鉄道会社は、資本市場からは資本効率の改善や非中核資産の見直しが求められており、鉄道を中心としたビジネスモデルの持続可能性が揺らいでいます。大手コンサルティング会社A.T. カーニーの専門コンサルタント、向山勇一氏、上田泰丈氏、山田航太郎氏が鉄道産業の不可逆的な環境変化について解説します。書籍『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2026』から抜粋・再構成。
「鉄道中心のビジネスモデル」が揺らいでいる
鉄道業界では現在、従来の鉄道中心のビジネスモデルに転換点が訪れています。都市部では、テレワークの定着により通勤需要が構造的に減少しました。2023年度の鉄道利用者数は、2019年度に比べ約10%減の水準にとどまっており、今後も完全な回復は見込みづらい状況です。
地方路線では、人口減少や地域経済の縮小により、鉄道事業の収益性が長期的に低下しています。2023年度には全国の地域鉄道95社中80社が鉄道事業で経常赤字を計上しており、国や自治体の支援があっても抜本的な改善には至っていません。輸送密度が2000人/日未満の「危機的なローカル線区」では、国が関与する再構築協議会の設置が検討されていますが、地域住民の感情的な抵抗や自治体の財政制約もあり、上下分離などの実現には時間を要しています。
加えて、沿線ビジネスを取り巻く環境にも変化が生じています。鉄道会社はこれまで、沿線でスーパーや小売りなどの流通・サービス事業を展開することで、沿線住民の生活インフラとしての役割を果たしてきました。しかし近年では、EC(電子商取引)の普及による消費者の購買行動の多様化やライフスタイルの変化により、従来の店舗業態だけでは対応しきれない場面も増えています。
パンデミック以降の通勤需要の減退、地方路線の収益悪化の進行、そして沿線での流通・サービス事業の事業環境変化は、いずれも一時的な現象ではなく、社会構造や消費行動の変容といった不可逆的なトレンドに根ざしています。これらの変化を受けて、鉄道会社は長年にわたり築いてきた「鉄道を中心とした事業基盤」の持続可能性を問われています。
固定費比率が極めて高い鉄道会社にとって、収益構造の変化は損益に直結しやすく、安定した収益が前提となっていた過去と異なり、需要が不安定化し、沿線ビジネスの競争環境も厳しさを増しており、従来のビジネスモデルの前提が崩れつつあると言えます。
アクティビストが突き付けたこと
また、事業環境の変化に加え、資本効率の改善や非中核資産の見直しを求めるアクティビスト投資家の声も強まっており、実際に経営の根幹にまで踏み込む提案がなされる事例も出てきています。
京成電鉄は、英国系ファンドのパリサー・キャピタルから、長年保有してきたオリエンタルランド(OLC)株の一部売却を通じた資本効率の改善を求められました。パリサーは、京成が保有するOLC株の比率を引き下げることを提案し、資本配分の見直しと中長期的な企業価値向上を訴えました。実際、OLC株は京成電鉄の資産の中でも極めて高い含み益を持つ一方で、配当や売却益といった形での資本回収がなされておらず、「眠れる資産」と見なされていたのです。
京成電鉄側はこの提案に反対し、株主総会でも否決されましたが、議決権行使助言会社2社が賛成を推奨し、賛成票は30%弱に達したとされており、資本市場からのメッセージは決して小さくなかったと言えるでしょう。
また、西武ホールディングスは、2024年に「東京ガーデンテラス紀尾井町」を約4000億円で売却しましたが、背景にはアクティビストの3D Investment Partnersからの提言があったと見られます。この不動産は、グループの象徴的な資産であると同時に、莫大な固定資本を要する非流動的資産でもありました。
こうした「眠れる資本」の売却による流動化と、株主還元や成長投資への再配分の圧力があったと見られ、西武HDは、売却益の一部を自己株式取得や配当に充てるとともに、ホテル・レジャー事業の再編にも着手しました。その結果、資本市場からは、資本効率の改善に向けた前向きな対応として一定の評価を受けました。
これらの事例が示しているのは、鉄道会社が保有する非中核事業や資産が、もはや「沿線価値の向上」や「生活インフラの提供」といった従来の論理だけでは正当化できない時代に入っているということです。
資本市場からの厳しい評価と、地域社会への公益的な役割という二重の要請に直面している中で、企業価値の持続的な向上を目指すには、資本効率の視点で事業ポートフォリオを再構築し、より資本効率の高い領域へ経営資源を再配分する必要があります。ノンコア事業や不採算事業の見直しを進めるとともに、中長期的な視点で事業領域の再設計を行い、経営資源の最適化を図ることが、今後の鉄道会社にとって不可欠な課題となっています。
【筆者紹介】

A.T. カーニー シニアパートナー、都市開発・不動産プラクティス、メディアプラクティス

A.T. カーニー マネージャー、都市開発・不動産プラクティス

A.T. カーニー アソシエイト
A.T. カーニー編/日本経済新聞出版/2420円(税込み)

