中高年男性ばかりが主導権を握る同質性集団の多くは、激動期に直面しても現状維持を選択し、長期停滞を招いてしまう。「サラリーマン社長」が経営する日本企業が、まさしくそのトラップにはまってしまった。では男女に行動の違いはあるのか、あるなら、その理由は何か。日経プレミアシリーズ『男子系企業の失敗』(ルディー和子著)から抜粋・再構成してお届けする。
男女に違いがないなら、多様化は無意味
前回記事「 リーマン・『ブラザーズ&シスターズ』だったら破綻は防げた? 」で紹介したように、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズの経営陣に多くの女性が加わっていれば、リーマン・ブラザーズが破綻することもなく2008年の金融危機も起こらなかった、という説は正しいのだろうか。
ケンブリッジ経済学ジャーナルに発表された「リーマン・シスターズ仮説」では、行動経済学、生物学、神経科学に基づいて、性の違いが金融行動にもたらす重要な違いを、リスク回避、不確実性への対応、倫理や道徳的態度、そしてリーダーシップの4項目で説明している。
断っておかなくてはいけないが、男女の違いを挙げ連ねることは、「政治的に正しい(politically correct)」ことではないと考えるのが最近の主流になっている。よって、科学者までもが、性の違いが行動や態度に出ることを、生来のものと断言するのを控える傾向が見られる。代わりに、個人による違い、生まれてからの環境の違いなどを強調する。
たしかに、男子なら誰でも競争を好むわけではないし、反対に女子で競争を好む人もいるように個人差がある。また女子が控えめで意見を言わなかったり、威張ったり自慢したりするのを慎むのは、生まれ育った家庭やその後の社会環境でそういった教育を受けたからという考え方も正しい。
両親に「女らしくふるまいなさい」と幼児のころから言われれば、そういった女性に育つ可能性は高い。男子でも家庭や学校で受けたしつけや教育によっては、競争を避け傲慢な態度を見せない大人になるかもしれない。
だからといって、女性と男性はまったく同じ。性の違いで行動や態度に差が出るものではないと断言するのも科学的ではない。男性脳とか女性脳とかを取り上げた書籍がベストセラーになり、これに対しては、科学的な根拠が薄いと一部の科学者が批判した。筆者も、脳の仕組みの違いで男女の考え方や感じ方を比較することは控えたい。
だが、ホルモンや脳内化学物質(神経伝達物質)についての研究はかなり進んでいる。男性ホルモンが男性の競争心やリスクをとる行動を高めることは、多くの研究結果が証明している。
そもそも、男女で違いがないというのであれば、多様性を唱えて、女性管理職を増やしても何の役にも立たないことになってしまう。女性管理職のリーダーシップが男性管理職のリーダーシップと違うところで多様性が出てくるのだから。
金融危機に強い女性ファンド・マネジャー
というところで、「リーマン・シスターズ仮説」に戻る。
米国のヘッジファンドリサーチのリポートによると、2000年から2009年の間、女性が管理していたファンドのほうが男性が管理していたファンドよりもパフォーマンスが56%も良かった。金融危機真っただ中の2008年の後半に、男性は女性よりも2倍大きい損失を被っている。
男女の行動の違いを見ると、女性ファンド・マネジャーは、男性よりリスク回避をし、市場のボラティリティ(変動率)が高いときの対応が、男性より忍耐強く、自制心をもって不確実性に対応したという調査結果もある。
こういったジェンダーによる金融行動の違いをニューロファイナンス(金融神経学)の研究者は、男性ホルモンであるテストステロンと女性が多く持っているオキシトシンで説明することが多い。
テストステロンのレベルで、男性トレーダーの投資行動に違いが出る。男中心のトレーディングフロアでは、男のステータスをめぐっての争いが展開される。男同士のかけひき、ひけらかし、足の引っ張りあい、ライバルの蹴落としだ。
テストステロンのレベルが高いと、男性は自信過剰となり競争心を高めリスクをとる。つまり、テストステロンの高いレベルそのものが市場のボラティリティ(価格変動率)を高める原因となり、金融危機を引き起こす。
女性に多いオキシトシンは、共感性や絆を強めるホルモンと言われる。オキシトシンのレベルが女性に多いのは、このホルモンが妊娠や育児に深く関係しているからで、生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこしている母親の脳内にはオキシトシンが神経伝達物質としてたくさん放出され、他者への愛情(この場合は赤ちゃんへの母性愛)、信頼、絆を高めることで知られている。
男性が競争環境において「戦うか、逃げるか」という闘争・逃避反応をとるのに対して、女性はこういった反応はとらない。女性は不確実で複雑な状況において、利害関係よりも人間関係に注意を払い、状況に応じた融通性をもって対処する。それが、金融危機においての投資家の行動に表れていると分析されている。
要は、男性、女性、両方のトレーダーがいれば、あるいはまた、金融会社の経営陣にもっと女性が含まれていたら、2008年の金融危機は防げたかもしれない……というのが「リーマン・シスターズ仮説」の結論だ。
ルディー和子著/日本経済新聞出版/990円(税込み)

