強みを磨いて差別化する――。頭では分かっていても、競合との違いを打ち出せずに悩むマーケターは多い。その背景には、商品の置かれている状況によって「どういいか(ベネフィット)」と「なぜいいか(機能・技術)」のどちらで訴えるべきかが変わる、という見落としがある。そこで今回から2回にわたり、北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下勝寿氏と、『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』(日経BP)の著者でホットリンクの増岡宏紀氏が、売れる商品・届く訴求の設計について語り合う。[日経クロストレンド 2026年4月17日付の記事を転載]

北の達人コーポレーションの木下勝寿氏(写真左)と、ホットリンクの増岡宏紀氏(同右)
北の達人コーポレーションの木下勝寿氏(写真左)と、ホットリンクの増岡宏紀氏(同右)
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コミュニティマーケティングの可能性とスケールの壁

増岡宏紀氏(以下、増岡) 2025年に私が出版した書籍『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』では、企業がゼロからコミュニティをつくるのではなく、すでに活性化している既存のコミュニティに「お邪魔する」という考え方を軸にしています。

 熱量の高い人たちが集まる既存のコミュニティを「巨人」と呼び、その肩に乗ることで自然なクチコミ(UGC=ユーザー生成コンテンツ)を生み出し、売り上げにつなげるという発想です。事前にお読みいただいたとのことで、率直な感想を聞かせてください。

木下勝寿氏(以下、木下) 「ここまでやらないといけないんだな」と思いましたね。ターゲティングをきちんと行っていくのが柱となっていますが、一方で危惧した部分でいうと、スケールしにくいのではないかと感じました。売り上げを100億円、200億円規模にしていくにはちょっと難しい手法であって、立ち上げ期や本当にコミュニティをつくっていく段階の話なんだなと。

増岡 そうですね。この本で解説した手法は、面で一気に広げるブランドマーケティングとは異なります。今の時代、人々は興味関心ベースでつながっているので、ターゲットを絞り込んで自分事として情報を届けていく積み上げ型のアプローチになります。そのため、単一のコミュニティだけを見ていくと、確かに上限が来てしまいます。

 一方で、もう一つ重視しているのがコミュニティから始まるUGCの波及効果です。ファンサイトを作るのとは少し違う方向で書いているのですが、囲い込んでしまうとその中でしか波及しません。しかし、SNS上のオープンなコミュニティの中で波及していくので、そのつながりだけでなく知り合いも含めてUGCが外に広がっていくのです。

木下 なるほど。SNSの中でターゲット層を細かく分けていくとフィット感は高まりますが、その分広がりにくくもなりますよね。それを大量のコミュニティで補っていく、ということですか?

増岡 弊社が支援した洋菓子チェーンのシャトレーゼの事例が分かりやすいのですが、必ずしも大量のコミュニティが必要なわけではありません。ケーキは多くの人が食べるので、対象にできるコミュニティがとても幅広いのです。

 そこでUGCを増やすSNS施策を支援させていただき、その結果数年後に売り上げが大きく伸長しました。UGCが新たなUGCを生み出し、企業が積極的にプロモーションをしなくてもユーザーが自発的に発信してくれるようになって、売り上げにつながったという事例です。

木下勝寿氏
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木下 勝寿 氏
北の達人コーポレーション 代表取締役社長
神戸市生まれ。大学在学中に学生企業を経験し、卒業後はリクルートに勤務。2002年、Eコマース企業の北海道・シーオー・ジェイピー(後の北の達人コーポレーション)を設立。独自のWebマーケティングと管理会計による経営手法で東証プライム上場を果たし、一代で時価総額1000億円企業に。著書に『売上最小化、利益最大化の法則』(ダイヤモンド社)の他、近刊に『戦わずして売る技術 クリック1つで市場を生み出す最強のWEBマーケティング術』(幻冬舎)など。XやYouTubeなどでも情報を発信しており、SNSの総フォロワー数30万人超

