学者たちと話をするなど、目から鱗(うろこ)が落ちるような経験を数えきれないほど重ねてきた。

 同じ頃、多くの「工業化時代の会社」も、うれしくない驚きを味わっていた。1886年創業の米国を象徴する小売業者シアーズが経営破綻した。コダック(1881年創業)、JCペニー(1902年創業)、ラジオシャック(1921年創業)、ポラロイド(1937年創業)といった名だたる会社もつぶれた。ゼネラル・エレクトリック(GE)は1896年にダウ平均が創設された時の構成銘柄のひとつだったが、2018年には株価低迷のため外された。

 セカンド・マシン・エイジを迎えてからは、時とともに産業全体が崩れていった。米国の新聞の広告収入は2000年から2015年にかけて3分の2になり、半世紀分の成長がそっくり消滅した。

 雑誌も同様で、広告収入は2008年から2018年にかけて40%落ち込んだ。音楽の配信サービス人気は高まっているもののCDなど物理メディアがほぼ壊滅状態となったため、録音音楽による収益は1999年と2021年を比較すると46%超も減少した。

「工業化時代の会社」は苦境に陥った。GEはダウ平均創設時からの構成銘柄だったが、2018年に株価低迷のため外された(写真:piter2121/stock.adobe.com)
「工業化時代の会社」は苦境に陥った。GEはダウ平均創設時からの構成銘柄だったが、2018年に株価低迷のため外された(写真:piter2121/stock.adobe.com)
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もはや「テック企業」は的確な分類ではない

 こうしたさまざまな業界の数多くの例からわかるのは、デジタル・トランスフォーメーションの流れに乗れる企業と乗れない企業とに二分されるということだ。「ニューエコノミー」と「オールドエコノミー」、「破壊的企業(ディスラプター)」と「既存企業」、「テック業界」と「他業界」、「シリコンバレー」と「米国のその他地域および世界」といった対比もよく耳にする。いずれも前者には勢いがあるとされる。活気がある、価値が創造されている、未来への道がひらかれている、などだ。

 私はこうした区分けは筋が通っていると感じ、これまで活用してきた。だが、優れた業績を達成している一部の企業が、「間違って」分類される場合がある。たとえばアマゾンはシリコンバレーの企業ではない。iPhoneによって史上最大規模のディスラプターに変貌する前のアップルは、既存のコンピュータメーカーの1社に過ぎなかった。マイクロソフトは既存の非シリコンバレー企業で、いわゆる「ニューエコノミー」に乗り遅れたと考えられていたが、最近ではふたたび世界有数の時価総額を誇る企業になった。時がたつにつれ、「テック」は価値ある差別化要因ではなくなってきている。

 2021年にアナリストのベン・トンプソンが述べているように「すべてをテック企業と呼ぶのは、ショッピングモールを自動車会社と呼ぶようなものである。確かにショッピングモールは自動車なしには成立せず、自動車によって活性化しただろうが、あの時代にそうではなかったものがあっただろうか?」

ビジネス界にギークという新世代が出現

 デジタル・トランスフォーメーションは確かに勝者と敗者を生んだが、両者を分ける「決め手」をまだ的確に指摘できていないと感じていた。その「決め手」を見抜いたのは、私の著作権エージェントで、鋭い観察眼を持つレイフ・サガリンである。エリックと私は共著『プラットフォームの経済学』で、成功している多くのテック企業のギークなリーダーシップについて触れていた。取り上げた企業を創業したリーダーたちが典型的なコンピュータ・ギークばかりだったからだ。だがレイフはこう言った。

 「これは単にプログラマーが起業したというだけの話ではない。何か大切なこと、会社経営のまったく新しい手法のヒントがここにある」

 レイフは私の脳みそをさらに刺激しようと、関連資料をどっさり送ってきた。そのひとつが、2010年のビル・ゲイツのインタビューだ。ギークはコンピュータ・マニアに限定されるものではない、とゲイツは述べている。ギークが強く引かれる対象はコンピュータ以外にも多岐にわたり、あるトピックに魅了されると、他人からどう見られようとひたむきに追求する。

 ギークは主流派の意見を気にせず、自分の情熱を大事にする。Dictionary.comにある通り、ギークは「変わり者。とりわけ知識過剰で流行に乗らず社交下手な人」である。

 2011年のアマゾンの株主総会で、ジェフ・ベゾスは流行に乗らないというギークらしさを発揮した。どのようにイノベーションを起こすのかと問われた際、こう答えたのだ。「非常に重要なのは、長期間にわたり誤解されたままでいることを厭(いと)わないことです」。ギークは流行に乗ろうとは思わず、ただ自分の探究心の赴くままに突き進む。

