日本にとって2026年はどんな年になるのだろうか。「経済学の書棚」第37回は、日本経済の歩み、特徴や「課題先進国」と呼ばれる日本の構造問題を体系的に整理し、議論や予測のベースとなる本を紹介する。前編では、版を重ねて「定番」となっている日本経済の入門書として『日本経済読本[第23版]』『新 入門・日本経済』『最新 日本経済入門[第7版]』の3冊を取り上げる。

「経済学の書棚」第37回は日本経済の歩み、特徴や「課題先進国」と呼ばれる日本の構造問題を体系的に整理し、議論や予測のベースとなる本を紹介する。前編では、初版以来、版を重ねて「定番」となった日本経済の入門書を取り上げる
「経済学の書棚」第37回は日本経済の歩み、特徴や「課題先進国」と呼ばれる日本の構造問題を体系的に整理し、議論や予測のベースとなる本を紹介する。前編では、初版以来、版を重ねて「定番」となった日本経済の入門書を取り上げる
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長期停滞をもたらす複合要因

 日本にとって2026年はどんな年になるのだろうか。初版以来、版を重ねて「定番」となった日本経済の入門書は、議論や予測のベースとなるだろう。

 大守隆、増島稔編『 日本経済読本[第23版] 』(東洋経済新報社/2025年1月刊)の初版は1950年。大学で日本経済論を学ぶ学生、資金運用や事業開拓のために経済動向とその背景に興味を持つ人々らを読者として想定している。第23版は、内閣府出身の研究者ら10人超が分担して執筆した。

『日本経済読本[第23版]』(大守隆、増島稔編)。初版は1950年。大学で日本経済論を学ぶ学生、資金運用や事業開拓のために経済動向とその背景に興味を持つ人々らを読者として想定している。画像クリックでAmazonページへ
『日本経済読本[第23版]』(大守隆、増島稔編)。初版は1950年。大学で日本経済論を学ぶ学生、資金運用や事業開拓のために経済動向とその背景に興味を持つ人々らを読者として想定している。画像クリックでAmazonページへ

 「はしがき」によると、経済を理解するには、歴史、制度、事実、理論の各面を組み合わせて理解することがとても重要だ。インターネットの発達で、個別の事項についての断片的な知識は容易に入手できるようになったが、背景を含めた解説や分野をまたがった論考はあまり多くない。そこで、こうした点を重視して編集した。経済学の知識はあったほうが望ましいが、前提とはしていない。

 第1章「追い抜かれ続けた三〇年」(著者は大守隆氏)は全体の総論の位置づけだ。空前の繁栄を謳歌しているように見えた1980年代から説き起こし、バブル崩壊後の経済の低迷、国際的な地位の低下を、データを使って立証する。

 日本経済の長期停滞の顕著な特徴はデフレであり、デフレの要因には需要面、供給面、金融面があり、それぞれの側面からの対策が必要だと指摘する。デフレ対策の詳細は「日本の経済政策」(第3章)、「増加した政府債務と財政健全化への展望」(第4章)、「異次元緩和の効果とその行方」(第5章)で解説している。

 日本経済の長期停滞の要因としては、先進国へのキャッチアップの終了、人口減少と少子高齢化、中国など途上国の追い上げ、経済政策の問題、国際化の遅れ、デジタル化の遅れ、過度な集団志向を挙げる。

 一方、日本経済には強みも残っているという。先進的な素材などの技術力、洗練された文化、長い平均寿命(元気な高齢者、低い医療費)である。

 日本は先進国に伍して前に進む努力を続け、経済の力を強める中で格差や貧困、増大する高齢者のための福祉などの問題に対処していく必要があると訴えている。

 第2章「日本経済の歩み」では江戸、明治時代から戦前・戦後の日本経済を振り返る。第3章以下の各章では、経済政策、地方経済、労働市場、格差問題、社会保障、デジタル経済など分野別に課題を掘り下げていく。

