様々な製品やサービスを利用できる「場」をインターネット上で構築し、絶大な影響力を持つプラットフォーム企業。「経済学の書棚」第29回前編は、プラットフォーム企業を現代の独占資本と位置づけ批判的なトーンで議論を展開する『プラットフォーム資本主義を解読する』と、プラットフォーム企業を主軸にデジタルエコノミーの歴史と現状を整理する『プラットフォーム資本主義』、巨大プラットフォーム企業が握った「権力」を警戒する『デジタルの皇帝たち』を紹介する。

「プラットフォーム企業」の影響力が一段と強まっている。「経済学の書棚」第29回前編では、多くの人にとって欠かせない存在となったプラットフォーム企業は経済や社会に何をもたらし、どんな功罪があるのかを検証する本を紹介する
「プラットフォーム企業」の影響力が一段と強まっている。「経済学の書棚」第29回前編では、多くの人にとって欠かせない存在となったプラットフォーム企業は経済や社会に何をもたらし、どんな功罪があるのかを検証する本を紹介する
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自由で平等なコミュニケーションへの期待

 企業や個人が自らの製品やサービスを提供したり、他の企業や個人が提供する製品やサービスを利用したりできる「場」をインターネット上で構築する「プラットフォーム企業」の影響力が一段と強まっている。多くの人にとって欠かせない存在となったプラットフォーム企業は経済や社会に何をもたらし、どんな功罪があるのだろうか。

 水嶋一憲、ケイン樹里安、妹尾麻美、山本泰三編著『 プラットフォーム資本主義を解読する スマートフォンからみえてくる現代社会 』(ナカニシヤ出版/2023年6月刊)はメディア論を専門とする研究者ら12人による共著。

『プラットフォーム資本主義を解読する スマートフォンからみえてくる現代社会』(水嶋一憲、ケイン樹里安、妹尾麻美、山本泰三編著)。メディア論を専門とする研究者ら12人による共著。画像クリックでAmazonページへ
『プラットフォーム資本主義を解読する スマートフォンからみえてくる現代社会』(水嶋一憲、ケイン樹里安、妹尾麻美、山本泰三編著)。メディア論を専門とする研究者ら12人による共著。画像クリックでAmazonページへ

 プラットフォーム企業が提供するメディア環境は現代の私たちの生活にとって避けられないインフラのように見える。他方、そのプラットフォームは企業によるビジネスの一部として運営・提供されていることが多いという事実から出発する。

 かつては、インターネットは自由で平等なコミュニケーションを実現すると期待されたが、世界のモバイルアプリのダウンロード数の大半をアップルとグーグルが独占している。参加者が多ければ多いほどネットワークの価値が高まる「ネットワーク効果」が加速しているのだ。現代の資本主義において見いだされ、支配的となったビジネスモデル、独占の形態を「プラットフォーム資本」と命名している。

 労働者やアクター(投稿者)、スマートシティ、環境といったテーマ別に現状を分析し、問題点を指摘する。巨大化するプラットフォーム企業を現代の独占資本だと位置づけ、全体に批判的なトーンで議論を展開している。

 例えば、「プラットフォームの労働者たち」と題する章では、単発で仕事を請け負うギグ・ワーカー(プラットフォーム労働者)たちの労働環境とその過酷さを明らかにしている。

 同書によると、ギグ・ワーカーは(1)プラットフォームを介して仕事を受託し、オンラインを介してサービスや商品を提供する「クラウドワーカー」、(2)飲食品配達員やタクシー運転手など、特定の地理的な空間に所在し、プラットフォームを介して得た仕事を顧客と接触して提供する「オンデマンドワーカー」に大別できる。

 そのうえで、プラットフォーム労働には肯定的な影響と、否定的な影響の両面があると論じている。

 従来はフルタイムで働きにくかったり、就業機会が限られたりしていたグループが労働市場に参加しやすくなった。労働者自身が自分の仕事、仕事量、労働時間を選択できる。企業にとっても柔軟性が高まり、不況期でも利益を確保しやすくなる。