 ゲイツやベゾスらの主張について、レイフと議論をしていた時のことだ。彼はふとこう尋ねた。「つまり、ビジネス界にギークという新世代が出現しているということかい?」

「非常に重要なのは、長期間にわたり誤解されたままでいることを厭わないことです」とベゾスは言った(写真:Sundry Photography/stock.adobe.com)
「非常に重要なのは、長期間にわたり誤解されたままでいることを厭わないことです」とベゾスは言った(写真:Sundry Photography/stock.adobe.com)
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ギークがアップグレードした企業文化

 ビジネス・ギークはテック業界やシリコンバレーに多くいるが、他のところにもいる。創業者というケースが多いが、必ずしもそうとは限らない。ビジネス・ギークの共通点は、業界でも、所在地でも、持ち株比率でもない。彼らの共通点は、ビジネスや企業に対してギーク――過度に型破りで独自路線――であるということだ。私はついに適切な言葉を見つけた。

 いままで捉えられてこなかったが、実際に起こっていることを正確に描き出す言葉だ。私たちはギークが始めたコンピュータによる革命には、もちろんすごく注目してきた。

 だが、私たちはギークが始めたもうひとつの革命については、誤解してきたのだ――それは、企業を舞台にいまなお進行中の革命である。

 レイフとの初期の会話では、もうひとつ重要な問いかけが彼から出た。
 「ギーク思考はすべての企業にとって正しいやり方なのか? それとも、うまくいかなかったり、悪影響が出たりすることもあるのか?」

 私は時間をかけて考えた末、次のように結論を出した。
 過去のどんな時代よりも速く行動し、よりイノベーティブであることが求められる現代企業にとって、ギーク思考は正しいやり方だ。

ギーク思考は動きの速い世界における成功法

 速く行動することが求められる大きな理由には、グローバル化や競争激化などがある。だがもっとも根本的な理由は、かつてないほど多くのデジタル技術が企業で活用されているからだろう。こうしたテクノロジーの変化とイノベーションは途方もない速さで進み、必然的にあらゆる業界で、そしてあらゆる地域でビジネスのペースは格段に速くなっている。

 ベンチャーキャピタリストのビノッド・コースラは次のように述べている。「テック業界ではデジタル技術によって多くのディスラプションがもたらされてきた。こうしたテクノロジーによるディスラプションは、約15年前から経済のあらゆる領域で見られるようになっている」

 グーグルの元CEOエリック・シュミットは、この変化がもたらした大きな影響を説明してくれた。「典型的な企業にはあらゆる面でヒエラルキーが存在し、時とともにオフィスは大きくなり、官僚制組織化が進む。実際のところ、長い間こうした企業はその強みを活かして成功を収めてきた。こうした企業の強みは、顧客が同じものを必要としている限り、想定通りに顧客対応できることだ。こうした企業文化は、情報化時代に顧客が変化を求めるようになるとうまく機能しない。5年単位に変化する企業文化では遅すぎるのだ」

 ギーク思考は動きの速い世界における成功法である。テクノロジーによる成功法ではなく、企業文化による成功法だ。ビジネス・ギークはテクノロジーを愛しているが、特定のテクノロジーが素晴らしい現代企業を築くとは考えていない。ビジネスを成功させるキラー・アプリはない。その代わりに、相変わらず会社には人間がいて、集団をつくり、目標達成のために彼らを連携させて働いてもらうという課題がある。

 この課題解決のためにビジネス・ギークが考え出したのは、型破りでパワフルな方法だ。彼らは工業化時代の標準的な企業文化をアップグレードさせた。このアップグレードについては、意外な点と予想を裏切らない点をひとつずつ挙げることができる。

 まず、予想を裏切らないのは、ビジネス・ギークが編み出した組織文化である。賢くて議論好きでデータ重視で、人とは違うやり方で問題を解決し、人から指示されるのを忌み嫌うという人々に、会社の運営方法を見直してくれと依頼すればこうなるだろうと予想できるものとなっている。

 議論を大歓迎し、官僚主義を嫌悪するのがギーク思考だ。計画立案よりもイテレーション(反復的プロセス)を好み、調整を避け、ある程度のカオスを許容する。ギーク思考を実践する人々は、主張を述べ、平等主義で、失敗を恐れず、上司に挑み、自分の誤りが露見することを恐れない。序列や資格ではなく、役立つか、腕が立つかを尊重する。要するに、ギーク企業の文化は、ギーク的だということだ。

 意外な点は、こうした文化がじつによく機能することだ。無秩序状態やギスギスした状況に陥らずに、ギーク企業は規模を拡大させ、事業継続できている。顧客と投資家に莫大な価値をもたらしつつ、理想的な職場でもありつづけている。なぜこうしたことを達成できたのか、そのあたりをこれからじっくりと見ていこう。

『ザ・セカンド・マシン・エイジ』『機械との競争』著者、最新作! グーグル、ネットフリックス、テスラ、アマゾンの成功は、先端テクノロジーによるものではない。ギークが書き換えた企業文化こそが成功の秘訣である。

アンドリュー・マカフィー著/小川敏子訳/日本経済新聞出版