『売り方の正解 小さなお店が生き残る50のヒント』(竹内謙礼著)は、人も資金も足りない小さなお店や会社が行うべき販促・集客法を紹介しています。本書のエッセンスをひと言でいえば「アナログとデジタルのいいとこどり」。前回に続き、東京・蔵前の透明書店で行われた、本書の出版記念セミナーの内容を公開します。今回のテーマは「小さな会社のデジタル戦略」です。
生成AIに聞いても成功モデルは出てこない
前回は小さな会社のSNS(交流サイト)販促についてお話ししましたが、今回はデジタル戦略について考えたいと思います。これは、私が『売り方の正解』を書いた理由の1つでもあるのですが、小さな会社が大きな会社のデジタル戦略をまねして、失敗するケースが多いんですね。そこをどうにかしたいという思いがありました。
世の中には大企業の成功モデルは出回っているけれど、小さな会社の成功事例は出てきにくい。生成AIに聞いても答えは得られにくいのですが、これはそもそも知見が蓄積されていないからではと思います。

私は『日経MJ』の「竹内謙礼の顧客をキャッチ」という連載でスモールビジネスに焦点を当てて取材をしてきましたが、「こんな売り方は見たことない」という例にたくさん出くわします。
例えば、ネットショップであれば月商4000万~5000万円のお店のやり方を、月商100万円程度のお店がまねてもうまくいきません。ネット広告を使って集客してもかまわないのですが、果たして得られたデータを分析し、次の広告に生かすところまでできるでしょうか。
インフルエンサーを使った集客も、1人に声をかけて終わりではありません。商品を売り続けるためには、継続的に何百人、何千人と声をかけ続ける必要があります。
LINEの「Lステップ」(LINE公式アカウントAPIを利用する外部ツール)を使ったとしても、配信メッセージを書き、バナーやイベントをつくり…となると、大変な手間がかかります。
余談ですが、私の妻が金庫を買ったところ、毎週、メルマガで金庫の案内が届くようになりました。LINEではありませんが、そんなに毎週毎週、金庫はいりませんよね(笑)。その商品についての案内を毎週出してもお客に喜ばれるものであれば、小さな会社でもLINEは効果的です。
広島県東広島市のある電気店では、高齢者がカタログに丸をつけて、「この商品がほしい」とLINEを送ってくれるそうです。例えばエアコンの写真を撮って「このリモコンをなくしたから欲しい」と連絡が来る。こうした1対1の関係性を、LINEを通じて築けるのであればいいですよね。
小さな会社が行うべき3つの戦略
では、小さな会社が行うべきデジタル戦略は何なのでしょうか。ポイントは3つです。1つ目は「売っている人を打ち出す」。2つ目は「Googleマップの活用」。3つ目が「アナログを極めてからデジタルに投資する」。
まず「売っている人を打ち出す」ですが、世の中で売れているものは、「知っているもの」か「知っている人が売っているもの」です。「知っているもの」とは、ルイ・ヴィトンから折りたたみ自転車、マヨネーズまで、誰もが知っているので買います。スーパーに行って知らない卵を見て、「何だかよく分からないけど買ってみよう」とはなりませんよね。
では、「知っている人が売っているもの」は何かというと、例えば後輩を自分の行きつけのお店に連れていき、板長に「何かうまいもの出してやってよ」と頼むようなシチュエーション。この場合は値段と内容がよく分からなくても、先輩の知り合いの店だからと後輩はお金を払います。人間は知り合いからとなると、多少値段があやふやでも買います。

そして、売る側からすれば、お客の知っている人が売るほうが、価格競争に巻き込まれにくいので、利益率が高くなります。
だからこそ売る側は、売り手の人間を表に出していくべきです。人を知ってもらい、信頼してもらい、買ってもらうまでには2、3年はかかりますが。
商品力で勝負しようとしても、大企業のほうがコスパも性能もいいですから、小さな会社は「知っている人のキャラクター」を打ち出せる商品を売る必要があります。
商品の開発ストーリーを見せるという手もあります。苦労は見せるもので、隠すものではありません。香川県の西部製綿というふとん屋さんは、家族の話をよく発信します。なぜかと言えば、「家族の話はお客さんが感想を言いやすいから」。ビジネスの情報発信で一番つらいのは「誰も見ていないこと」だそうです。お客さんが反応しやすいのであれば、家族の話を書くのもアリです。
