プラットフォーム企業は経済や社会に何をもたらしているのか。「経済学の書棚」第29回後編は、企業経営の観点から「テクノロジーを使って何がしたいのか?」を問う『プラットフォームの経済学』、「市場」の変容を「プラットフォームの経済学」の視点から読み解き、21世紀の市場や競争のあり方を考察する『21世紀の市場と競争』を取り上げる。

「経済学の書棚」第29回後編では、プラットフォーム企業が経済や社会に与えるプラスの影響に目を向け、一般の人々との共存の道を探る書を紹介する
「経済学の書棚」第29回後編では、プラットフォーム企業が経済や社会に与えるプラスの影響に目を向け、一般の人々との共存の道を探る書を紹介する
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ビジネスを変える3つのトレンド

 前編で紹介した3冊は、いずれもプラットフォーム企業は強大な権力を握るようになったとの認識を前面に出し、それに対抗する手段を提示している。プラットフォーム企業は基本的には批判の対象だ。後編では、プラットフォーム企業が経済や社会に与えるプラスの影響に目を向け、一般の人々との共存の道を探る書を紹介する。

 アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン著『 プラットフォームの経済学 機械は人と企業の未来をどう変える? 』(村井章子訳/日経BP/2018年3月刊)は企業経営の観点からプラットフォームを巡る近年の動きを取り上げ、新しい技術の活かし方を提言している。

『プラットフォームの経済学 機械は人と企業の未来をどう変える?』(アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン著)。企業経営の観点からプラットフォームを巡る近年の動きを取り上げ、新しい技術の活かし方を提言。画像クリックでAmazonページへ
『プラットフォームの経済学 機械は人と企業の未来をどう変える?』(アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン著)。企業経営の観点からプラットフォームを巡る近年の動きを取り上げ、新しい技術の活かし方を提言。画像クリックでAmazonページへ

 同書では、ビジネスの世界を大きく変える3つのトレンドに注目している。第1のトレンドはアルファ碁に代表される「マシン」、すなわちコンピューターの能力が急速に成長・拡大している現象だ。

 第2はプラットフォームを提供する企業であり、有形資産はほとんど持たないものの、旧来の企業にとっておそるべき競争力を持ち合わせている。

 第3は不特定多数の人々すなわち「クラウド」の力だ。膨大な数の人々の知恵や情熱が世界中に分散し、いまやオンラインでアクセスし、グループを形成し、活かすことが可能になった。

 3つのトレンドには対になる相手がいる。マシンの対は人間の知性、プラットフォームの対は物理的な世界のモノやサービス、クラウドの対は国や企業などが長年にわたり培ってきた知恵、専門知識、しくみ、能力だ。同書ではクラウドの対となる存在を基幹、経済の屋台骨という意味でコアと呼ぶ。

 対になる対象はもう時代遅れだとか、もうすぐお払い箱になるなどと言うつもりはなく、企業は人間とマシン、モノやサービスとプラットフォーム、コアとクラウドのバランスを見直す必要があると主張する。

 著者らの見立てによると、テクノロジーが急速に進化する「セカンド・マシン・エイジ」の第1期が始まったのは1990年代半ば。第2期は2010年代から始まり、人間とマシン、モノやサービスとプラットフォーム、コアとクラウドのペアのどれもが軋(きし)み始めた。

 同書では、マシン、プラットフォーム、クラウドの順に、ビジネスの世界で起きている出来事を詳述する。

 プラットフォームも新技術の一つであり、企業経営者や起業家にとっては自社の成長に役立てる手段だとみているのだ。プラットフォーム戦争に勝利した企業を成功事例として紹介し、成功するプラットフォームの特徴を抽出している。

 (1)早い時期に地位を確立する、(2)スマートフォンとアプリのような補完関係(一方の価格が下がれば他方の需要が増える)を活かす、(3)プラットフォームをオープン化し、幅広く多様な供給を募る。それによって消費者余剰が拡大する、(4)参加者に一貫性のある心地よい体験を提供するために、供給サイドに対して一定の基準を示し、審査を行う、の4点だ。

 各章の最後に「あなたの会社では?」と題する質問コーナーを設け、質問への回答を通じて自社が新しいテクノロジーを取り入れる方法を考察するよう促している。

 プラットフォームを扱う章では、「あなたの業界にすでに成功しているプラットフォームが存在する場合、模倣するのではなく差別化を図るにはどうしたらいいと考えますか? すでに複数のプラットフォームが存在する場合、後発のプラットフォームに勝ち目はありますか?」といった質問項目が並んでいる。

 同書は企業経営の枠組みの中での議論にとどめているが、著者らはもっと広い視野を要する質問を受けることがあるという。マシン、プラットフォーム、クラウドの変容は社会にとってどんな意味を持つのか、マシンのせいで多くの人が失業するのではないか、いずれはプラットフォームが経済的な決定の大半を左右するようになり、人間の自由な選択の余地がだんだん狭まっていくのではないか、といった内容だ。

テクノロジーを賢く活用せよ

 こうした質問は「テクノロジーは私たちに何をしようとしているのか?」というシンプルな問いの変形にすぎない。道具は人間に何をするかを決めることはできない。決めるのは人間であると説き、こうした問いを退ける。

