商品が完成してからどう売るかを考えるのではなく、誰の、どんな悩みに応えるのかを起点に商品を設計し、販売チャネルから逆算して仕様を決める。前編で議論した「どういいか(ベネフィット)」の設計は、マーケティング部門だけでなく、商品開発の現場においてこそ求められている。前回に引き続き、北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下勝寿氏とホットリンクの増岡宏紀氏が、商品開発やチャネル戦略について語り合った。[日経クロストレンド 2026年4月24日付の記事を転載]

北の達人コーポレーションの木下勝寿氏(写真右)と、ホットリンクの増岡宏紀氏(同左)
北の達人コーポレーションの木下勝寿氏(写真右)と、ホットリンクの増岡宏紀氏(同左)
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コミュニティは「意図的につくるもの」ではない

増岡宏紀氏(以下、増岡) 前回の対談の終盤で、コミュニティを意図的に構築・運営することの難しさについて話していただきました。木下さんが「そのリソースを商品開発に充てた方が成果は大きい」とおっしゃっていたのが印象的でした。後編では、商品開発の考え方について深掘りさせてください。

 御社は意識的にコミュニティをつくってきたわけではないと思いますが、熱心なファンが多い印象です。その点についてはどのようにお考えですか。

木下勝寿氏(以下、木下) そうですね、意識的にはつくっていません。他社のコミュニティ運営について聞いても、そこから直接生まれる売り上げは、大きいとまではいきません。

 熱心なファンが集まっているように見えても、継続的に好きでいてくれるという保証はありません。自然な形で、アフターフォローの延長として機能させるのはありですが、意図的につくり上げていくのはかなり難しいと思います。

増岡 私が書いた『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』(日経BP)でも、ファンサイトの運営はあまり推奨していません。

 ただ、場があること自体は悪くないと思っています。運営に手をかけなくても、熱心なファンが自然に声を上げてくれる場所になれば、商品改善に生かせる質の高いクチコミが集まります。無理に人を集めようとする必要はない、というのが基本的な考え方です。

 木下さんは、商品に関するクチコミをご覧になりますか?

木下 SNSのクチコミはそれほどチェックしていません。弊社には45歳以上のお客さまが多く、SNSをあまり利用していないからです。

 ただし、それは「45歳以上をターゲットにしている」ということではありません。「誰の悩みに応えるか」を起点に商品を設計した結果として、そういう層に届いているということです。悩みというのは年齢を重ねるにつれ深刻化するケースも多く、悩みが深い人ほど、お金をかけてでも解決しようとする。その結果として、購買意欲と継続購入の習慣が高い年代に自然と届いている、ということです。

「SNSのクチコミはそれほどチェックしていません」と木下氏
「SNSのクチコミはそれほどチェックしていません」と木下氏
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悩みを起点に商品を設計する

増岡 「誰をターゲットにするか」より「誰の悩みに応えるか」を起点にする場合、前回話していただいた「どういいか(ベネフィット)」「なぜいいか(機能・技術)」でいうと、商品開発のスタートはどういう流れになるんでしょうか。

木下 まず、社内で「こういう悩みがあるのではないか」という仮説を立てるところから始めます。ユーザーインタビューだけに頼ると、既存の発想の範囲内でしか答えが返ってきません。iPhoneもユーザーインタビューから生まれたわけではないですよね。仮説を先に持つことで、インタビューで的を絞った深掘りができます。

 例えば、白髪染めシャンプーのニーズをヒアリングしていると、そこから派生してブリーチ後のカラーシャンプーに対する悩みが見えてくることがあります。

増岡 テーマを絞らないと表面的な感想しか集まらない、というのはまさにその通りだと思います。弊社の場合、その仮説の材料になるのがUGC(ユーザー生成コンテンツ)です。クチコミを大量に見ていると「買いました」「良かったです」という一般的な声が大半を占めます。

 ただ、その中に他の人とは違う独自の視点でコメントしている方がいます。そういう少数のクチコミに着目して、「同じような投稿をしている人が他にもいないか」と視野を広げながら深掘りすることで、有益なインサイトが見えてきます。

