EQが高いのはどのような人なのでしょうか。全世界でベストセラーになった 『EQ こころの知能指数』 (ダニエル・ゴールマン著/土屋京子訳/講談社+α文庫)では、EQを5つに分けて説明します。本書を、ヒトラボジェイピー社長の永田稔さんが読み解きます。 『ビジネスの名著を読む〔リーダーシップ編〕』 (日本経済新聞出版)から抜粋。

EQを5つに分ける

 EQとは、多様性の高い環境の中での必須能力と前回 「『EQ』 頭の良さや学歴は成功を約束するのか」 で述べました。それでは、EQが高い人とはどのような人でしょうか。『EQ こころの知能指数』では、EQを5つに分けて、その説明をしています。

 まず第1は「自分自身の感情を知る」ということです。自分がどのような感情の状態にあるのかを把握することはEQで最も重要なことです。感情の波に流されずコントロールするには、まず自分自身が「何に対し、どのような感情を持っているか」を把握することが不可欠です。

 第2に、自らの「感情を制御する」ことです。感情の発生自体はコントロールすることは難しいのですが、その持続時間や解消方法はコントロールすることができます。例えば、怒りという感情が起きたときに、その怒りがなぜ起こったのか、何に対し怒っているのかを自問することは怒りを静めることに有効であると示されています。

 第3は、「自身を動機づけられる」かです。才能を十分に発揮するためには、目標に向かって自分を動機づけられるかどうかが重要です。何年も訓練や学習を続けられる熱意や忍耐を持てるかどうか、また、不安な感情に陥った際にも、自分はできるはずだと諦めずに「希望」を持ち続けられるかどうかが、感情をコントロールし能力を発揮するためには重要なのです。

EQの1つは「感情を制御する」こと(写真/shutterstock)
EQの1つは「感情を制御する」こと(写真/shutterstock)
画像のクリックで拡大表示

 第4は、「他者の感情を認識する」ことです。他者の感情を敏感に受け止めることができる人、そして他者が何を求めているかを察知し行動できる人は優れたEQを持っている人といえます。

 そして第5は、「人間関係をうまく処理」できるか否かです。他者の感情を理解した上で、他者の感情や行動を望ましい方向に発展させるための行動がとれるかどうかです。そのような行動をとれるか否かで、多様な人間関係を円滑に保ち発展させられるかが決まります。

 EQの高い人は、以上のような特徴を持った人です。この5つを意識することで、自分自身の能力が十二分に発揮される状態になるとともに、メンバーの能力発揮を促すことが可能になります。このような要素を備えた人が、EQの高い人と呼ぶことができるでしょう。

「感情を知る」とはどのようなことか

 A社において、組織的にEQを高める取り組みが始まり、各管理職も自分自身のEQについて関心を持つようになりました。

 課長のYさんは自分のEQに関心を持ち、自分がEQを持っているのかどうか、高めるとしたらどうすればいいかを考え始めました。まず手始めに、現在の自分が、EQの観点からみるとどのような状態にあるのかを理解することから始めました。

 A社には職場会というものがあり、そこではいくつかの課が合同で集まり、自分たちが関心のある話題について、輪読会を行ったり講師を呼んだりして勉強をしていました。Yさんはその職場会を利用し、自分のEQを把握してみようと考えました。

 そのために、まず職場会にて『EQ』を輪読し、外部の講師を呼んだりしてEQの理解を深めました。それまで、EQというと感情を理解する能力という概略くらいしか理解していなかったのですが、本や講師の話を聞くにつれ、EQというものが単に他人の感情を理解する感受性の高さの尺度ではなく、自分自身の感情をいかにコントロールするかが大切ということを理解できる考え方であるのが分かりました。

外部講師を呼んでEQの理解を深めた(写真/shutterstock)
外部講師を呼んでEQの理解を深めた(写真/shutterstock)
画像のクリックで拡大表示

 外部の講師によると、EQで最も大切なのは、「自分自身の情動を知る」ということだそうです。

 Yさんは「情動を知るとはどのようなことでしょうか?」と講師に質問をしました。

 「Yさん、とてもいい質問をありがとうございます。ところで、Yさんは怒りっぽい方ですか?」
 「ええ、昔はすぐかっとなって、周囲から『瞬間湯沸かし器』と怖がられていました」

 「なるほど、相当怖かったんですね(笑)。ところで、最近は怒っているときはどのような心の状態でしょう? 怒りで頭がいっぱいの状態ですか? それともふと冷静になったりする瞬間もありますか?」
 「ああ、確かに時々、怒っている最中に『あれ、自分、なんでこんなに怒っているんだっけ』とふと我に返る瞬間がありますね。そうなると、すーっと怒りがひいていくような感覚になります」