 最終章の第15章「日本経済の再生に向けて」(著者は増島稔氏)では、失われた30年の間、企業の設備投資と生産性が低迷した要因を分析する。

 これに続き、世界経済の分断、デジタル化の進展、気候変動問題への関心の高まりといった日本経済を取り巻く環境の変化に触れ、「持続可能な成長」を実現するための対応策を示す。

日本の強みを生かせば再生は可能

 対応策は、労働力の確保、労働力と資金移動の円滑化、人への投資の促進、幅広い投資の促進、経済社会の持続可能性の確保の5項目からなり、それぞれ具体案を提示する。

 そのうえで増島氏は、労働市場や金融市場をはじめとする構造改革に取り組み、環境変化に柔軟に対応して、技術力、洗練された文化、元気な高齢者といった日本経済が潜在的に有する力を発揮することができれば、日本経済再生への途が拓けるであろうと結んでいる。

 浅子和美、飯塚信夫、篠原総一編『 新 入門・日本経済 』(有斐閣/2024年11月刊)は、1997年に初版を刊行し、2020年に第6版として改訂した『入門・日本経済』を大幅に改訂した「新書」(実質は6度目の改訂版)である。大学の研究者を中心に15人が編集や執筆を担当した。

『新 入門・日本経済』(浅子和美、飯塚信夫、篠原総一編。 1997年に初版を刊行し、2020年に第6版として改訂した『入門・日本経済』を大幅に改訂した「新書」。画像クリックでAmazonページへ
『新 入門・日本経済』(浅子和美、飯塚信夫、篠原総一編。 1997年に初版を刊行し、2020年に第6版として改訂した『入門・日本経済』を大幅に改訂した「新書」。画像クリックでAmazonページへ

 説明をできるだけやさしくし、経済学の予備知識を持ち合わせていなくても、経済学の本格的な分析が理解できるように工夫した。各章の最初にその章で取り上げる課題を簡単に説明し、章末には議論のまとめのほかに練習問題(第Ⅰ部のみ)や参考文献を掲載した。

 序章「日本経済はなぜ停滞したのか?」では同書全体を貫く問題意識を明確にしている。戦後80年間の日本経済の歩みをたどり、華々しく戦後復興・高度成長・安定成長とフェイズを移行させ世界に冠たるものと評価された日本的経済システムが1980年代後半期のバブル経済を打ち上げ花火として、その炸裂(さくれつ)をきっかけとして、システム全体の機能不全を甘受せざるをえなくなった現実があると総括している。

 日本的経済システムは、長期間の雇用契約・下請け契約や、お得意様の顧客関係に象徴されるように、平常時で信頼感が醸成する安定した環境の下で万全に機能するが、外的な枠組みが急変したり、先行きの見通しが混とんとしたりする非日常時には試行錯誤に陥り機能不全となる。

非常時に弱い日本的経済システム

 1990年代以降、アメリカ型経済システムによるグローバル化が進む。日本は小さな政府や新自由主義構造改革を目指したが、日本的経済システムを一朝一夕に転換するのは容易ではなく、長期デフレ不況に苦しむこととなった。日本的経済システムはアメリカ型経済システムの持つ競争力、効率性、成長性などをケースバイケースで包含する折衷的なものになるとの見通しを示している。

 序章に続く第Ⅰ部「基礎編」では、日本経済の見方、企業、労働市場、社会保障、政府、金融、貿易をテーマとする章を設け、日本経済を概観する。

 第Ⅱ部「発展編」は、「日本経済の歩み」と「日本経済の課題」を論じる各章で構成する。「日本経済の歩み」の中には、「金融危機と日本経済」、「アベノミクスとは何だったのだろうか?」といった節がある。

各分野の制度や政策運営を評価

 「日本経済の課題」では、「子育て支援」、「外国人労働」、「グローバル化と経済安全保障への対応」、「デジタル・エコノミーと日本経済」、「AI(人工知能)と雇用」などの項目を取り扱っている。さまざまな分野での日本経済の現状、各分野のパフォーマンスや変遷、それらを支える制度や政策運営について解説・評価している。