木下 そもそも言語化しにくいニーズというものがありますよね。前回お話しした抗糖化サプリがまさにその例で、「お酒を飲む人向けの美肌サプリが欲しい」という声はユーザーインタビューでは出てきません。お酒を飲んだ後に肌が荒れることを「仕方がない」と思っている方がほとんどで、それ専用の商品が存在するとも想像していない。だからこそ、こちらから仮説を立てて提案するしかありません。

増岡 顧客自身が言葉にできていない悩みを発見して提案する。まさに真のベネフィット訴求だと思います。

「他の人とは違う独自の視点でコメントしている方」に着目して、有益なインサイトを発見しようとしている増岡氏
「他の人とは違う独自の視点でコメントしている方」に着目して、有益なインサイトを発見しようとしている増岡氏
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木下 商品開発に携わる人は、ベネフィットをベースに考えるのが苦手なケースが多い印象があります。「この成分が優れているんです」という機能の話に終始しがちです。

 そこで「それは買う人にとってどんなメリットになるの?」と問い返すのですが、「欲しいと思う人もいるのではないですか?」という答えが返ってくることがあります。しかし、「いるかもしれない」では商品として成立しないので、その時点でボツにします。技術者がマーケットを考慮せずに研究を深めることは、イノベーションの観点では必要なことです。ただ、弊社は事業として商品を出す立場なので、消費者にとってのベネフィットが見えなければ商品化はできません。

 一方で、開発者がマーケット視点を持ち過ぎると、今度は開発が前に進まなくなる。だから役割を分けて、開発者には技術を突き詰めてもらい、こちらからマーケティング視点で方向性を示す形にしています。

 例えば「糖化とはどういう現象ですか?」と聞いて「体が焦げるようなイメージ」という答えが返ってきたとき、それがお酒を飲んだ後の体の状態に近いと分かれば、「その状態にアプローチできる成分をもう少し高めに配合できないか」という会話につながります。

「使いたい」と「買いたい」は別物

木下 また、私は「使いたい」と「買いたい」は別物だと考えています。

 「こんな商品あったら使いたいですか?」と聞けば大抵の人が「使いたい」と答えます。ところが「3980円です」と価格を提示した途端に「買いたい」という回答が一気に減ります。「使いたいけど、そこまでお金は出したくない」という商品が実は多いんですよね。

 そこで、「買わない」と答えた人には、その理由を必ず聞きます。価格が理由なら商品化は難しいですが、「効果があるかどうか分からないから、お金は出せない」という回答なら、訴求の解像度を上げれば解決できる可能性があります。それでも難しければ、ボツにする。この判断を商品開発の段階でやっておくことが、後のマーケティングを大きく左右します。

増岡 売れないものをマーケティングするのは骨が折れますよね。

木下 そうですね。私もよく他社の方から「この商品が売れないのですが、どうしたらいいですか」という相談を受けます。答えはほぼ決まっていて「そこにリソースを注ぐより、売れる商品を作り直した方が早い」です。

 多くの企業が商品を完成させてから売り方を考え始めますが、手順が逆です。基本的には売り場から逆算して設計すべきです。ドラッグストアに置く商品であれば、どの棚にどう並ぶか、隣にはどんな商品があるか、その中で手に取ってもらうために何が必要かというところから決めていく。プロダクトアウトの発想のまま進んでしまうと、どれだけマーケティングに投資しても限界があります。

増岡 SNSも同じで、話題になっても売り上げに直結しないケースがよくあります。商品設計の段階で「どう話題にするか」まで考えておかないといけないということですね。

木下勝寿氏と増岡宏紀氏
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木下 そうなんです。バズっても売れないケースは非常に多い。一方で、何がSNSで反応を得られるのかを把握した上で、その仕掛けを商品の企画段階から組み込んでおけば、SNSでの話題化が自然と売り上げにつながります。

増岡 今伸びているコンテンツを分析して、「視点を変えるとこれが事業になりますよ」という提案ができると理想的ですね。

木下 定番ですが、論争が起きやすいテーマはバズりやすい。であれば、論争の火種を商品の設計段階から意図的に仕込んでしまう、という発想もあります。

 例えば、甘さとしょっぱさを際立たせた味にして「甘い」「いや、しょっぱい」という対立が自然に生まれるようにする。商品をめぐる論争そのものが、拡散のきっかけになるわけです。

