アニメ市場は2023年に3.3兆円を超え、海外市場の拡大で年率7.7%の高成長を遂げています。大手コンサルティング会社A.T. カーニーの専門コンサルタント、松岡洋平氏、末次健人氏が、Netflix参入、商社、投資マネーがけん引する日本IP(知的財産)「主流化トレンド」について解説します。書籍『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2026』から抜粋・再構成。
日本IPの主流化トレンド
日本アニメの市場規模は2023年時点で3.3兆円を超えました。17年から年率平均7.7%で成長しており、その大宗は北米をはじめとする海外市場が占めていることから、急速なグローバル化が日本アニメをけん引しているといえます。
2015年ごろにNetflixをはじめとするグローバルプラットフォーマーが日本に参入したことで、アニメを海外展開する際に海外のテレビ局と個別交渉が必要だった状況から、1つのプラットフォーマーとの契約でグローバルにコンテンツが展開できるようになり、格段にグローバル化のハードルが低減しました。
また、新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要やスポーツ・映画などの他エンタメの供給減少が相まって、日本のアニメコンテンツは急速に浸透してきました。Netflixは2025年7月に「Anime for Every Fan:Fueling a New Era of Global Storytelling」と題する短いレポートで、「世界のNetflix加入者の50%以上(約1.5億世帯)がアニメを視聴」し、「2024年の再生回数は10億回を超えており」、「Global Top10(Non-English)Listに33のアニメがリストアップされた」と公表しました。
また視聴形態も変わってきており、80~90%が吹き替え版で視聴するようになり、「字幕で見る海外コンテンツ」というよりも「日常に溶け込む身近なコンテンツ」としてアニメをとらえ始めていることもうかがえます。電通の米国Z世代向けの調査でも、「18~24歳の44%が日本のアニメを視聴しており」、「米国の3大スポーツの人気を上回っていた」、と発表されました。
エンタメ株の成長性・期待度は非常に高い
これらを踏まえると、アニメは一握りの“オタクが見るもの”というパーセプションが一般的であった10年前とは様変わりし、完全にメインストリーム入りしています。ソニーグループや東宝といったアニメ株や、新機種やテーマパーク展開でIPを強化している任天堂など、エンタメ株の成長性・期待度は非常に高いものとなっています。
それらの中でもひときわ成長著しいのが、サンリオです。サンリオは2020年に創業家出身の辻朋邦社長が就任して以来、グローバル展開・デジタルマーケティングの強化、ハローキティ一本足打法からの脱却、新規事業(教育・ゲームなど)を推し進め、売上高・営業利益は過去最高を更新し続け、時価総額も2025年5月に1.8兆円(社長就任前比10倍以上)を達成しました。
特に足元のROE(自己資本利益率)は49%とエンタメ産業のなかでも群を抜いた高水準となっており、従来から保有する強力なIPをグローバル×デジタルで効果的に露出することで、ライトアセットなライセンスビジネスの資本効率の高さを見せつけています。また、こういった事業の成長に合わせてマーケットとの対話も進めており、2024年に初めて発表した統合報告書はLACP Vision Awardsを獲得するなど、機関投資家・個人投資家に向けたアピールにも成功し、高い期待値を含む時価総額を維持し続けています。
他業種からのエンタメ参入
2025年のゴールデンウィーク、業界では衝撃の映画が公開されました。その名も「たべっ子どうぶつ THE MOVIE」です。ギンビスが生産する子供に人気のロングセラー商品が“まさかの映画化”を果たしました。映画化の準備期間には、ポップアップショップや高級ブランドとのコラボカフェ、はたまた秋元康プロデュースの「たべっ子キッズ」による楽曲展開など、リーチの幅を広げてファンを作る取り組みを続けてきました。
「たべっ子どうぶつ」以外にも、エンタメ業界の好調を見て様々な業界からの参入、コラボレーションの事例が増えてきています。なかでも積極的なのは総合商社です。伊藤忠商事はアジア圏のライセンスエージェンシーを傘下に収め、スカパーと連携してアニメ制作を手掛ける(「チ。」)など自己投資も含めて積極的な活動を見せています。三菱商事、丸紅なども主にグローバル展開を目指すIPホルダーと連携してエンタメビジネスに参入を始めています。優れたコンテンツを持ちつつも、海外での販路確立が進みきらないエンタメ業界にとって、総合商社の持つ販売網は魅力的で、海外展開のイネーブラーとなる可能性もありそうです。