商品の置かれている状況でターゲットの解像度を変える

増岡 SNSの支援現場でよく感じるのですが、強みや差別化を必死に探しているにもかかわらず、企業側が伝えたいことが前に出過ぎて、顧客に届く言葉になっていないというケースが多くあります。

 木下さんの著書『戦わずして売る技術』(幻冬舎)を拝読して、まさにその話だと感じたのが、サプリメントのコンセプト設計のエピソードです。

 糖化を抑制する成分を配合したサプリがあったとして、「糖化対策サプリ」という打ち出し方だと誰に向けているのかがぼんやりしてしまう。一方、お酒が好きな人は糖化が起きやすいという科学的な事実に着目して、「お酒が好きな人のための美肌サプリ」にすると途端にコンセプトが鮮明になる、という話でしたよね。

木下 そうです。あれは薬機法との兼ね合いでボツになったのですが、面白い切り口ではありました。

増岡 ターゲットをここまで分解して解像度を上げた言葉にして初めて、本当に届くようになるんだと改めて思いました。

木下 ターゲットの解像度をどこまで上げるかは、商品の置かれている状況によって変わります。整理すると、「どういいか」と「なぜいいか」の違いです。

 「どういいか」とは要するにベネフィットで、「この商品を使うとこんなメリットがありますよ」という部分です。例えば、「小分けで食べやすい」とか「持ち運びやすい」といった話です。「なぜいいか」は、「こういう製法で作っているから効果が出る」という機能・技術面の訴求になります。

 例えば化粧品でいくと、今までになかったようなものを作るときは、オンリーワン訴求なんです。「こういうベネフィットがありますよ」という形で。しかし、美容液のような成熟した商品カテゴリーになると、差別化できるベネフィットはほぼ出尽くしています。

 市場がコモディティー化している場合は「どういいか」の差別化は無理なので、「他よりいい」という言い方になる。このときは結局「なぜいいか」の技術の訴求になるんです。この美容液はこういう製法で作っているから効果があるよ、という形です。

増岡 なるほど、「どういいか」か「なぜいいか」かは、市場の成熟度によって決まるわけですね。御社の商品はどちらのアプローチで設計されているんですか?

木下 基本的には「どういいか」、つまり他社にないものを作ることを優先しています。ただ、競合が参入してコモディティー化が進んでくると、今度は「他よりなぜいいか」という比較優位の訴求に切り替えていきます。なので、両方のアプローチがありますね。

 結局のところ、ベネフィットは「他にない」か「他よりいい」かなんです。よく使う例でいうと、Amazon.co.jpなどのモールとD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)の自社サイトとでは、売れる商品が変わります。モールで売れるのは「他よりいい」商品です。シャンプーを買おうとAmazonで「シャンプー」と検索すれば、ずらっと並びますよね。その中から選ばれるには他より優れている必要があります。

 一方、シャンプーが自社サイトで売れるかというと、絶対に売れません。シャンプーは世の中にいっぱいあると分かっているので、ネットでたまたまシャンプーを見てもその場で買わずに「Amazonで他の商品も探してみよう」となりますから。

 つまり、自社サイトで売れる商品は「他にない」オンリーワンに限られます。弊社の商品で言えば「ハンドピュレナ」が当てはまります。加齢とともに手が痩せて血管が浮き出てくるのをふっくら見せる商品なんですが、同じカテゴリーの商品はほとんど存在しません。欲しいと思っても何で検索すればいいか分からないので、Amazonでは検索すらできない。

 Amazonで売れる商品は、カテゴリーが確立されてコモディティー化しているものに限られます。ユニーク過ぎると、そもそも顧客がたどり着けなくなってしまうんです。差別化の方向性が商品の置かれている環境とかみ合っていない。本来オンリーワンで戦えるはずの商品なのに、無意識に他社との比較訴求になってしまっている。非常にもったいないと思います。

木下勝寿氏と増岡宏紀氏
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増岡 まず自社にオンリーワンになれる部分があるかどうかを正確に把握することが、すべての起点なんですね。