増岡 面白いですね。「きのこの山・たけのこの里」論争のような状況を、意図的に設計するということですね。

木下 まさにそのイメージです。ただ、論争型のコンテンツも、プロセスエコノミー型も、どちらも一過性になりやすいという弱点があります。「100日後に○○を全部公開する」という形式は話題になりやすいですが、目標を達成した瞬間にコンテンツとしてのピークを迎えてしまう。論争も、決着がつくか飽きられた時点で終わってしまいます。

増岡 ストーリー仕立てのコンテンツは、ゴールが見えた時点で関心が薄れてしまいますよね。どうしても一過性になりやすい印象があります。

CPO(注文獲得単価)の上限を超えない事業運営

増岡 木下さんは100億円の売り上げを目指すときに、1つの事業で達成するのではなく、売り上げ10億円の事業を10種類立ち上げる方が、無理にマーケティングで広げずに済み、本当に必要としている人だけに売れる。その結果、利益率が高くなるという話をされていますよね。

 CPOを管理しながら利益率の高い顧客から順に獲得していくと、最初はイノベーター層を効率よく獲得できますが、アーリーアダプター層からその先の層になるにつれて、獲得効率が下がっていくと思います。CPOの上限を守りながら、どこまで獲得を広げるかはどう判断されているのでしょうか。

木下 他社と明確に異なるのは、CPOの上限以内で獲得できる数しか獲得しにいかない、ということです。例えば1年間の平均購入金額が1万5000円で粗利が1万円なら、上限CPOは1万円です。これを1円でも超えることは絶対にしません。発売当初は上限を少し超えても許容するという感覚を持つ会社が多いと思いますが、弊社はその段階から絶対に超えないようにしています。

 また、広告を長く運用すればCPOが下がるかというと、そんなことはありません。むしろ、イノベーター層から始まり徐々に広い層へ広げていくため、CPOは時間とともに上昇していくものです。広告の学習期間で多少の改善はありますが、2万円が1万円になるようなことは起きません。

 弊社の場合、広告の運用スキルは最初から高い水準にあるので、長く続けてもCPOが劇的に改善することはありません。上限CPO以内で利益を出せる上限まで達したら、その商品でそれ以上拡大しようとは考えません。

木下氏
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増岡 上限まで達した場合、既存顧客のLTV(顧客生涯価値)向上に注力していくということですか?

木下 そうでもありません。各商品には上限CPO内で獲得できるデイリーの上限件数があって、その水準を維持し続けるというのが基本方針です。

 顧客は常に入れ替わるので、例えば上限CPO内での獲得が1日100件であれば、その100件を取り続けていく。150件に増やそうとすれば上限CPOを超えてしまうので、そこには踏み込みません。

増岡 獲得広告の効率が下がってくると、認知施策にも取り組む企業も多いですよね。御社は、その点についてどうお考えでしょうか。

木下 認知やブランドイメージへの投資は少しずつ検討しているのですが、それよりも問題意識を持っている部分があります。

 弊社の「ヒアロディープパッチ」というマイクロニードル(微細な針)のシート商品は、ずっとレスポンス広告で売ってきました。ある程度市場ができたときに気付いたのですが、商品名が覚えにくく、お客さまが多数いるにもかかわらず、商品名を誰も正確に覚えていない。これは完全に弊社の失敗なのですが、お客さまの間では「マイクロニードル」という認識で定着していて、再購入する際も弊社の商品名が思い出されず、他社商品と横並びで比較される状態になってしまっています。

 これを受けて、ブランドを前面に押し出すのではなく、一度購入したことがある人にブランドを認識してもらえる状態をつくろうとしています。コミュニティで顧客を囲い込むのではなく、ユーザーをブランドに滞在させるというイメージです。

増岡 商品名は非常に重要ですよね。検索できない、入力しにくい、といったケースはよく見られます。

木下 名前に意味を込めようとすると覚えにくくなるので、今は社内で「名前に意味を込めるのは禁止」と決めています。意味のある名前にすると、商品名ではなくカテゴリー名として覚えられてしまいます。そうすると他社の商品と混同されてしまうので、あえて意味のない変な名前にするという方針です。