 テクノロジーがもたらすたくさんの選択肢を賢く選びとる企業が成功し、個人のレベルでも、社会のレベルでもかつてないほど高度なテクノロジーを日々活用できるようになっている。「私たちはテクノロジーを使って何がしたいのか?」と問うべきではないかと畳みかける。「私たちは未来について楽観的である。次の20年、30年の世界はこれまでよりよくなるはずだし、そうできると信じている」との見解を表明し、「個人の、企業の、社会の未来を決めるのは人間である。本書がその助けになることを願っている」と同書を締めくくっている。

 経済学者の安達貴教著『 21世紀の市場と競争 デジタル経済・プラットフォーム・不完全競争 』(勁草書房/2024年6月刊)は、過去30年ほどで進行した、デジタル技術を基盤とした「市場」の変容を「プラットフォームの経済学」の視点から読み解き、21世紀の市場や競争のあり方について考察する試みだ。

『21世紀の市場と競争 デジタル経済・プラットフォーム・不完全競争』(安達貴教著)。デジタル技術を基盤とした「市場」の変容を「プラットフォームの経済学」の視点から読み解き、21世紀の市場や競争のあり方について考察する試み。画像クリックでAmazonページへ
『21世紀の市場と競争 デジタル経済・プラットフォーム・不完全競争』(安達貴教著)。デジタル技術を基盤とした「市場」の変容を「プラットフォームの経済学」の視点から読み解き、21世紀の市場や競争のあり方について考察する試み。画像クリックでAmazonページへ

 プラットフォームの経済学では、買い手にとってはプラットフォームを利用する売り手の数や種類が多ければ多いほど、望ましい取引の機会は広がり、プラットフォームの利用から得られる満足はより大きくなると考える。取引そのものからの価値とは別の「正の外部性」が生じるとみるのである。

 同様に、売り手の方も、プラットフォームを利用する買い手の数や種類が多ければ多いほど、プラットフォームに加盟することから享受する正の外部性は大きくなる。

 プラットフォームの運営主体の多くは民間の営利企業であり、寡占化が進行してきた。「グループ間の外部性」の概念を当てはめれば、少数のプラットフォーム企業により多くの出店者や消費者が集まることによって価値が高まることが予想されるという。

不完全競争の経済学を標準に

 安達氏が分析の基礎としているのは「不完全競争の経済学」だ。伝統的な経済学では、「完全競争市場」を標準とし、不完全競争を完全競争からの逸脱としての「市場の失敗」の一要因と見なす。同氏は、むしろ完全競争の方こそが「不完全競争の一特殊形態」であり、不完全競争をベンチマークとするようなミクロ経済学の方法論を確立するよう求めている。

 完全競争市場では価格は需要と供給が一致する水準に決まる。一方、需要の価格弾力性が低い(価格を上げても需要の落ち込みがそれほどでもない)場合、価格が高めに保たれる傾向がある。こうして決まる「有効競争価格」は不完全競争を念頭に置くと有効である。企業サイドの不当な作為による価格ではないという意味で「自然水準のマークアップ(費用に対する上乗せ分)」と呼べる。

 安達氏はこうした研究の経験をベースにプラットフォームの経済学の研究に参入した。同書では、プラットフォーム企業と出店者の「力関係」を、ゲーム理論の一種である交渉理論を活用して分析した研究や、複数のプラットフォーム企業が並立しているとき、その中の一つだけを利用するのではなく、複数を同時に利用できる「マルチ・ホーミング」に関する考察など独自の研究成果を紹介している。

経済主体の便益構造を明らかに

 経済分析の役割はどこにあるのか。同氏は以下のように解説する。

 経済学者は、プラットフォーム企業、出店者、消費者のインセンティブ(誘因)を描写する行動モデルに基づき、その構造をデータから推し量ろうとする。その結果として、需要の価格弾力性などの有意味な概念が、どのような数値になっているのかを具体的に議論できるようになる。意思決定主体の便益構造を具体的に表現できるなら、それらに影響を与えると考えられる制度変更を仮想的に分析すれば、意思決定主体の反応を予測できる。

 そうすれば適切な競争政策のあり方を検討することも可能になる。最近、プラットフォームが引き起こす反競争的な弊害に適切に対応すべきだとの問題意識が醸成されているが、規制自体がもたらしうる弊害にも注意深くならなければならない。学術研究者と政策立案者とのコラボレーション、法学と経済学の間の学び合いが重要だと強調している。

 プラットフォーム企業は、世界中の多くの人々にとって欠かせない存在となった。プラットフォーム企業のさらなる隆盛は歓迎すべきことなのか。国家、社会、企業、個人はプラットフォーム企業とどのように付き合うべきなのか。プラットフォーム資本主義との向き合い方が問われている。

写真/スタジオキャスパー

「企業はもはや過去の遺物?」「専門家はなぜ役に立たないのか?」『機械との競争』と『ザ・セカンド・マシン・エイジ』の著者で、「テクノロジー失業」到来を訴えて反響を呼んだマサチューセッツ工科大学のコンビが、新たにテクノロジーによる「企業消滅」に挑んだ意欲作。

アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン著/村井章子訳/日経BP/2860円(税込み)