木下 ただ、オンリーワンとナンバーワンは固定ではなく、時間とともに変わります。基本的にはオンリーワンを目指すのですが、競合が参入してコモディティー化してくると、今度はその中でのナンバーワンを争う構図になります。

 例えば、糖質ゼロのビールは最初はオンリーワンでしたが、現在は多くのメーカーが参入して比較競争になっています。逆に言えば、最初に出した時点では「なぜいいか」をわざわざ説明する必要はなかった、ということになります。

小さなオンリーワンを積み重ねて、ナンバーワンへ

増岡 ホットリンクのSNS支援においては、ナンバーワン、つまりカテゴリー全体での第一想起を目指すケースが多いです。クライアントの商品の多くがコモディティー寄りで、完全なオンリーワンとは言えないことが多いためです。その中で、「どうすれば第一想起を獲得できるか」を考え、実行することが支援の中心になっています。

 しかし、アプローチとしては、市場全体でのナンバーワンをいきなり狙うわけではありません。細かいセグメントで見れば、オンリーワンになれる切り口が見えてきます。そうした小さなオンリーワンを積み重ねていった結果として、カテゴリー全体での第一想起が生まれる、という考え方です。

 そのためのアプローチとして、態度変容において第三者の推奨が持つ力は非常に強いため、UGCを増やしていくことが近道だと考えています。

木下 面白い視点ですね。顧客側から見ると「この商品はこの場面ではオンリーワンだよね」という認識が複数生まれていく。それが積み重なると、気付いたらそのブランドが第一想起になっているということですね。

増岡 その積み重ねこそが、冒頭に木下さんがおっしゃっていた「ここまでやらないといけないのか」という言葉の答えだと思います。

 ただ、細かくターゲットに届け続けることは難しく、1つのアカウントであらゆる訴求の投稿をすると情報が混在してしまい、誰に向けた発信かがぼやけます。その上、現在のSNSのアルゴリズムではフォロワーにもオーガニックでは投稿が届きにくいのが現状です。

 そこで弊社では、投稿ごとにターゲティングを変えながら広告を配信し、それぞれの訴求を届けたい層にだけ届ける設計にしています。ターゲット以外には表示されないので、競合に気付かれにくいという利点もあります。

木下 それはいいですね。特定の領域の施策を10個積み重ねても、市場全体を大まかに見ているだけの競合には見えてこない。テレビCMのような大々的な施策だと競合にすぐ把握されますし、関係のない人にも大量に届いてしまいます。

 一方、ターゲットに絞ったSNS広告は、興味がある人の間では認知されているのに、そうでない人にはほとんど知られていない、という状態をつくることができます。私自身、その形が理想的だと思っています。

増岡 確かにその観点もありますね。ただ、複数のコミュニティへの施策を一気にやるのは難しいので、まずは優先度の高いコミュニティを1~3つピックアップして施策を実行していきます。

増岡氏
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SNSは「マスメディア化」している

増岡 SNSの変化という点でいうと、現在は企業アカウントの投稿がオーガニックで伸びにくくなっています。

 ターゲットや訴求をどれだけ綿密に設計したとしても、ただ投稿するだけでは届かないのが実情です。コンバージョンを目的とした広告ではなく、認知獲得を目的とした広告を配信する手法を弊社では取っていますが、木下さんも情報が届かないメディア環境を実感されていますか?

木下 はい。SNSが完全にマスメディア化していると感じています。TikTokが台頭するまでは、SNSはフォローしている人の投稿が出る仕様だったのに、今はフォローしている人よりもおすすめのものが優先的に表示されます。フォローしていなくても人気の投稿が出てくるので、これはマスメディアと同じ構造だと捉えています。

増岡 そのメディア環境の中で恩恵を受けるのは、個人の投稿です。個人の方がおすすめに上がりやすいので、企業アカウントはオーガニックでは太刀打ちしにくい構造になっています。

木下 個人でXのアカウントを運用していて強く感じるのですが、とがったコンテンツより一般受けするものの方がアルゴリズムに乗りやすい。私の発信でも、マーケティングの話はほとんど広がらず、仕事術のような一般向けの内容の方が拡散されます。