他にも、100円ショップのDAISOが販売する「蟲神器(むしじんぎ)」は小学生の間で大ヒットとなっています。ワンピースやポケモンなどのカードゲームは高額で戦力格差が大きいことや、学校ではトラブルの火種になることなどから、安価でそろえやすい100均カードゲームが流行し、ある意味でIPの萌芽が見られます。
自動車業界では、トヨタが20年ほど前から車をエンターテインメント空間とするコンセプトカー「pod」を発表し、足元で自動運転技術が進歩するなか、自動車×エンタメの取り組み・投資を進めています。不動産業界でも、各社が同質化する商業施設のカンフル剤などの目的でエンタメ参入の検討が広がっています。
具体的な活動・結果はこれから各所で観測できますが、いずれにしても「たべっ子どうぶつ」が“映画一本足”ではなく幅広いファンとの接点を目指したように、映画やイマーシブ施設といった単発の企画ではなく、幅広い顧客接点からファンの拡大・深化を目指す地道な動きがエンタメ・IPビジネスには求められます。2026年にかけてどのような取り組み・成果が見られるのか楽しみです。
日本のエンタメ産業へのマネー流入の活性化
こういった好況のエンタメ産業を見て、様々な種類の投資マネーの流入も進んでいます。2024年後半には、Blackstoneがデジタル漫画の古参であるインフォコムにTOB(株式公開買い付け)を実施し、日本のエンタメ領域でも最大規模のPE(プライベート・エクイティ=未公開株式)案件として話題になりました。
また、純粋なエンタメ産業ではありませんが、「しまじろう」IPを持つベネッセホールディングスもMBO(経営陣が参加する買収)に北欧のファンドEQTが関与しています。アクティビストファンドでは、ValueAct Capital(米国)の任天堂株取得や、3D Investment Partners(シンガポール)の東北新社、スクウェア・エニックス・ホールディングスの株式取得など、案件が相次いでいます。
また2024~25年にかけて立て続けに立ち上がっているのが、コンテンツファンドです。みずほ証券中心の「Talent of Talentsファンド」や、三菱UFJフィナンシャル・グループ、講談社などが出資する「Japan Creative Works1号投資事業有限責任組合」、テレビ朝日ホールディングスなどが出資する「EX Innovation Fund 1号」などがすでに映画作品やゲーム、企業などへの投資を始めています。従来の製作委員会方式では作品単位で権利およびリスク・リターンを分割していたため、権利運用のスピードが遅いことや作品の失敗がそのまま損失になるリスクがありました。
一方でコンテンツファンドの場合は、ファンドがIPをポートフォリオで捉えつつ、各IPの権利運用を集約しているため、全体最適を見ながら効率的なIP活用が進められるメリットがあります。
もちろんコンテンツファンドにもリスクはあり、多様でIPに関与しないプレイヤー(LP)から資金を集められる代わりに、損失時にはLPに対して損失負担をする必要があります。かつては、アニメや映画の作品ひとつひとつにおける“バクチ”度合が高く(≒リクープ[回収]できない率が高く)安定的な収益を確保しづらい状況であったため、こういったコンテンツファンドは成立しませんでした。しかし、足元のプラットフォーマーの参戦やグローバル展開によりマネタイズが安定したことから新たな資金調達のルートができ、様々なプレイヤーがコンテンツに対して投資をしやすい環境が作られました。
海外からの投資で特筆すべきは、中東マネーの流入です。中東、特にサウジアラビアとUAE(アラブ首長国連邦)では、脱石油を重点政策として観光・不動産・エンタメを非資源成長エンジンとして投資を強化しています。サウジアラビアは「サウジビジョン2030」を掲げ、NEOM/The Line、Red Sea、Qiddiyaなど10件以上の観光・都市開発プロジェクトを抱え、多額の投資を見込んでいます。
Qiddiyaは遊びに特化した大型都市レジャープロジェクトで、2024年に「ドラゴンボール」のテーマパークが建設されることが発表されています。隣国UAEのアブダビにディズニーランドが設立されることが発表されたこともあり、中東で観光競争が加速し、その一環としてIPを活用したエンタメ施設への投資が予想されることから、日本のIPへのさらなるマネー流入も想定されます。
【筆者紹介】

A.T. カーニー スペシャリストプリンシパル、メディアプラクティス・デジタルプラクティス

A.T. カーニー プリンシパル、メディアプラクティス
A.T. カーニー編/日本経済新聞出版/2420円(税込み)



