数多くのデザイン思考に関する本が出版される中で、楠木建・一橋ビジネススクール特任教授が「教科書には、読めば分かるけれども、いざ実行しようと思うとできない方法論が多い。ただ、この本は、手法を伝授するにとどまらず、やりたくなるレベルに到達できる」と太鼓判を押す名著が『 デザインシンキング・プレイブック 』(マイケル・リューリックほか著)。『経営読書記録 裏』(楠木建著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

『デザインシンキング・プレイブック デジタル化時代のビジネス課題を今すぐ解決する』(マイケル・リューリック、パトリック・リンク、ラリー・ライファー著/今津美樹訳/翔泳社)
『デザインシンキング・プレイブック デジタル化時代のビジネス課題を今すぐ解決する』(マイケル・リューリック、パトリック・リンク、ラリー・ライファー著/今津美樹訳/翔泳社)

デザイン思考もスキルにすぎない

 デザイン思考は大流行ですが、僕の基本スタンスはこのようなものです。デザイン思考が発想や問題解決の方法として優れているのは間違いありませんが、あくまでも定型的なスキル。デザイン思考をマスターしても、いきなり画期的なビジネスモデルが出てくるわけではありませんし、あらゆる問題がたちどころに解決するわけでもありません。

 統計分析の教科書はさまざまな分析手法や統計分析ソフトウェアの使い方を教えてくれます。しかし、だからといって、価値がある発見や事実の獲得を約束するものではありません。それは分析をする主体にかかっています。どのようなデータをどのような方法で収集し、そもそもどういう目的でどういう構成概念をつくってどうやってそれを操作して変数をつくり、どの変数間の関係を見ようとするのか。分析する当事者がこういうことをいちいち考え、判断しなければ、どんなに手法を知っていても、分析はできません。

 デザイン思考もそれと同じなのですが、当節花盛りのデザイン思考を伝授する本の中には、「これでたちどころに素晴らしいアイデアが出てくるよ!」という意図的誤解(?)を与える本が少なくありません。その点、本書はあくまでも方法論に限定して論じているのがイイ。

「できる」だけでなく「やりたくなる」

 良い意味での「ノウハウ本」で、余計なことを言わず「どうやってやるか」に徹しています。応用先としては「デジタル化時代のビジネスの機会発見」を主眼に置いていますが、思考のプロセスではわりとデジタルに懐疑的で、発想のアナログな側面を重視している。これも本書の美点です。

 デザイン思考に限らず、一般に方法論の教科書について僕は次のような評価基準を持っています。

三流:そもそも「分からない」
二流:「分かる」
一流:「分かる」だけでなく自分で実際に「できる」
超一流:「できる」だけでなく「やりたくなる」

 三流は論外ですが、二流と一流の隔たりも大きい。「分かる」けれども、いざ実行しようと思うと「できない」方法論は多いものです。一流の教科書は少ないのですが、超一流となるとますます希少です。この本は「できる」手法を伝授するにとどまらず、「やりたくなる」レベルに到達している。実行を促す、タイトル通りの「プレイブック」。デザイン思考は類書が多い中で、私見ではいまのところこれがベストです。

「知的体幹を鍛える本の読み方」を追体験

「紹介されている本を読むよりも面白い」と評される、楠木建氏の書評を網羅した珠玉の書籍解説集。経営書から教養書まで、縦横無尽に語り尽くす。「今すぐに読みたくなる本」と出合える1冊。

楠木建著/日本経済新聞出版/2090円(税込み)