 書籍も同じで、マーケティングをテーマにした本は読者層が限定されるので売れにくい。経営者・ビジネスマン向けの自己啓発本は売れやすいですが、それも「ビジネスマンでなくても読める内容」にして、広く届けるのが鉄則です。マスメディアの発想と同じですね。

木下氏
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増岡 かつてSNSはとがっているほどフォローされましたが、今はとがっていると広がらない。本当にマスメディアになってきていますよね。

木下 そうなんです。これまではテレビで認知を生んでSNSでファンをキャッチするという流れでしたが、今はSNS自体が認知を生む媒体になっています。

 フォローという形でファンを囲い込むことも難しくなっているので、SNSでつながった人をLINEなど直接コミュニケーションできる場所に誘導していく方が重要になってきていると感じています。

増岡 フォローするという行動自体が減っていますよね。レコメンドで出てくるので、フォローしなくても見られてしまう。

木下 まさにそうで、私のXの投稿に毎回いいねしているのにフォローしていない人が非常に多い。逆に私自身も、毎日投稿を目にするのにフォローしていないアカウントがあります。つながりを形成することが本当に難しくなっています。

自社メディア運営より広告活用の方が低コスト

増岡 企業アカウントにも、同様の難しさがあります。大衆受けするコンテンツの方がインプレッションが伸びやすく、商品と関係のないクイズや共感をあおる投稿の方が数字として出てしまう。インプレッションを取ろうとする企業がそういった投稿を増やす一方で、本来伝えたい「この商品が良い」という投稿がほとんど届かない。目的と手段が逆転している状態です。

 企業としては、SNSを広告媒体と同じように捉えて、広告を使いながら届けるという発想に切り替えた方が確実で効率的だと考えています。

木下 その感覚は強くあります。

増岡 ただ、「SNSも広告なしでは難しい」という話は、なかなか受け入れてもらえないのが現実です。「SNSは無料でやるものだ」「広告を使うのは逃げだ」という声は今も根強くあります。

木下 広告を出すというのは、他者が構築したメディアの力を必要な分だけお金を払って借りることだと認識しています。

 自社でメディアを運営する人件費や手間を含めて考えると、広告を活用した方がコストは低い。自社でテレビ局を作ってドラマを制作するより、既存のテレビ局に広告費を払う方が合理的なのと同じ話です。

増岡 まさにその通りで、コミュニティについても同じ論理が当てはまります。自社でコミュニティを運営するコストと、既存のコミュニティにアプローチするコストを比較すれば、後者の方が圧倒的に効率的です。自社コミュニティ運営の人件費を算出して、同額を既存コミュニティへの施策に充てた場合の売り上げを比べれば、どちらが効率的かは一目瞭然です。

 さらに自社コミュニティは、運営をやめた瞬間に誰もいなくなってしまいます。継続し続けなければならない点が最大の負担です。一方、既存のコミュニティにお邪魔してUGCを生み出す設計ができれば、その後は自走してくれます。

木下 そもそも、コミュニティをうまく機能させること自体が非常に難しいんです。成功しているケースを見ると、優秀な担当者が専任でいるか、経営者が直接関与しているかのどちらかです。だとすれば、そのリソースを商品開発やマーケティングに充てた方が、企業としての成果は大きいはずです。

木下氏と増岡氏
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(後編に続く)

(写真/村田和聡)

多くの企業が自社コミュニティを立ち上げたものの活性化せずに終わっています。その理由は「ゼロからコミュニティをつくる」という前提にあります。本書が提案するのは、従来の「ファンを囲い込む」発想とは真逆のアプローチ。熱量をもって活動している既存のコミュニティ――つまり「巨人の肩」に乗り、その中で自然に認知をとり、発話を生む方法です。SNSマーケティング支援企業で多くの実績を積んだ著者が、これまでの知見を体系化した再現性の高い実践ガイドです。

増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)