 国民の教育水準(人的資本)や貿易に代表されるように、それぞれ課題もあるものの、全体的にはグローバル化した世界の中で日本経済の強さを象徴している分野があると説く。

 小峰隆夫、村田啓子著『 最新 日本経済入門[第7版] 』(日本評論社/2025年9月刊)の初版は1997年の刊行だ。両氏は内閣府出身の経済学者である。

『最新 日本経済入門[第7版]』(小峰隆夫、村田啓子著)。初版は1997年の刊行。著者の両氏は内閣府出身の経済学者。画像クリックでAmazonページへ
『最新 日本経済入門[第7版]』(小峰隆夫、村田啓子著)。初版は1997年の刊行。著者の両氏は内閣府出身の経済学者。画像クリックでAmazonページへ

最新のデータを活用して解説

 小峰氏は初版で、(1)できるだけ最新のデータと問題意識に基づいて解説する、(2)執筆者の正直な考えに基づいて日本経済の問題を説明する、という2つの特色を挙げた。第7版もこうした狙いを継続し、2020年の第6版以来の改訂に取り組んだ。「はじめに」では、第6版以後の日本経済の動きを以下のようにまとめている。

 2020年に安倍晋三首相が退陣し、「アベノミクス」と呼ばれる経済政策が終わった。同じく2020年には新型コロナウイルスが世界を大混乱に陥れ、2022年にはロシアがウクライナに侵攻した。これをきっかけに日本の物価は上昇し、長い間苦しんでいたデフレ状態から脱した。これを受けて、日本銀行による異次元緩和政策も2024年に終了した。

 産業面では、AIを中心とした技術革新が急速に進み始める一方、日本の成長率は低く、日本の財政事情は一段と悪化し、少子化もさらに加速している。

 第2次安倍政権の誕生後、異次元緩和政策が続き、毎年のように景気対策としての財政出動が繰り返されたため、著者は経済政策の授業で「教科書にはこう書いてあるが、現在は非常時的な課題が次々に現れてきており、教科書から離れた対応をしているのだ」と苦しい説明をせざるを得なかった。「日本経済はようやく教科書的な議論が通用するような時代を迎えたのではないか」との期待を表明している。

 序章「日本経済と経済の基本」では、著者の「経済観」を披露する。著者によると、多様な経済問題を扱うとき、ぜひ心がけるべきことは「整理して考える」こと。自分が取り入れようとしている情報、自分が扱おうとしている問題は、経済のどこに位置づけられるのかを常に考えておく必要がある。

4つの軸で経済問題を整理

 経済を整理するには、「誰が行うのか」(経済主体軸)、「どんな経済活動を行うのか」(経済活動軸)、「国内問題か国際問題か」(国境軸)、「どんなタイムスパンで考えるか」(時間軸)の4つの軸に従って位置づけを考えればよいと助言する。

 第1章「日本経済の全体像」、第2章「戦後日本の経済成長」で日本経済の現状と歴史を俯瞰(ふかん)した後、景気循環(第3章)、産業構造(第5章)、物価とインフレ・デフレ(第6章)、財政(第10章)、格差問題(第12章)、人口構造の変化(第14章)などの各章で日本経済をさまざまな角度から分析する。

 冒頭で「できるだけ最新のデータで」と述べている通り、統計データやグラフ、表を駆使して論じている。

 経済学、社会学、政治学など社会科学という学問の大きな特徴は「唯一の正解はない」ということであり、たくさんの議論がある中で、自分の主張を納得してもらうためにはどうしてもデータで裏付ける必要があると強調する。

 ただ、データは正しく使えば美味しい料理を作るための便利な道具となるが、使い方を誤るととんでもない凶器ともなる。データを凶器に変えないためには、我々一人一人がデータの内容を吟味しながら経済の議論に加わっていくことが必要だと注意を喚起している。

(後編を読む)

写真/スタジオキャスパー