雇用と収入が不安定なギグ・ワーカー

 反面、労働者の立場から見ると、雇用と収入が不安定になる。多くのプラットフォーム労働者は社会保障制度や労働法制上の権利から排除されている。スカンジナビア諸国が導入している、労働市場の安定性と柔軟性を同時に高いレベルで維持する「フレキシキュリティ政策」に言及し、先進国の現状では柔軟性は十分すぎるほど高いので、安定性を高める方向での制度改革が必要だと訴えている。

 「プラットフォームを所有し、それを制御・管理しながらデータとレント(手数料・使用料・賃貸料など)を採取する、少数の新たな支配階級と多数のユーザーとの間の非対称的な関係性や圧倒的な不平等・格差の拡大」に歯止めをかけることはできるのか。

 同書では、ユーザー(組合員)の民主的ガバナンスに基づく「プラットフォーム協同組合」や、配車・出前・宅配サービスの運転者たちによるストライキ、開かれた共有財産としてデータを管理運用しつつ、市民の民主的な参加を深めるためにデータ・インフラを活用する「ミュニシパリズム」(地域自治主義)の取り組みなどに期待を寄せている。

 カナダ出身の思想家、ニック・スルネック著『 プラットフォーム資本主義 』(大橋完太郎、居村匠訳/人文書院/2022年11月刊)は、プラットフォーム企業を「資本主義的な生産様式の枠内における経済的なアクター」と見なし、独占化が進んできた歴史を描写する。

『プラットフォーム資本主義』(ニック・スルネック著/大橋完太郎、居村匠訳)。プラットフォーム企業を「資本主義的な生産様式の枠内における経済的なアクター」と見なし、独占化が進んできた歴史を描写する。画像クリックでAmazonページへ
『プラットフォーム資本主義』(ニック・スルネック著/大橋完太郎、居村匠訳)。プラットフォーム企業を「資本主義的な生産様式の枠内における経済的なアクター」と見なし、独占化が進んできた歴史を描写する。画像クリックでAmazonページへ

 訳者の大橋氏によれば、同書は「資本主義およびデジタルテクノロジーの経済史」。経済学者でもあるスルネック氏が、「オーナーシップや利益」「経済的な文脈や資本主義体制からの要請」といった観点から、デジタルエコノミーの歴史と現状を整理している。

 本稿で先に取り上げた『プラットフォーム資本主義を解読する』でも、同書に関する論考に1章を割いており、「プラットフォームが重大な役割を担う21世紀の新たな資本主義の動態と傾向について分析するために必須の基本文献の一つ」と推奨している。

 スルネック氏は、プラットフォームとは2つ以上のグループの相互作用を可能にするデジタル・インフラストラクチャーであり、データを独占し、抽出し、分析し、利用する効率的な方法となったとの見方を示す。

資本主義の3つの転換点

 これに続き同氏は、近年の資本主義の歴史には3つの契機があると論じる。1970年代の景気後退に対する反応、1990年代の好況と不況、2008年の金融危機に対する反応である。

 製造業の収益力は長らく先進国経済のベースラインだったが、工業製品の価格に下方圧力を与える過剰設備と過剰生産によって収益力の危機を招いた。1970年代、安定した雇用と非効率的で強大な工業企業は、柔軟な労働力とスリムな経営モデルに転換した。

 1990年代、インフラストラクチャーへの大規模投資につながる新たなインターネット産業のバブルを金融が推し進め、テクノロジー革命を準備した。米国は工業基盤に見切りをつけ、テレコミュニケーション分野が金融資本の格好の出資先となった。

 新たな成長モデルが21世紀初頭の住宅バブルにつながり、2008年の経済危機への対応を駆動した。各国政府は金融緩和政策を採り、企業貯蓄の増加、タックスヘイブン(租税回避地)の拡大と結びつき、資金の過剰供給を蔓延(まんえん)させたという。

