中高年男性ばかりが主導権を握る同質性集団の多くは、激動期に直面しても現状維持を選択し、長期停滞を招いてしまう。「サラリーマン社長」が経営する日本企業が、まさしくそのトラップにはまってしまった。では、男性中心の同質性集団は、どんなバイアスにとらわれてしまうのか。日経プレミアシリーズ『男子系企業の失敗』(ルディー和子著)から抜粋・再構成してお届けする。

欧州中央銀行総裁の発した警告

 1850年にリーマン兄弟が創立したリーマン・ブラザーズが、社名にブラザーズ(兄弟)だけでなく姉妹(シスターズ)を含めた会社だったら、2008年の金融危機も起こらなかったかもしれない――。

 米国の投資銀行リーマン・ブラザーズの経営陣に多くの女性が加わっていれば、トップは暴走せず高リスクの取引にのめり込みすぎることもなかっただろうという仮説が、2014年に英国の経済ジャーナルに発表された。

 ネタもとをたどると、きれいな銀髪がトレードマークのクリスティーヌ・ラガルド欧州中央銀行総裁が、フランスの財務相だったころの発言に行きつくようだ。リーマン・ショックについて意見を求められ、彼女は「取締役会など経営層への女性登用が増えれば組織が多様になり、短期的な集団思考に陥るリスクが低下する」と語っている。

 「リーマン・シスターズ仮説」論文では、金融行動において男女で大きな違いがあることが指摘されている。具体的には、リスク回避、不確実性への対応、そして、倫理や道徳的態度において、男女で違いがあるとしている。

 ラガルド総裁の発言にあった集団思考について、まず、考えてみたい。

 ラガルド総裁は多様性があれば集団思考に陥るリスクが低下すると言っている。つまり、日本の企業のような同質性集団は集団思考に陥る可能性が高いということだ。

 企業や政治組織はむろんのこと、日本の組織の多くが同質性集団だ。だが、同質性の高い集団のメンバー自身は、そのことにあまり気がつかない。

 例えば、自動車メーカーの男性社員に、「あなたは同質性集団の一員ですが、それについてどう思いますか?」と質問すれば、「確かに男性中心の集団であることは事実で、多様性がないという問題はある」と考えるだろうが、多様性欠如以外に、特に他に問題があるとは思っていないだろう。

 多様性はイノベーションをもたらすと繰り返し主張されているので、「同質性の高さはイノベーションをもたらさない」とは理解はしている。だが、集団の同質性そのものが、日本企業に大きな弊害をもたらしたとは思っていない。

世界屈指の投資銀行が破綻したのは、取締役会が男性ばかりだったから?(写真はイメージ)(写真:Sophie James/stock.adobe.com)
世界屈指の投資銀行が破綻したのは、取締役会が男性ばかりだったから?(写真はイメージ)(写真:Sophie James/stock.adobe.com)
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「私の組織のメンバーは個性豊か」の嘘

 社会心理学で「外集団同質性バイアス」と呼ばれる認知バイアスがある。同質性が高い集団のメンバーは、自分が属している集団のメンバー間には多様性があると認知する。そのくせ、自分が属していない外の集団に対しては、メンバー同士が互いに似ており同質性が高いと認知する。

 日本企業は戦後に確立された雇用制度によって、男性中心の同質性の高い集団となった。外から見れば――例えば海外から見れば――異様に同質性の高い男性集団だ。

 だが、多様性世界ランキングで最下位グループに入っていると騒がれるようになるまで、日本企業内のメンバーは、そのことが異様である、問題があるなどとは思わなかった。

 なぜなら、同質性バイアスという認知バイアスによって、自分が所属している内集団の多様性を外集団よりも高く認識するので、自分たちが似通った考え方、感じ方をしていることに気がつかないからだ。

 もともと、多くの男性社員は、自分たちがつくってきた集団の同質性が高いとは、外から言われるまでは意識していなかった。

 自分が属している集団の内部に常に注意を払う内向き傾向が高いので、内集団の人間関係の微妙な変化や雰囲気の細かい違いに敏感だ。

 自分が関係する上司だけをとりあげても、「Aさんは短気だがさっぱりした人、でも、約束ごとを守らない部下には厳しい」、「Bさんは常にあいまいで自分の意見を言っているようで言わない、結果が良くないと部下のせいにする傾向があるから要注意」、「CさんはAさんとは仲が良いがBさんとはライバル関係にある」……などなど。

 内集団のメンバーの言動や性格、それからメンバー同士の関係性に常に気を配っているので、一人ひとりの違いに目がいく。だから、「どこに同質性があるというのか」と反論したくなるくらいだろう。

 そのうえ、内集団バイアスといって、自分が所属する集団(内集団)のメンバーのほうが、それ以外の集団(外集団)のメンバーに比べて能力や人間性が優れていると認知する内集団びいきもある。だから、第三者の客観性をもって自分の集団、つまり自分の会社を観察することができない。外の人たちの立場から、自分の内集団(自社)を見る視点が欠けている。当然、外の人たちが自社をどう見ているかが把握できていない。

 そういった意味で、同質性集団の弊害の程度にしても過小評価する傾向がある。だから、外から圧力がかかるまで、自ら変革する必要を感じなかったというわけだ。

組織の「多様化」を誤解する人々

 多くの男性社員は、女性や外国人や中途採用の人員を増やす目的は、イノベーションを創出するためだと思っている。男性経営者ですら、そう考えている。

 多様な人材や考え方が存在することでイノベーションが創出されるというスローガンは間違っているわけではない。多様化が進めば、様々な新しいアイデアが生まれることは間違いない。

 だが、それでイノベーションが創出されるほど単純なものでもない。巷(ちまた)でよく言われているように、イノベーション創出のために、組織内容を同質的なものから多様なものに変えようとしているのであれば、短期的には、正の効果をすぐにはもたらさない、という意味で失望のほうが大きいだろう。

 多様性ある組織に変えるべきなのは、これまでの同質性の高い組織に大きな弊害があったからだ。多様性をうんぬんする前に、同質性がもたらした弊害を、まず認識する必要がある。

日経プレミアシリーズ『 男子系企業の失敗
中高年男性が経営の主導権を握る同質性集団が、長期停滞した原因は何か。「日本型組織」が抱える問題を、進化心理学や行動経済学など豊富な学識をベースに、様々な事例を交えて解説する。

ルディー和子著/日本経済新聞出版/990円(税込み)