 「なるほど、YさんはEQが高いですね(笑)。『あっ、自分が今怒っているな』ということに気づかれたんですね。そして、『なんでこんなに自分は怒っているんだ』と自分に問いかけた、ということですね」
 「そうです」
 「それが『感情を知る』ということです。『自分は怒っているな』と自分で内省的に意識している状態なのです。これはEQの基礎となる部分で、『自分が怒っている』という状態を認識しないと次に進めないのです。Yさん、怒っていることに気づいたあと、どうされたんですか?」

 「そう言われてみると、自分が怒っていることに気づいたあと、怒られている部下の様子を観察する気持ちの余裕ができました。自分が怒鳴っているので部下はすっかり萎縮していました。一方、自分も怒っているので、『なんでそうなったんだ』とか『何をやっていたんだ』とか、建設的な意見や指示をしていなかったことに気づきました」
 「それでどうしました?」と講師は尋ねました。

感情をコントロールする

 「部下の萎縮している様子や自分の感情的な態度に気づき、これではだめだと思い、まずは自分が冷静になろうと思いました」
 「冷静になれましたか?」
 「正直、怒りは残っていましたが、自分でも努めて怒りを抑えるようにしました。そして、部下に対して『今後どのようにすべきか考えよう』と持ちかけました」

 「怒りの感情を抑えながら、前向きな話に切り替えていったのですね」と講師は尋ねました。

 「できる限りそうしました。そうすると、萎縮していた部下も緊張がほぐれてくるのが分かりました。本人も怒られるのを承知で、勇気を出して早めの報告をしてきたのだなということも分かりました。そうなると、隠さずに勇気を出してきちんと報告してきたことを褒めてあげたい気持ちも出てきたりして。

 まあ、それは大げさですが、自分の頭はかなり冷静になり物事を十分考えられる状態になりました。そのような状態で自分も部下も、現在起きた事故への対策と今後の再発防止策を具体的に話し、方針を決めることができました」

 講師はここでいったん話を打ち切り、他の人の方を向き、話を始めました。

 「皆さん、今、Y課長がお話しくださったことがEQ、こころの知能指数が発揮された状態です。まず自身が怒っているなと把握したあと、感情をコントロールし感情に支配されていた思考が元に戻り、正しい考えや判断ができる状態になったということです。Yさん、怒りの感情でいっぱいのときは、頭が働きましたか?」

 「いや、全然働きませんでした。今、その時のことを振り返ると、物事を考えるという行為自体を忘れていた感じです」とYさんは答えました。

 「そうなんです。激しい感情は、時に理性を失わせてしまうのです。だからこそ、自分の感情を把握し自制してゆくことが大切なのです」

自問の効用

 他のメンバーが尋ねました。「感情の把握の大切さは分かりました。感情を把握する、自制するコツはあるんでしょうか?」

 「感情を把握し自制するコツとして、有効といわれている方法は2つあります。1つは、Y課長が行ったように、『自分はなぜ怒っているんだ』と自問することです。これをすることで、何が自分を感情的にさせているのかが把握でき、状況を客観視できます。

 もう1つは、感情の対象、例えば怒りの対象から距離を置くことです。皆さんにもこのような経験はありませんか? 誰かとけんかをして家を飛び出して歩いているうちに、だんだんと冷静になってきて『自分も言い過ぎたかな、帰って謝ろう』と考えるようになった経験です。感情を生起された対象から距離を置くというのは1つの有効な方法です。よって、会社でも自分が感情的になってしまったと感じたら、少しの時間でもいいのでいったん時間や距離を置いて、冷静な気持ちが出てきてから、改めて接するのは有効だと思います」

 講師は続けました。

 「冷静さを取り戻すことで、相手や状況のこともよく見えるようになります。Y課長が部下の方が萎縮していることに気づき、さらに部下の方が勇気をもって失敗を述べたことに対しても気持ちが回るようになりました。共感力も発揮されてきたのです。

 Y課長にもう少し望むことは、部下の方がもっとやる気が出るような動機づけをなされるといいと思います。先ほど、『隠さずに勇気を出したことを褒めたい気持ちも出てきた』と言っていましたが、その気持ちを部下の方に伝えるだけで、部下の方の正直さをしっかりと認知をしてあげたということで、部下の方はもっとやる気が出たと思います。部下の方がどのような動機づけを求めているのかを考えることもEQの重要な点です」

 「分かりました。これからは各部下が何を求めているのかを日々観察して動機づけていこうと思います」

 Y課長は今後のマネジメントにEQを取り込める手ごたえを感じていました。

『EQ こころの知能指数』の名言
『EQ こころの知能指数』の名言
画像のクリックで拡大表示


ビジネス・人生を変える20冊

カーネギー、スティーブン・コヴィーから井深大、本田宗一郎まで「名経営者・自己啓発の教え」を学ぶ。第一級の経営学者やコンサルタントが内容をコンパクトにまとめて解説。ポイントが短時間で身に付くお得な1冊。

高野研一(著)、日本経済新聞社(編)/日本経済新聞出版/2640円(税込み)