 労働者は経済危機の結果、深く苦しみ、労働条件の面できわめて搾取されやすくなったと警鐘を鳴らしている。

 プラットフォーム資本主義はどこに向かうのか。同氏は今後の見通しを披露している。プラットフォームはネットワーク効果によってかなりの規模にまで発展し、市場からの要求に従って似たような形式に収束する。ライバル社と競合するために利用者の囲い込みに走る。

外部委託モデルの行き詰まりを予想

 しかし、ウーバーのような、できる限りすべてのコストを外部委託しようとする「リーン・プラットフォーム」では従業員の反発がすでに起こっている。剰余資金の大きな熱狂に依存してきたリーン・プラットフォームは、破産するか製造業のプラットフォームに移行する。一方、広告費に依存するプラットフォームは、より直接的な支払いを扱う事業へと移行せざるを得なくなると予測している。

 この予測通りになるのか、あるいは予測に反してプラットフォーム企業の隆盛が続くのかは現時点では不明だが、将来を見通すためのポイントがどこにあるかを示している。

 経済社会学者のヴィリ・レードンヴィルタ著『 デジタルの皇帝たち プラットフォームが国家を超えるとき 』(濱浦奈緒子訳/みすず書房/2024年8月刊)は、巨大プラットフォーム企業が握った「権力」を警戒する書だ。

『デジタルの皇帝たち プラットフォームが国家を超えるとき』(ヴィリ・レードンヴィルタ著)。巨大プラットフォーム企業が握った「権力」を警戒する書。画像クリックでAmazonページへ
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国家を超える権力を握ったテック企業

 今、実権を握っているのは国家ではなくデジタルプラットフォーム企業(テック企業)である。企業のリーダーたちは聖人ではなく、自らの地位を利用してルールを曲げ、自身や取り巻きらが有利となるように臣民たちを食い物にしたと糾弾する。インターネットは、個人やコミュニティに力を与える「平等な競技場」ではなく、歴史上でもっとも強力な門番をいくつか生み出した。

 自由なネット取引では、利用者が騙(だま)されないようにする方法を見つける必要がある。その解決策は、インフラとして機能しつつ、中央計画経済のような効率性も追求する、中央で管理されながら相互に補完しあう公式制度の束だった。

 同書では、デジタルの皇帝たちに対抗する手段を列挙している。競争法や反トラスト法による規制はその一つだが、プラットフォームを商業目的に使うユーザーの多くは、プラットフォームの罠(わな)にはまっており、必ずしも有効ではない。

 プラットフォーム企業を公益事業に携わる独占業者として統制する方法や国有化という選択肢もあるものの、領土を根拠として法的な管轄権が発生する国家が、超国家的な制度インフラとなっているプラットフォーム企業を国有化できるのかという問題が生じる。

 ユーザーが自らの手で問題に対処しようとする動きが広がり、ユーザー兼所有者の利益のために民主的に統治される「プラットフォーム協同組合」がすでに数十も立ち上がっている。こうした協同組合は少数の人々の生活を良くするかもしれないが、一般大衆にとっては主流のプラットフォームが当面の主力のインフラであり続けると推測している。

デジタル貴族階級に対抗する「新しい市民」

 著者が最も期待をかけるのは、最上位の貴族階級と最下層の消費者や労働者の間に位置する「プラットフォーム経済の新しい市民」の存在だ。成功したアプリ開発者、オンライン販売業者、フリーランスの専門家、ストリーマー、インフルエンサーなど、デジタル時代にさまざまな販売や創作活動をする人々を指す。

 こうした市民は、プラットフォームの貴族階級が持つ権力に対抗できるだけの資源を持つようになり、実際に対抗し始めている人もいる。政策立案者はプラットフォームの異なる社会階層が自らの利益のために組織化するのを手助けし、プラットフォームの貴族から自分たちの利益を集合的に守ることを奨励し、そうした行動によって生じる報復から保護するべきだと唱えている。

写真/スタジオキャスパー