増岡 便益が伝わりやすい商品名にしている企業とは、全く逆の方向性ですね。

増岡氏
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認知施策とD2Cの相性

増岡 ブランドを覚えてもらうという観点では、UGC活用を含む認知施策の役割が大きいと思っています。認知施策の本質はブランド想起をつくることで、SNSのUGCは一度見ただけで購買に直結するものではなく、繰り返し目にすることで記憶に蓄積され、購買の瞬間に「これだ」と思い出すような積み重ねで機能するものです。

 スーパーやコンビニでの店頭接触など、日常の中でブランドに触れるきっかけが多い小売りは、この認知の積み重ねが自然に起きやすく、認知施策のレバレッジが効きやすい環境にあります。一方、D2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)はブランドと消費者の接点が自社サイトやモールに絞られる分、想起から購買につなげる設計をより意識的に組む必要がありそうです。

 先ほどヒアロディープパッチの話でブランド認知の重要性に触れていただきましたが、UGCを活用した認知設計という観点では今後どのようにお考えですか。

木下 D2Cの場合、自社サイトとモールに分けて考える必要があります。自社サイトとUGCの相性はあまりよくありません。自社サイトで販売する場合はレスポンス広告を起点にしており、広告を見て「いいな」と思った人がそのまま購入するという流れが基本です。

 テレビCMを打っても、その流入が自社サイトに向かうかというとそうではなく、まずはAmazonや楽天市場などのモールか店頭に行く人が多いです。そのため、マスメディアの効果はまず店頭に現れて、次にモールという順番ですね。

増岡 自社サイトへの流入にはあまりつながらない、ということですよね。

木下 そうです。だからこそ、自社サイトとモールは完全に独立させて考えるべきです。自社サイトで売ろうとすると、その瞬間にいかに購買を決断してもらうか、ということになります。訪問販売のように、その場で「買う・買わない」を決めてもらう必要があります。

 UGCを活用して売り上げを伸ばしている企業は、基本的にAmazonや楽天市場を主戦場にしています。モールやリアル店舗は、消費者が比較検討しながら購入を決める場所です。SNSで商品を発見した人も、実際に購入する際はモールへ向かうことがほとんどです。だからこそ、モールとの連動を設計することが最も重要だと考えています。

 自社サイトでもSNSやUGCの効果は多少あるとは思いますし、実際に弊社もこれからUGCに力を入れようとしていて、モールを受け皿にすることを考えています。

増岡 ということは、指名検索を取りにいくならモールに商品を置いておくことが前提になりますよね。

木下 そうです。どこでも買える商品なら、消費者はまずモールへ向かいます。「この商品が欲しい」と決まっていれば自社サイトに来ることもありますが、多くの場合はモールで比較しながら決めますよね。

 だからこそ、そのタイミングで第一想起を取れているかどうかが結果を左右します。皆さんも直近1カ月で購入したものを振り返ってみてください。自社サイトで買ったものよりモールで買ったものの方がはるかに多いはずです。

 弊社もこれまでモール内での競争を主戦場にしてきましたが、それだけでは厳しくなってきています。加えて、モール自体のアルゴリズムも変わっていて、外部から流入を連れてきた商品を上位に表示するようになってきています。

増岡 SNSからの流入がモール内での露出にも影響する、ということですね。SNSを直接的な売り上げ獲得の場としてだけでなく、モールへの送客という観点でも設計する必要があるわけですね。

木下 おっしゃる通りですね。自社サイトだけでがんばっても効率が悪く、四苦八苦しているケースが多い印象があります。

増岡 整理すると、UGCを通じて第一想起を獲得し、商品名を検索した消費者がモールで購入できる状態を整えておく。さらにそのSNS経由の流入がモールのアルゴリズムにも好影響を与える。この一連の構造を設計できるかどうかが重要ということですね。本当に勉強になりました。

木下 こちらこそ楽しかったです。

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(写真/村田和聡)

多くの企業が自社コミュニティを立ち上げたものの活性化せずに終わっています。その理由は「ゼロからコミュニティをつくる」という前提にあります。本書が提案するのは、従来の「ファンを囲い込む」発想とは真逆のアプローチ。熱量をもって活動している既存のコミュニティ――つまり「巨人の肩」に乗り、その中で自然に認知をとり、発話を生む方法です。SNSマーケティング支援企業で多くの実績を積んだ著者が、これまでの知見を体系化した再現性の高い実践ガイドです。

増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)