2つ目は「Googleマップの活用」。少し前まで「実店舗のある人はGoogleマップを使いましょう」というのが鉄則でした。しかし、生成AIの登場後は「生成AIに質問して自分の店が出てくるようにするにはどうしたらいいか」という、AEO(Answer Engine Optimization)対策が必要になってきました。
基本的にSEO(検索エンジン最適化)対策ができているサイトは、AIでも言及されやすいのですが、とりわけ重要なのがレビュー、お客様の声です。なぜレビューが大事かというと、生成AIで作成できないからです。そして日本では、Googleビジネスプロフィール(Googleマップに口コミや店舗情報を掲載できる無料のサービス)の口コミが優位で、口コミを集めれば集めるほど、生成AIに言及されやすくなります。
例えば、宮崎県宮崎市のある飲食店はチキン南蛮が有名です。お店の壁には「チキン南蛮の感想をGoogleマップに書いてください」と張り紙があります。すると「チキン南蛮、おいしかったです」という口コミが山ほど書かれる。その結果、宮崎市に着いた人が「チキン南蛮」と検索すると一発で上位にヒットするようになる。
また、人力車で浅草観光のサービスを提供している東京力車は7000件のレビューが書かれていて、評価が5.0です。7000件あるレビューの評価が5.0というのはすごいことですよ(編集部注:2026年3月時点でレビュー9000件以上、評価5.0)。
その秘密が知りたくて実際に乗ってみたところ、フォトスポットで写真を撮ってくれます。その写真もきちんと画像処理がされていて、とても上手。どんなスマホでもきれいに撮れるように研修を受けているそうです。「車夫になりたい」という応募も多いそうですが、向いていない人は無理に引き留めません。その結果、本当にやる気のある人だけが残り、それが高評価につながっています。
だから、これからビジネスを始める人は、「自分の店はどんなキーワードで検索されるのか」「どうやったら口コミで高評価を得られるか」を考えたほうがいいですね。
よく分からないカタカナの造語を考えるよりは、お客がネットで検索してすぐに、何を売っているのかが分かるのも大事です。ちなみに自作自演の口コミはバレたら即刻アウト。アカウントの取り消しになりますので注意してください。
まずチラシづくりから始める
3つ目は「アナログを極めてからデジタルに投資する」。これは前回もお話ししましたが、デジタル戦略の前に紙のチラシづくりから始めるのがいいと思います。別にアナログを推奨するわけではありませんが、あるネット広告会社でも新入社員にはまずチラシづくりからやらせるそうです。
なぜかというと、スマホの限られた画面の中に限られた情報を載せるのは、紙のチラシをつくるのと同じ原理だから。ネットには何でも詰め込めるけれど、チラシはサイズが限られたA4の紙の中に、買ってもらうための情報をすべて詰め込まなくてはなりません。チラシづくりは情報を取捨選択する訓練になります。
また、チラシをまくとレスポンスがあります。商材にもよりますが、住宅など価格の高いものは限りなく0%。ラーメン店なら7%ぐらいあるかもしれませんが、平均すると2~3%でしょう。チラシのレスポンスがさえなかった人が、ネットの広告を手がけたところでうまくいくはずがありません。
チラシを試して「どうして売れないんだろう」と感じたら、チラシを書く練習を行います。チラシなら月に一度ぐらいでしょうが、ネット広告だと毎日の仕事になります。月イチのチラシで売れなかった人が、毎日のネット広告で結果を出すのは極めて難しい。
そう考えると、アナログはデジタルの修行の場です。その中で「自分はこの方法なら続けられる」「情報発信ってけっこう楽しいな」という気づきがあればしめたもの。アナログを極めてからデジタルに移行しても、まったく遅くはありませんよ。
文/三浦香代子 構成/桜井保幸(日経BOOKプラス編集) 写真/木村輝
竹内謙礼著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)
